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94 ナワシクルン遺跡2

 もんもんとした夜を過ごし、浅い睡眠しか取れなかったがやっと朝を迎えた。

 私があまり眠れなかった事は同室のサイラには既にバレているだろう。彼女は私が体を起こすと素早く身支度を整え私の元にやって来ると挨拶をし、直ぐ私の支度も手伝ってくれ一緒に部屋から出た。

 

 廊下には護衛のイーロが立っていた。

 

「おはようございます。もう起きたのですか?」

 

 彼とは初対面ではそこそこ話したがその後はそれ程の付き合いがないまま今に至る。雇われの身になったせいか言葉遣いが変わっている。

 

「おはよう」

 

 起き抜けな事もあり覇気のない返事をするとトボトボと食堂へ向う。勿論早すぎてまだ朝食の準備は整っていない感じで、ふと外へ出てみようかと思った。

 雨続きで足止めされていたがほぼ気絶状態で数日経っているのだから流石に川の水も引いているんじゃないだろうか。ドアを開けまだ薄暗い感じの景色を見渡す。人気は無くひんやりした空気を吸い込むと少しだけ目が冴えてきた気がした。

 

「川ってあっちよね?」

 

 付いてきてくれているサイラを振り返るとイーロまでいた。

 

「護衛なんで」

 

 私と目が合うと何も言ってないのにそう言って頷く。

 

「因みにあちらが川であってます」

「危険ですから行けませんよ」

 

 すかさずサイラが止めてくる。

 

「どうして?雨は止んでるじゃない。水が引かないの?」

「いえ、水は引きましたがまだ橋に流木なんかが引っ掛かって片付けが済んでないのです。恐らく出発は明日になるとの事です」

 

 橋自体は壊れなかったがまだ馬車が通れる状態では無いらしい。

 

「向こうの林辺りが散策にはオススメですよ」

 

 イーロは私が散歩したがっていると思ったのか川と反対の方向を指差している。示された方向へ行くともなしに進むと民家の前を通り林へ入って行く。鳥のさえずりが聞こえ爽やかな感じだが湿った地面が泥濘んでいる場所もある。それを避けながら時間を潰すようにブラブラと歩いている。

 

 いつもならこんな時直ぐに解読の続きに取り掛かるのに。

 

 昨夜のノートの内容に違和感があり、カイが言ったという「失敗」の言葉に尻込みしてしまう。

 いくらか林の中を進んだが段々と落ち着かない気持ちになり足を止めた。スゥーッと息を吸い込み自問自答する。

 

 オジジがいつも言ってたじゃない。失敗は次はそれと違う方向へ行けばいいという事に気付かされるから無駄じゃないって。

 

「良し、帰る」

 

 くるりと振り返るとサイラがニッコリと笑った。

 

「良かったです。ですが解読はお食事を済ませてからですよ」

「……はい、わかりました」





 宿に帰ってくるとリュディガーとカイが外に出ていた。リュディガーが落ち着いているのはイーロが一緒だとわかっての事だろう。もしかすると私が出て行く時見かけていたのかも知れない。


「エメラルド……見たのか?」


 カイが遠慮がちに聞いてくる。もちろん解読の事だろう。


「ちょっとだけ。食事の後にキチンと見るよ」

「そうか、まぁ、気を落とさずな」


 くっそう、失敗だって決めてかかってるなぁ。


 腹は立つが確かに怪しい文章に仕上がっている気配は拭えない。自分を抑えつつ宿に入ると直ぐの食堂にランベルティーニ子爵がいた。


「おはようございます、あ」


 挨拶をしてから平民から話しかけちゃいけないことを思い出した。


「申し訳ございません」

「何を今さら。それよりここに座るが良い。散歩に出れるくらいなら食事もここで出来るのであろう?」


 怒っている訳では無さそうだけど、貴族と同じテーブル、まして向い合せなんて体調が万全じゃない今の私には負担が大きくない?


「はい、あ、いえ。私はあちらで……」

「私が椅子を引いてやるから座らぬか?」

「いえ、自分で座れます。失礼致します」


 どうしてこうなった!?


