1章 3話 退園
梓は、進学はせず就職をすることにした。
児童養護施設では、高校卒業と同時に退園しなければいけない…
進学すれば、卒業まで施設にいられる場合もある。
園長先生は
「進学しても、奨学金が受けられたり、ここにもいられる。だから梓が進学したければ進学してもいいんだぞ」
と言ってくれた…
現に、同級生で進学して施設の残る子もいた。
私だって、ここにいれば…前世のお父さんとお母さんと一緒にいられる…
その方が私も安心だけど…
いつまでも一緒にいられるわけじゃない。
早く自立して、元を探したい…
就職となると…寮がある所か、1人暮らしとなる。
梓は、それも踏まえて探すことにした。
そして…
数社、試験を受けて…
一人暮らしには、なるけど…
事務の仕事の会社に、採用されることになった。
園長先生の知り合いの不動産屋さんに頼んで
会社の近くに部屋を探して貰って、住む所も決めた。
そして…
梓は、高校を卒業した。
卒業式には、川野先生が来てくれた。
母は小学生の頃に亡くなったから
卒業式と入学式に来てくれるのは、いつも川野先生だった…
それから、卒業のお祝いの会をして貰って…
梓が、退園する時が来た…
園長先生や他の先生に見送られながら…
「今までお世話になりました。ありがとうございました」
「梓、いつでも遊びに来ていいからな、困ったり悩んだら、必ず相談に来なさい。待ってるからな」
園長先生が、そう言ってくれた。
「ありがとうございます。絶対に遊びに来ますね。っていうか、来させて下さい」
「待ってるよ」
梓は、泣きそうになるのを、グッとこらえた…
川野先生と男の先生が車に荷物を乗せてくれて
一緒に新しい家に向かった。
男の先生が、荷物を運んでくれて…
いよいよ、お別れの時が来た。
「梓、困ったらいつでも連絡してきてね。これ…私の連絡先だから…」
「ありがとう…」
「私にとって、梓は本当の子どもみたいだったんだよ…だから、出来たらちょくちょく連絡して。っていうか私がするかもしれない…」
「先生、ありがとう。連絡します。っていうか、待ってます」
川野先生は、泣いていた。
それを見たら、梓も涙が出てきた。
―――3歳から18歳まで、いつも前世のお母さんと一緒だった。
―――私は、幸せだったよ。
「元気でね」
「先生も身体に気を付けてね」
「またね…」
「また…」
梓は、涙が止まらなかった…
梓は、1人寂しく家に戻った。
これから、新しい生活が始まる。
前世では、一人暮らしをしたことが無かった…
期待と不安が入り混じる…
3歳からいた梓には、結構な貯金がたまっていた。
高校では、アルバイトもしたからな…
明日には、家具も届く…
まずは、生活できるようにしないと…
これから、忙しくなる。
4月1日には、入社式もあるし…
早く、落ち着いて…
とりあえず、仕事をして自立しなきゃね…
そして、早く元を探さないと…
でも、何の情報もないし…
元が生まれ変わっているかどうかも分からない…
前世では、生まれ変わりなんて信じてなかった…
でも、こうして生まれ変わったのには、意味があるはずだ…
そう、思うしかない…