95 ナワシクルン遺跡3
タブレットの調子が悪くもたつきながらの投稿でしたがここに来てやっと回復しました。
出来ればお休み中は連続投稿を目指したいと思っておりますが……
皆様お疲れの出ませんように新年をお迎え下さい。
読み終えた私は顔を上げる事が出来ず、はぁ……と息を吐く。カイと子爵は私が解読している途中でこの怪しげな文章に徐々に気づいていたらしいが、先ずは行けるところまで行けば落ち着くだろうと判断し好きに進めさせていたらしい。
「何かに取り憑かれたように一心不乱に解読し続けていたからのぉ」
ランベルティーニ子爵は自慢の(?)鼻髭をつまむようにして撫でながら何処か遠くを見ている。
「最初は俺も必死に止めたんだぜ。何か違わないかって。お前どうなってたんだ?」
カイが首を傾げている。誰の制止も聞かずに私は解読し続けていたらしいが、あの時、どういう状態だったっけ?
「それは、ご迷惑をお掛けしました。私としてはそんなに時間が経っていたという自覚がなくってですね。どうなっていたかと言えば……」
思い出せる限りの事をポツポツと口にしていく。
周りの音が消えていった事、どこに暗号に繋がる文字があるかを探さなくても金色に光って見えた事、最早考えなくても暗号が解けていった事。
「不思議な感覚だったんだよねぇ」
私の拙い説明に理解が追いつかなかったのか、カイとランベルティーニ子爵が怪訝な顔で視線を合わせている。
「金色と言ったか?」
「それに考えなくても暗号が解けるって事は……」
子爵とカイがそう口にしながらまさかという顔をする。
「それはエメラルドの魔力に『ヴィーラント法』が反応しているって事じゃないか……」
ポツリとリュディガーが言った。
「は?私の魔力が反応……って、別にそんな事した覚えないけど」
「だが没頭して記憶が曖昧な感じだったんだろ?魔力が漏れ出てても不思議じゃない」
「漏れ出てるだなんてそんな馬鹿な事ある訳ないじゃない、ねぇカイ?」
振り向けば引き攣ったカイの表情が目に入る。続いてその隣にいた子爵がぎゅっと目を閉じ右手を握りしめ口元を押さえている。ザァーっと血の気が引いた。
やった?私やらかしちゃったの?『ヴィーラント法』に魔力を通しちゃうってヤバくない?ヤバイんじゃないの!?
「ど、ど、ど、どーしようリュディガー!!わたし大事な『ヴィーラント法』にとんでもない事しちゃった!せっかくオジジがくれたのに」
あたふたとしてリュディガーのシャツを握りしめた。焦りからか心臓が早鐘を打ち呼吸も苦しくなってくる気がする。
「おい、落ち着けエメラルド。大丈夫だ」
リュディガーはそのまま座っていた私を抱き上げ優しく抱きしめてくれる。
「でも、だけど……」
「違う、大丈夫だから。とにかく気を静めろ、ほら」
涙ぐんでしまい恥ずかしさと後悔と、理由のわからない気持ちをどうすればいいか分からず気がつけば皆から離れた場所でリュディガーに抱きしめられたまま慰められていた。
「うぅ……グスッ、どうしよう」
数分後、少し気持ちが落ち着き、呼吸も楽になりやっとリュディガーから体を離すと目の前の彼のシャツは口では言えない状態になっていた。ビヨ〜ンと鼻水が伸びる。
「ぎゃっ!ごめんリュディガー」
「ハハッ、良いから」
素早くタオルで鼻を拭かれそのままチィーンとかまされる。これくらいの失態は一緒に育ったのだからリュディガーからしてみれば見慣れているだろうけど羞恥心が失われる訳ではない。
恥ずかしさを無理矢理飲み込み顔をあげると「いけるか?」との問に頷く。
まだ気持は平静とは言えないがカイ、子爵、そしていつの間にか来ていたピッポのいるテーブルに向かった。
「だからいつもエメラルドが興奮するとリュディガーを呼びに行くんだ。それが一番早い」
「なるほど、リュディガーが来るとエメラルドが落ち着くということか」
ちょ、ちょっと、なに恥ずかしい事を暴露してるのよピッポ!!