 リュディガーとカイは子爵の後ろ側のテーブルにつき、こちらを見ながら食べている。

 正面のランベルティーニ子爵は宿の質素な食事をマナーに則り静かに美しく食していく。私も気は進まないが教えられた通りなんとか失礼のないように食事を摂っていく。


「エメラルド、体調は本当に大丈夫か?明日から再び王都へ向けて旅が始まる予定であるが」

「は、はい。もう平気です。それより気になる事があります」

「ふむ」


 子爵は食べ終えるとナプキンを持ち丁寧な手つきで口元を押さえる。


「『ヴィーラント法』の解読の事であるな」

「はい、子爵様もお読みになりましたか?」

「無論だ」

「それでご感想は?」

「……」


 何も答えず食後のお茶をひと口飲んだ。殊更無表情な顔をしているのを見るかぎり正確な解読と思っていない様子だ。


「やっぱり失敗ですかね?」


 さっきまでの意気込みはすっかり引っ込んでしまい、気持ちが沈む。失敗だって大丈夫だと言う気持ちで戻って来たのにヘナチョコな私の心が残念過ぎる。


「いや、私はそうは思わぬ」

「え?」

「アレは失敗と呼ぶには違和感が有り過ぎる」

「違和感ですか?」

「そうだ。おかしな文章ではあるが、『ヴィーラント法』に相応しくない文章というだけで、もしアレが別の書物にあった文章なら正確な解読だと納得出来なくもない」

「確かに」


 古代文明の謎が記されているであろう『ヴィーラント法』だからこそあの文章は違和感ありまくりだが、普通の本ならそこまでおかしくない。ちょっとはおかしいけど。


「そうですよね」


 子爵の言葉に再び気持ちが浮上しマナーを無視して大口で食事を済ませるとサイラに皿を下げてもらい、携帯していた特級ケースを開いた。


 ざざっとリュディガーとカイも無言で素早く寄ってくるとテーブルをくっつけ皆で解読していた時のような体制を作った。頭を突き合わせテーブルに置いた私のノートを魔力を込めて開く。


「では、読みます」


 深呼吸すると冒頭から声に出して解読した文章を読み始めた。



『我こそは、この本の著者コンスタン。

 よくぞここまで辿り着いたな諸君。この暗号を解くとはなかなかやるじゃないか。よく勉強したんだな、感心感心。


 さて諸君は暗号を解読した事でこの本の全てを理解出来るつもりでいただろうがそうは問屋が卸さない。研究者というものは与えられるばかりではいずれ自ら考える事をおざなりにし本分を見誤る事になる。そうなれば本末転倒だ。研究者は研究してこそその存在意義があるのだからな。


 さて、今回のミッションだが、諸君の探究心が本物であるかどうかを試させてもらう事にした。

 そう眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をするんじゃない。ただでさえ我の愛くるしい愛娘がちっちゃい可愛いお顔に似合わない小さい小さい皺を眉間に寄せて我に「パパ嫌い」と言ってくる事に深いダメージを負っているのにこれ以上誰の皺も見たくない。

 ミッションというのは我が開発した素晴らしい魔導具が何処にあるかを探し出すという簡単なものだ。

 ヒントから謎を解き、お宝ゲットの為に大陸中を旅できるという特典付きだ。無論費用は自身で持ってくれたまえ。

 では幸運を祈る。あまり長い暗号だと気持ちがダレてしまうであろうからここらで切り上げよう。我は理解ある上司であるからな。


 では第一ヒーント。


「見ることは出来ないが入る事は出来る」


 無事たどり着いた者は我の解説付きで素晴らしい魔導具を堪能することが出来るであろう。健闘を祈る!』




 一気に読み終え気力も期待もなにもかもが抉られた気持ちになってしまった。なんて緊張感の無い文章なんだ。


 ドン引きだよ。



 

 

 

 

 

読んで頂いてありがとうございます。

面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価、宜しくお願いします。


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