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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
第2話 アナタしか見えない

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彼のウワサ 1

「ど、どうして…どうして、そんなこと言うのさ。俺は…俺は君のために、何でもしてきたのに…」


 彼は泣きそうな顔になりながら、そう訴えてくる。


「そうね、アンタは私に何でもしてくれた。私も以前は、素直に嬉しいと思っていたわ」


 私は目を細め、彼を見つめる。そして―――


「でも、最近気づいたの。アンタが見ているのは私じゃないんだって」


 呆れるような目で、吐き捨てるように、そう言った。


――――――――――――――――――――


「そういえば、秋本先輩の旦那様ってどんな方なんですか?」

「は?」


 唐突な質問につい間抜けな返事をしてしまう。

 今は仕事の昼休み。職場の事務所内で女子3人で集まって昼食を食べながら談笑していたところだが、いきなりそんなことを聞かれ放心した私は口に入れようと箸でつまみ上げたブロッコリーをポロリと弁当箱の中に落としてしまった。口も開けたまま数秒停止していた私は、他所から見ればさぞ阿呆っぽく見えたことだろう。


「な、何でそんなこと知りたいのかしら?」


 我に返った私は若干顔を引きつらせながら聞き返す。


「いえ、普段のお話で秋本先輩が旦那様ラヴなのはひしひしと伝わってくるんですけど、具体的にどんな方なのかって話は聞いたことが無かったので」


 そう話すのは後輩の須崎(すざき)彩花(あやか)。今年新卒でここ百代(ももしろ)印刷に入社したばかりで、先月から私と同じ総務部に配属されたばかりのフレッシュな新人だ。彼女とは過去のとある騒動がきっかけで仲良くなり、最近はこうして一緒に昼食を食べる間柄になっている。

 いつも昼食を食べながらする話題と言えば趣味やら仕事やらの話がメインになるのだが、どうやら先ほどまで話していた家族の話題から私の旦那に興味が湧いたらしい。ちなみに彼女は両親大好きな一人っ子で、先ほどまでも先週末に両親と海までドライブに行った話をしていた。


「べ、別に普通の人よ。面白い話なんかないと思うけど」

「いえ、秋本先輩のことで面白くない話なんてないですよ!」

「いやそれは言い過ぎじゃ…」

「それに、あの秋本先輩の旦那様ですから! 先輩から見たら普通でも、私みたいな半人前からしたら凄い人だと思うんです!」


 『あの』って何だ。私を何だと思っているんだ。

 どうも例の騒動以降、須崎さんの私への態度がおかしい。おかしいというか振り切れているというか、尊敬を通り越して崇拝のレベルになっているのではないだろうかと思えてしまうほどだ。


 私・秋本(あきもと)菜瑞(なつみ)は今年の2月、かねてから交際していた男性・秋本(あきもと)(わたる)と入籍し夫婦となった。社内では結婚していることはオープンにしているし、結婚公表直後は色々な人に夫についてあれこれ聞かれたので同部署のほとんどの人は渉について知っていると思っていたが、須崎さんは最近総務部に配属されたので渉についてはほとんど知らないのだ。


(旦那の話ねぇ…)


 別に隠すようなことでもないのだが、ちょっと前に『旦那様の話の時はデレデレした表情で惚気まくっている』という指摘をされてから人前で彼の話をするのにはちょっと抵抗がある。


(どうしたものかな…)


 心の中でそんなことを考えていると、横から


「なつみ先輩の旦那様は~、将来有望な作家先生で~、高身長でイケメンで~、料理もできて優しい素敵な方なんですよねぇ~」


 そう割り込んできたのは同じく総務部の女子社員、2歳年下の後輩、染谷(そめや)涼香(すずか)だ。彼女とはかれこれ3年ほどの付き合いになるが、私が結婚を公表してからというものの私の旦那についてあることないこと含め話のネタにしがちだ。ちなみに『旦那様の話の時はデレデレした表情で惚気まくっている』という指摘もこの染谷からのものだ。


「ちょっと、そんなんじゃないって何度も言ってるでしょうが。私からしても美化し過ぎよそれは」


 確かに渉は身長はそこそこあるし料理上手で優しいが、猫背のせいでそこまで高身長に見えないし顔は普通だ。作家として食っていけるくらいには稼げているが、将来有望というのも断言できるようなことではない。…本人に言ったら落ち込みそうだが。


「染谷先輩は秋本先輩の旦那様のこと、詳しいんですか?」

「まあねぇ~、結婚公表の直後なんかはデレデレしながら自慢気に旦那様との惚気話をた~っくさん聞かされたからねぇ~」

「そうなんですか!? 私にも詳しく聞かせてください!」

「え~、どうしよっかなぁ~?」


 こちらをチラチラと見ながらニヤニヤと笑顔を浮かべる染谷。コイツに喋らせては先ほどのようにあることないこと言われそうだ。もう観念して自分から説明するしかないだろう。


「ま、待ちなさい! …わかった、話す、私から話すから」


 覚悟を決めて深呼吸。私から話すからには、渉の印象を損なわないよう子細正確に語らなくては。そして染谷の指摘通りのふやけた顔にならないよう気を付けなければ。私は表情を引き締め直すと、須崎さんに向き直り話し始めた。


「えっと…まず名前は秋本渉。さんずいに歩くと書いて渉ね。水を歩くと書くので『困難な中でも前へ進む』とか『障害を乗り越える』みたいな意味が込められた名前で…」

「いやなつみ先輩、そのくだり要らないって前にも言いましたよねぇ?」


 染谷に指摘され「うっ」と苦々しい顔になる。以前染谷にも「旦那様のこと教えてくださいよぉ~」と聞かれた際、今回同様に渉の名前の由来から渉の両親の話、そこから彼の家族構成について…と数分話したところで「はいストップ~、10分喋って旦那様ご本人の話が一切出てこないんでアウトです~、プレゼン下手過ぎですよぉ~」と窘められたことを思い出した。

 気を取り直して渉個人についての内容をメインに話を再開する。


「ええと、身長は178センチ。体重は…69キロだったかな。血液型はB型で誕生日が…」

「いや、だから初っ端からそんな詳細な情報要らないんですってばぁ。もっと端的にですねぇ」

「は? 端的って何よ。身長体重とか血液型は重要な情報でしょうが」

「いやいや、合コンやお見合いでいきなり身長体重から話し出すようなヤツいないでしょ~」

「これは合コンやお見合いじゃないのよ。須崎さんが渉のことを知りたいっていうから勘違いのないよう詳細まで詳らかに伝える必要が…」

「だからそれは~…」

「いやでも…」


 そんな良く分からない言い合いを始めた私達の姿を見た須崎さんは


「…秋本先輩が旦那様超絶ラヴってことは十分伝わりました」


 若干呆れた様子でそう言いながらお弁当を口にしていた。

本日より2話公開スタートとなります。

毎日投稿を予定しておりますので、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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