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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
1章 ワタシの知らないアナタ
2/27

恋のウワサ 2

 夫の話をしよう。

 彼の名前は秋本(あきもと)(わたる)。私の1つ年上で、いわゆるライトノベル作家だ。


 彼は以前からインターネット上の自作小説投稿サイトに定期的に自分で書いた作品をアップしていたが、大学在学中に連載していた作品がたまたまヒットし、サイト内ランキング上位にも載るほどの人気となった。その作品が大手出版社の目に留まったことで書籍化の話が舞い込み、そこから晴れてライトノベル作家としてデビューすることとなった。


 しかし、著作が書籍化し作家デビューしたとしてもいきなり売れっ子となることは出来なかったようで。デビュー作はそこそこ売れてまだシリーズが刊行されて続けているものの、映像化などのお声が掛かることは未だ無いらしい。それでも部数はそこそこ出ているらしいし、たまに読者からのファンレターなんかも頂いているようなので、本人は頑張って毎日執筆活動に勤しんでいる。


 そんな彼だが、執筆は基本的に自宅で行っている。つまり通勤にかかる時間はゼロ。企業勤めの身としては皮肉とかではなく、ただただ羨ましい。

 決められた勤務時間なんてものが無い彼だが、仕事の合間やキリ良く作業を終わらせた後なんかはそのまま家事をやってくれる。中でも得意なのが料理で、私が作る何倍も美味しいのだ。仕事に余裕がある時は時間がかかる煮込み料理や手間がかかる仕込みが必要な料理も作ってくれる。私はそんな旦那様の料理が大好きなのだ。


・・・・・・・・・・


「おいしー!!」


 思わず声が出るほど、今日も渉のご飯は美味しかった。

 今日の夕飯はカレーライス。私好みの野菜がゴロゴロ入っているタイプで食べ応えがある。市販のルーだけでなく数種類のスパイス使っているようで、その刺激のおかげで疲れた体に活力が漲っていくようだ。


「喜んでくれて嬉しいよ」


 渉はニコニコと笑顔でサラダを口にしている。


「毎日本当に助かるわ。いつもありがとうね」

「俺の方が家にいる時間が多いし気にしないでよ。それに洗濯とかはお任せしちゃってるし」

「そんなのお互い様よ」


 夫婦共働きのため家事は2人で分担していて、料理・掃除機かけ・風呂掃除は渉の担当だ。私の担当は洗濯・トイレ掃除・皿洗い・ゴミ出しがメイン。一般の夫婦の家事分担と真逆だな、と渉とよく笑いあっている。

 渉の原稿の締め切りが近いタイミングなんかは彼の手が回らないので少々変則的な分担になるが、それ以外は今のところ2人で上手く生活できていると思う。




 美味しい晩御飯と片付けの後は2人の軽い晩酌タイムだ。ダイニングテーブルからソファーに移動してお互いビールが注がれたグラスを傾けつつ、今日あったことやテレビやネットの話題について話し合う。やれSNSでバズったダンスだの、芸能人の結婚報道だのについて話していたら、ふと染谷との昼食時の話を思い出したので渉に尋ねてみた。


「そう言えば職場の後輩に、渉の話をするときは目尻が下がってるって言われたの。あんまり自覚ないんだけど…どう思う?」

「…俺の話をしている時のことを、俺に聞いてもわからないんじゃない? 聞くなら両親とかにした方がいいんじゃないか」


 うーん、確かにそうか。


「でも確かに菜瑞の笑う時って目尻が下がっててかわいいよね。いつものことだと思ってたんだけど…俺の前と、俺の話をする時だけなのか。なんかいいな」


 そう言ってニヤニヤと笑う渉。なんか腹立つ。

 気恥ずかしさもあるので急いで話題を変えることに。


「あ、あとその後輩から聞いたんだけど、別部署のアラフォーの課長さんが新卒の女の子と付き合ってるってウワサがあるんだって。私は別に恋愛なんて好きにさせてあげなよと思うんだけど、やっぱりみんなそういうウワサとか気になるのかな」

「アラフォーと新卒か…」


 渉が微妙な表情になった。


「まあその2人が仮に40歳と22歳だとして…やっぱり話題のインパクトは強いよな。親子ほどじゃないにしろ歳が離れ過ぎてる。下世話な話だけど、もしかしたらパパ活とかと疑われるかもしれない」

「あー、そういう可能性もあるか…」


 付き合っている、と言っても清いお付き合いとは限らない。グレーなイケナイ間柄かもしれないのだ。

 染谷が聞いた話には当然そう言ったものも含まれていたのだろうが、私に話す際にはマイルドにされていたのだろうか。なんだかんだ気遣いのできるやつだ。


「普通の恋愛だとしても、課長さんの方から声を掛けたのだとしたらいくら独身でも軽率過ぎるし、女性の方も警戒するに決まってる。逆に女性の方から声を掛けたとしたら、課長さんの方が断るべきだと思うけどな。課長さんなら新入社員とはいえ同じ会社の人間を知らないことはないだろうし、そもそもそんな年下の女性から声を掛けられるなんて普通何か裏があると感繰るはずだ」

「言われてみればそうね…」


 改めて考えてみると、このウワサは不自然なところが多い。

 渉の言う通り、どちらから声を掛けたにしてもそこからお付き合いに発展するのは話としては出来過ぎな気がする。

 そもそも今はまだ6月で、新入社員は新人研修中だ。営業部の課長と新入社員が接触する機会なんてほぼ無いはずで、どこで接点が出来たのかが謎だ。

 もっと以前から個人的に知り合った仲で、未だお互いに同じ会社で働いているのを知らない…なんて、それこそドラマのような展開があり得るのだろうか? 

 そして個人的に知り合ったとして、その出会いとはやはり…。


(…止めよう)


 このままだと妙な方向性にしか考えられない気がする。

 変な雰囲気になる前にこの話題は終わらせた方がいい。


「まぁ部署も違うから私には関係のない話だし、気にしない方がいいかな。新人さんが人間関係のトラブルとかに巻き込まれないよう祈っておくことにするわ」

「そうだな、その方がいい。変に首を突っ込んで巻き込まれたりしたら面倒だし」


 この話はそこで終わり、話題はまたとりとめのない別のものに変わっていった。

 そうして、数日後にはこんな話をしたことさえ忘れてしまうのだと何となく思っていた。


 ーーーそう、この時の私は微塵も考えていなかったのだ。

 この数日後、私には関係ないと思っていたトラブルに思いっきり巻き込まれることになるとは。

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