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ウワサ話のウラ話  作者: 紺堂
第1話 ワタシの知らないアナタ

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恋のウワサ 12(終)

 ここからはそれぞれの後日談だ。


 まずは浮気野郎の木下(きのした)雄一(ゆういち)氏。

 彼は浮気が奥様にバレたことで離婚を切り出され、有責者としてそれを受け入れざるをえなかったという。また離婚協議の際には木下課長を筆頭に実の家族からかなりの突き上げを喰らったらしく、元奥様に請求された慰謝料も減額要求などせず提示額をそのまま呑んだらしい。慰謝料の支払いで貯金がスッカラカンになり車や時計も手放す羽目になった、と嘆いていたそうだが「身から出た錆だ」と父親に一刀両断されて良い気味だったというのは木下課長の言だ。


 その木下課長こと木下(きのした)誠二(せいじ)氏。

 騒動後も以前と変わりなく仕事に明け暮れている…と思いきや実は結婚相談所に通っており、そこで出会った女性と最近婚約したそうだ。相手は3歳年下のバリキャリ女性で、既に両家の顔合わせも済ませ関係は良好とのこと。兄の離婚の直後ということで入籍日は少し先にしようという話になったらしいが、逆に縁起の良い日をじっくり選べると真面目な顔で言っていた。

 普段堅物なイメージのある課長が婚約報告の際に照れながら「実は…」と切り出してきたのはちょっと可愛いと思ってしまった。彼女さんもこの笑顔に射止められてしまったのだろうか。ウワサでは最近昇進の話も持ち上がっているらしいので、益々のご健勝を祈るばかりである。


 次に須崎(すざき)彩花(あやか)さん。

 彼女は実の家族である麗華さんと再会できたのがよほど嬉しかったらしく、その後は頻繁にやり取りをしたり一緒に過ごしているそうで、私にも姉とのお出掛けを報告してくる。この前は麗華さんに実の叔父を紹介してもらい、父と祖母の墓参りに行ったと言っていた。彼女がこれから少しずつでも失った家族との繋がりを取り戻していければいいなと思った。

 騒動後、安藤が根も葉もないデマを流していたということが周知されるとウワサはぱったりと止んだ。その影響か、彩花さんの雰囲気も以前より明るく柔らかくなったように思う。出会った当初は生真面目で思い詰めやすいタイプかと思ったが、こちらが本来の彼女なのかなと感じた。少し前に新人歓迎会と称した飲み会に参加した際には同期らしい人たちと明るく笑い合っている様子も目にしたので、騒動が解決して本当に良かった。


 そして彩花さんの姉である北原(きたはら)麗華(れいか)さん。

 当然ながら雄一氏とは破局。彼女は雄一氏が妻帯者であることを知らなかったが、奥様へ直接謝罪に行き、必要なら慰謝料を払うとまで言ったそうだ。ただ奥様は「知らなかったあなたも被害者」と彼女を許したそうで慰謝料の請求もなかったらしい。それどころか奥様から「雄一へ慰謝料請求をした方がいい」と助言までされたそうで、現在弁護士とやり取りをしている最中なんだとか。

 騒動後は彩花さんとの再会を心から喜んでいた麗華さんだが、最近は妹がべったり過ぎでうんざりしているようだ。この前一緒にお茶した時も「物心つく前に離れ離れになったんだから他人みたいなもん」とか「いい年してべったりし過ぎ」と呆れていたが、そう言いながらも表情には嬉しさが見え隠れしていた。先日彩花さんの両親とも初めて会ったそうだが、彩花さんが嫉妬するほどに須崎夫妻から猫可愛がりされたらしい。彼女がこれから少しずつでも家族の温かみを思い出していければいいなと思った。


 最後にウワサを流した張本人、各方面に迷惑を掛けまくった安藤(あんどう)圭佑(けいすけ)氏。

 彼はあの夜の謝罪から数日後に木下課長へ退職を申し出たらしく、それから約1か月後には会社から去っていった。結局木下課長は安藤のハラスメントについて上司には報告しなかったそうで、安藤は一身上の都合で自主退職という形になり僅かながら退職金も出た。聞いた話では、その金から彩花さん、麗華さん、木下課長にそれぞれ慰謝料を渡したいと弁護士づてに申し出があったようで、3人ともそれを受け入れたらしい。