奴を睨みつけながらテーブルにつくと口をモグモグさせながらニヤニヤ笑われた。
「それって二人の相性が良いという事ですかね?」
「であろうな、一緒に育ったせいで気を許し易いというところもあるのかもしれぬが」
私が座った途端にカイと子爵が話しながらジッと見つめてくる。
「取り乱しまして、申し訳ありません」
子爵もいるのだからと丁寧に謝罪した。が、子爵は全く耳に入って無さそうに「先程の話だが」と切り出してくる。
「ゼバルド殿はいつもエメラルドと一緒に解読をするようにしていたというが、それはこの本を用いてという事で間違いないか?」
「え、はぁ、まぁそうですね。でもいつもはノートに写してから解読する様にと言われていたのである程度写した物を中心に作業していましたね。でもその作業も殆どこのファントムと呼ばれるものじゃなくて別の写本でした」
オジジが私にくれたのは幻と言われる貴重な写本だ。子どもが普段使いするにはお高過ぎる。
ふむふむと子爵とカイが頷く。最初はあれ程嫌がっていたカイが今では一番の理解者同士かのような態度だ。
「ゼバルド殿は気づいておられたのかも知れぬな。エメラルドの魔力が『ヴィーラント法』に反応するという事を」
「でしょうね」
二人だけの世界に入っている子爵とカイはその他を置き去りに話を進めていく。
「いつの時点で気づいたのでしょうね?」
「ふむ、考えるにエメラルドが文字を覚え解読に加わった頃であろうな」
「ですがいくら文字を覚え始めても解読出来るようになるまでかなり時間がかかるでしょう?文章を理解し解読という技術を身に着けるには……」
「あぁすみません」
二人の会話にリュディガーが割って入る。子爵とカイは居たのかって感じの視線を向けて来る。
「エメラルドは三歳で文字を覚え四歳前には本を読んでました」
「なんと本当か!?通常では考えられぬ習得の早さであるな!もしや天才、流石ゼバルド殿の養い子」
子爵はなんでもオジジの手柄にしたいらしい。まぁオジジが褒められるのは嬉しいけどね。
「という事であればエメラルドの魔力が『ヴィーラント法』に反応する事をゼバルド殿は早々に気づき、しかし幼いエメラルドには負担が大きいと思い当面『ヴィーラント法』から遠ざけた。という事でしょう」
体が小さい子どもの内は使える魔力が少ない為、積極的に魔導具を使わせるような事はしない。魔力の使い過ぎは大人も子どもも命の危険が伴うからだ。それに子どもの魔力の使い過ぎは体の成長を妨げる。だからオジジは私が無意識に『ヴィーラント法』に魔力を込めないように遠ざけていたのだろうか?
「成人を期に『ヴィーラント法』を渡したというのはそういう事だったのか。でもエメラルドはメルチェーデ号から乗った高速艇でも解読をしていましたが、このような状態にはなりませんでしたよ?」
それは、と子爵は私とリュディガーを見る。
「本当に安心して解読に集中出来る状況では無かった、ということであろう。長時間に渡る魔力の使用には繊細な技術が必要であるからな」
思わず隣のリュディガーを見上げた。彼も私を見下ろしていて……
「ふぐっ!」
目が合った途端、急に恥ずかしくなり変な声が出てしまう。慌てて視線を逸らした方向にカイがいて何故か少し悔しそう顔をしている気がした。でもそれは一瞬で、直ぐに子爵へ目を向ける。
「ではリュディガーが側に居て、図らずも私達が解読に加わっていない状態で独りで集中した結果、魔力を込める事ができた。ということですね。そうなら恐らく……」
「ふむ、であろうなぁ……」
子爵とカイはそこでこれまでにない深い呼吸をした。
「この『ヴィーラント法』は、魔導具で、しかも原本ということか」
呟くようにランベルティーニ子爵が言った。
読んで頂いてありがとうございます。
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