1章 7話 父が…
近藤さんの2人目の子どもは、真と名付けられた。
梓は、真に会いたくて…
近藤の家に、ちょこちょこ通った。
真は、すくすくと大きくなって…
すごく…愛おしかった。
近藤さんがいない時に行くと、近藤の奥さんが…
「梓ちゃん、子ども好きなんだね…知らなかったよ。早く結婚して子どもを産めばいいのに…」
「私…結婚願望ないから…。でも子どもは可愛いから、これからも来ていい?」
「それは、全然いいんだけど…なんで結婚願望ないの?」
「うーん…なんでか自分でも分からない…」
そう言って誤魔化した。
それから、1年後…
入社した時から、仲が良かった同僚の葵が結婚することになった。
高校の時から付き合っていた彼とは別れて…
しばらくは落ち込んでたけど…
マッチングアプリで、新しい彼を見つけた。
その時も、散々自慢して…
「梓、マッチングアプリしてみたら?いいよー」
「私は、いいよ…」
「そう言わずに…登録してあげるから…」
「いや、マジで私はいいから…」
「ねー、前から聞こうと思ってたんだけど…どうして、彼氏作らないの?佐藤さんとも付き合わなかったし…好きな人でもいるとか?」
葵には、適当なことを言っても通用しない気がした。
適当な話をしたら、マッチングアプリに登録させられそう…
「実はさ…私、好きな人がいるんだ…」
「マジで?どこの誰よ」
「施設で一緒だった人…彼は、退園したんだけどね…いつか会おうって約束したの…」
「そうか…でも、会えてないんでしょ?そんな約束、信じてるの?」
「うん…どうしても会いたいから…これからも待つつもり…」
「うーん…でも梓の決意は強そうだし…仕方ないか…」
葵は、納得してくれたけど…
半分は嘘話だ…
葵は、それから彼氏と結婚式をした。
すごく、幸せそうだった…
結婚って、いいものだって私も知っている。
このまま、元に会えなかったら…
私は、ずっと1人だなぁ。
会社でも、どんどんお局さんになって来てるし…
上司も、まだ結婚しないの?とか平気で聞いてくる。
葵の結婚式でも、新しい出会いは沢山あったけど…
誰も、前世で繋がりがあった人はいなかった…
もしかしたら、もう元に会えないかもしれないという不安が襲ってくる…
それから、少しして…
アパートに人が訪ねて来た…
ピンポンが鳴り…
出てみると…
みすぼらしいオジサンが立っていた。
「なんでしょうか?」
「梓だろ?久しぶりだな…お父さんだよ」
もう顔も忘れていた…
こんな顔だったっけ?
「何のようですか?私はあなたに用事はないですけど…」
そう強く言い放った…
だってこの人は、私に酷いことをして母を死に追いやった人だ…
「実は、俺はもう長くないんだ…だから、一目おまえに会いたくて…」
「そう言われても…私は、あなたに会いたくないです。帰って下さい」
そして、扉をバンっと閉めた…
父は、暫らく…そこにいたようだったけど、
梓は、出なかった…
あんなに私とお母さんを苦しめた人なのに…
死ぬと聞いて…心が揺れた…
これが血というのか…
あの人は、前世で私の夫だった人だから…
情もあるのかもしれないけど…
梓は、その日は眠れなった…