 木下課長は「心を入れ替えて真面目に働くなら今回の件は水に流す」と言って一度は引き留めたそうだが、社内では既に騒動の顛末がウワサになっていたので、そのまま業務が続けられたかと言われると無理だったとは思う。まぁやらかした内容が内容なので全く同情はしないが。

 風のウワサでは北の方の実家に戻り農業を手伝っている、らしい。


 そして私と言えば―――。


・・・・・・・・・・


「秋本先輩、ご飯にしましょうよ!」


 そう笑顔で駆け寄ってくるのは須崎さん。その左手にはお弁当らしき包み、そして右手には染谷を引っ張ってきていた。

 

「須崎ってば何でそんなに元気なわけぇ~?」


 染谷は面倒そうな声を上げながらも、手にはいつも通り昼食が入ったコンビニ袋を下げている。そんな2人に向けて私は


「よし、お昼にしましょうか!」


 と笑顔で答えた。


 7月になり新入社員の研修も終了。須崎さんは配属先として総務部を希望し受理され、私や染谷の後輩となった。覚えることの多い総務部の業務に悪戦苦闘しているようだが、私や染谷のアドバイスで何とか乗り切っているようだ。半年も経てば立派な戦力になってくれるだろうと私も期待している。


 それはそれとして、例の騒動以降の須崎さんの態度はどうにも参ってしまう。というのも、誇張や自惚れでもなく彼女から私への尊敬の眼差しが凄いのだ。まるで私が何でもできる完璧超人と言わんばかりの尊敬具合で、配属初日の挨拶では「秋本先輩を尊敬していますので、先輩みたいになれるよう精進致します!」なんて部内の全員の前で言うもんだから頭を抱えてしまった。染谷からは「もはや信者ってレベルですねぇ~」と言われたほどだ。頼られるのは嬉しいのだが、そこまで持ち上げられると逆にプレッシャーになるので勘弁して欲しい。


 そんな須崎さんが私と染谷の昼食に混じるのも、もはやお決まりになってしまった。最初こそおずおずと「ご一緒してもいいですか?」と聞いてきた須崎さんだが、2週間も経つと今日のように染谷を引っ張って自分から声を掛けてくるようになった。なんともパワフルだ。


 今日もいつもの様に染谷の集めてきたウワサを聞きながら3人で食事をする。須崎さんは私と違い「マジですか!?」「く、詳しく聞きたいです!」と良いリアクションで続きを促してくるので、染谷としても話し甲斐があるのだろう。以前にも増して得意気にウワサを語るようになった。

 それ以外にも休みの日の過ごし方、流行りのトピック、駅前の新しい飲食店の情報など、様々な話をしながら食事は進んでいく。その中で今日は須崎さんから


「あ、それと今晩良ければ3人でご飯とかどうですか! 駅前でちょっと良さげなイタリアンのお店を見つけたんですけど」


 という提案があった。


「今日は金曜日ですし、遅くなっても問題ないかなって! お2人ともどうですか?」


 キラキラした目で私と染谷を見る須崎さん。私が悪いわけではないが、今日はどうしても定時ダッシュで帰宅しなければならない…というのにそんな目で見られると、断るのがとても申し訳なくなってしまう。

 などと考えていると、それを察したのか染谷がチッチッチと立てた人指し指を左右に振りながら


「須崎ぃ~ダメだって~、週末のなつみ先輩には~、旦那様とラブラブイチャイチャするっていう大切なイベントが待ってるんだからぁ~」


 なんてとんでもなく曲解したことを言いやがった。

 私が右目を引きつらせながら苦笑していると、それを見て何かを察したのか須崎さんが申し訳なさそうに謝ってきた。


「ご、ごめんなさい察しが悪くて…そうですよね、秋本先輩は新婚さんなんですし、週末は旦那様と2人きりでいちゃいちゃちゅっちゅしたいですよね…」


 おいコラお前も何てこと言ってくれるんじゃ。

 あんなに尊敬してますと言っている割には、こうして私に対してのイジリも欠かさないあたり強かなヤツだと思う。本当に将来が楽しみだ。

 やれやれと思いながら、コホンと咳払いをして須崎さんに向き直る。


「ま、まぁそういうわけだから、申し訳ないけど今日は遠慮させてもらうわ」


 残念そうな顔の彼女には申し訳ないが、私は左手の指輪をちらっと見てから2人に向かって


「今日は愛しの旦那様が、お家で待っているからね」


 笑顔でそう告げた。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

タイトルは(終)となっていますが、あと1話だけ続くのでお付き合いください。

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