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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
第3話 アナタはどこにいるの

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猫のウワサ 2

「随分遅かったねぇ。心配したよ」


 そう口にしながらも若干呆れたような顔を浮かべるのは、白髪交じりの髪をピッタリ撫でつけたオールバックの似合う壮年の男性。彼は総務部部長の滝川さん。言うまでもなく、我々の上司である。


「すみません、ちょっと色々ありまして…」


 私と染谷は2人揃って、部長のデスクの前で申し訳なさそうな顔で俯いている。

 一応、あの後宮地さんからは本当に書類を受け取り「付き合わせてゴメンね、僕のせいにしていいからさ」との言質も頂いたので、部長には印刷部で足止めを食らい遅くなったと経緯を説明した。


「…まぁ、そういうことにしておきましょう」


 どこまで信じて貰えたかはわからないが、とりあえずお咎め無しとなったことに安堵しながら染谷と共に席に戻る。


「災難でしたねー、先輩方」


 席に着いた私たちに声を掛けてくるのは、今年入社したばかりの後輩である須崎彩花さんだ。

 気の毒そうに話しかけてくる彼女だが、その顔には隠し切れない好奇心が浮かび上がっている。


「…で、本当のところなんで遅くなったんですか?」


 我慢できずそう聞いてくる後輩に、染谷はニヤニヤしながら「実は…」と話し始めようとするが、私はそんな染谷をジェスチャーで制止する。


「…それについては、今はやめておきましょう」


 チラリと滝川部長のほうを横目で見る。今はPCのモニターを真剣に眺めているが、私たちが無駄口を叩いていると気付けば聞きつけて注意しに来る可能性も十分にある。さっきお叱りを受けたばかりで早々にそんなことをするのは避けておくべきだろう。

 私の視線だけで察しの良い染谷はそれらの意図を汲み取ってくれたらしい…が


「じゃあ、今晩どこか飲みにいって話しますかぁ~」

「あ、いいですね。私はイケますよ」


 意図は察してくれても、話したがりな性分は止められなかったらしい。

 須崎さんも即座に了承し、今度は2人して「あとはお前だ」と言わんばかりに私の方を見る。


「…まぁ、たまにはいいか」


 若干呆れつつもそう答えると、2人は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 可愛い後輩たちめ、と思いつつ私はポケットからスマートフォンを取り出し、渉へ「今日は後輩と女子会して帰ります」とメッセージを送るのだった。


・・・・・・・・・・


「…ってことがあったわけよぉ~」

「へー、野良猫の溜まり場ですか。全然知らなかったなぁ」


 染谷はビールジョッキを傾けながら語り、須崎さんはレモンサワーをちびちびと口に運びつつ相槌を打つ。私は串からバラした焼き鳥を箸でつまみながらそんな2人を眺めている。

 定時後、私たちは駅前の大衆居酒屋へと移動し、酒と食事を楽しみつつ今日の昼にあった出来事について話していた。とはいえ話せることもそう多くなく、話し始めて5分ほどで経緯の説明は終わってしまったのだが。


「でも今時、野良猫に餌をあげる人なんているんですかね。そういうの近隣とのトラブルになるってよく言うじゃないですか」

「ま~そ~だよねぇ~、鳴き声とか臭いとかねぇ~」


 新卒の須崎さんから見ても今回の件は理解し難いらしい。

 一応、あの後宮地さんにも野良猫に餌を与えていないか確認したが


「しないしない。猫を眺めるのは好きだけど、トラブルになるようなことはしないよ。それに、野良だから可哀そうと思っても無責任に餌だけ与えるなんてことはしないさ」


 と全力で否定していた。

 

 しかし、そうなると猫に餌を与えている犯人を見つけるのは非常に難しい。

 無論周辺住民とのトラブル防止のためにもこんなことは止めさせるべきだが、私たちも仕事があるのにあんなところで一日中張り込んで監視をするわけにもいかないし、やはり上司に相談して監視カメラでも設置してもらうべきだろうか。

 そんなことを考えていると、不意に


「犯人は意外と子どもだったりするかもしれませんよ? よくあるじゃないですか、家でペットを飼えない子どもが廃屋や雑木林で野良猫なんかに餌やりしてるシーン」


 なんて笑いながら須崎さんが言ってきた。


「え~、でも子どもがわざわざ工場の敷地にまで入ってくるぅ~?」

「でも私、敷地のフェンスの一部に穴が開いてるって話をこの前聞きましたよ?」

「え~、何それ私知らな~い。本当なのそれぇ~?」

「印刷部の人がフェンスの修理依頼を出してきたって部長が話してるのを聞きました。書面を見たわけじゃないから確実なことは言えないですけど」

「ん~…じゃあ本当の話なのかねぇ~?」


 そんな染谷と須崎さんのやり取りを聞きつつ、私は考えていた。

 確かに、須崎さんの言う通り子どもが野良の動物に餌やりをするというのはあり得る話だ。これまで散々あがってきた近隣とのトラブルなんかも、子どもならば考えが至らなくてもおかしくはない。溜まり場に置かれていたのも紙皿とプラスチックの浅皿で、100円ショップで揃えられるようなものだ。水は水道で汲んでくればいいし、野菜はスーパーなんかで「ペット用に」と言えば廃棄されるキャベツの外葉なんかも貰えるだろう。そう考えると…


(意外とあり得るかもね)


 あくまで推測の域を出ないが、不思議と得心がいき一人うんうんと頷く。仮に子どもが餌やりをしているならば、放課後になる15時くらいがやってくるタイミングだろうか。今度そのくらいの時間にまた様子を見に行ってみよう―――


 なんて考えを巡らせていたのだが、気付けば対面の2人が何やら騒がしい。

 意識を切り替えてそちらに耳を傾けてみると…


「本当ですって! 営業部の同期から聞いたんですから!」

「営業の河野さんが外回りのついでに不倫してるってぇ~? 本当なら激ヤバ案件だよねぇ~」


 …もう猫の話には飽きたのか、先ほどまでとは全然違う社内の噂話で盛り上がっていた。


(何のために集まったんだか…)


 そう内心呆れる私だったが、まぁ野良猫のことなんてただの口実だ。染谷も須崎さんも、みんなこうして楽しく飲み食いしながらお喋りがしたいのだ。私も真面目な話は明日に置いておいて、2人との時間を楽しむとしよう。

 そう切り替えて、私も2人の話に加わっていった。

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