1章 5話 恋をしたくても…
いつものように、近藤と飲み会の居酒屋に着いた。
近藤の隣には、知らない人がいる。
「あっ、梓ちゃん。この人は、取引先の佐藤くん」
「初めまして…神崎です」
「佐藤です。今日は、急に来ちゃってすみません…」
「いえいえ、いつも同じメンバーなんで…全然かまいませんよ」
「そうか、そうか…」
―――なんか、近藤さん企んでるな…
梓は、近藤に彼氏がいないということは話している。
彼氏は、今は要らないと話しているのに…
佐藤さんが、トイレに立った隙に…
「近藤さん、これなんですか?」
「ごめんごめん…特に意味はない…俺は、若い2人を引き合わせただけ…」
って笑いながら言ったけど、絶対に意味あるでしょ…
佐藤さんは、すごく誠実そうな人だった。
22歳で大卒で…容姿も悪くない…
すごく楽しそうな人で…
梓は、好感を持った。
後で、近藤さんに聞いた話だと…
佐藤さんも、梓のことを気に入っていたと…
でも、私は恋をしている場合じゃないんだ…
元を探さないと…
それでも、頼れる人は欲しかった…
休みの日は、お金を使うから出かけずに家にいる。
そんな毎日…
引きこもっていたのでは、元に会えない…
それからも、近藤と一緒に佐藤さんと会った。
そのうち、連絡先も交換して…
メールもするようになった。
佐藤さんは、本当にいい人だった…
私は、付き合うことは出来ないと思い…
まずは、自分は両親がいなくて…施設出身だということを話した。
そうすれば、引いてくれるかなって思った…
でも、それを聞いた佐藤は…
「梓さん、苦労したんだね…頑張って来たし…本当に頑張っているね…俺は、尊敬するよ」
そう言ってくれた…
見事に、梓の思惑は外れ…
「俺は、頑張っている梓さんが好きだよ…」
逆に、告白をされてしまった…
「私…今は自立したいんです。まずは1人で生きていけるようにしたいんです。だから…」
そう断ろうとしたら…佐藤さんは遮って…
「俺は、梓さんを支えたいんだ。まずは俺のことを知ってくれないかな?友達として…」
そう、言われると…
断れるわけない…
「友達としてなら…」
それから…
佐藤は、友達として…色々と梓に優しくしてくれた。
それは、天涯孤独の梓にとって…
すごく心強い…
時々、佐藤さんにフラッと行ってしまいそうな瞬間もあったけど…
それでは、何のために生まれ変わったのか分からない…
なんとか…
元を探し出さないと…
しかも、元に出会えたとしても…
前世の記憶を無くした元が、私を愛してくれるかも分からない…
それでも、私は元と愛し合うために生まれ変わったんだからと自分に言い聞かせた。
それから、佐藤と友達付き合いを始めて…
2年が経った…
―――私は、佐藤さんの好意を知っているのにズルいよね…ハッキリさせなきゃ
そう思っている矢先に…
佐藤が…
「俺は、今でも梓ちゃんが好きだよ。俺じゃ、彼氏になれないかな?」
佐藤のおかげで、毎日が寂しくなかった。
佐藤は、梓が自立したいというのを尊重してくれて…
近付き過ぎないように、距離もおいてくれて…
このまま、佐藤と付き合えばどんなに楽になるだろうか…
心が揺れる…