1章 4話 就職
家の片付けを済ませ…なんとか生活できるようになった。
そして、梓の入社式の日が来た。
緊張しながら、スーツをまとい会社に向かった。
その年、入社するのは3人…
梓は、総務部に配属されることになった。
総務部の中では、給与担当になることになった。
梓が、みんなに紹介される。
「神崎 梓です。何も分からないので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
みんなが、拍手してくれた。
―――今、会った人達に前世での知り合いはいないみたいだな…
何も分からない状況で戸惑う梓…
先輩の言うことを、ひたすらメモを取った。
それは、前世ではお母さんだった川野先生が教えてくれたことだ…
一生懸命、仕事をしていると…
出先から同じ部署と思われる人が帰って来た。
その人を見た途端…
梓は、誰かが分かった…
それは、前世の兄だった…
「君が、新入社員さんだね…近藤と言います。よろしくね」
「あっ、神崎梓です。よろしくお願いします」
―――兄に会えた…
―――前世の兄と違って…優しそうだな…
前世の兄も優しい人だったんだけど…
昔の兄は、怖いばかりの人だった。
本当は、妹思いなのにシャイで、すごく話しかけにくかった…
昼休憩になると、休憩室で手作りのお弁当を食べる。
梓は、同期で仲良くなった葵と昼ご飯を食べた。
同い年というのもあって、話が弾む…
「梓は、彼氏いるの?」
「いないよ。葵は?」
「高校の頃から付き合ってる彼がいるんだ…梓、可愛いからすぐ彼氏できそうなのに…」
「彼氏いるんだねー。私は、今は欲しくないかな…」
「どうして?」
「今は、自立しないと…」
「そうか…」
葵には、自分が施設出身だということは、話していたから物分かりがいい。
「総務部はどう?」
「仕事は、分からないことだらけだけど…いい人ばかりで良かったよ。葵はどうなの?」
葵は、営業部に配属されていた。
「営業の人は、基本出てるから良く分からないけど…先輩は優しいよ」
「そうか…それは良かった。お互いに頑張ろうね」
梓にとって、バイトとは違う仕事は新鮮だった。
それから、週末に総務部で梓の歓迎会が開かれた…
会社の近くの居酒屋…
梓は、飲めないけど、みんな楽しそうに酔っ払ってる。
近藤さんが隣に座って来て…
「神崎さん、仕事慣れた?」
「まだまだですね。覚えないといけないことばかりです」
「そうだよね。分からないことがあったらいつでも言ってよ」
「ありがとうございます」
「神崎さんは、どこの高校だったの?」
「○○高校です」
「それなら、地域も違うし…会ったことないよな…神崎さんに、何処かで会ったようね気がするのは気のせいか…」
「そうですね…私は、会ったことないと思います」
―――お兄ちゃん、何処かで会ったことがあるのは前世だよ…
そう、思いながら…
どこかでいつも男の人を敬遠してきた梓にとって…
近藤さんは、話しやすい男の人だった。
だから…近藤さんの誘いにも迷いなく応じた。
それからちょくちょく仕事に帰りに飲みに行った…
近藤さん自身は、彼女もいるみたいだし…
私に恋愛感情はないみたいだけど…
なぜか…放っておけないらしい…
なんか、本当にお兄ちゃんみたいな感じで…
一緒にいるのが楽しかった。
世話焼きのお兄ちゃん…
それから、梓は1人の男の人と出会うことになる…