92 夢の中4?
「やっぱり駄目かぁ」
嫌だ嫌だと藻掻く私を連れパパはママがいる部屋から出た。さっきの大きな硝子窓がある部屋ではなく廊下側へ出ると「ほぉ~ら、高い高い」と言いながら私の体をふわりと持ち上げる。そのままくるくる回りだし私は何故かよくわからない浮遊感とパパの笑顔に笑ってしまった。
「キャハハッ、パパ、もっと!」
廊下を進みながらそんな事をしているとたどり着いた場所でパパはすっかり目を回していた。
「エ、エメラルド、ちょっと、休憩……」
目を回したパパが座り込んだところはどうやら食堂らしく、どこからともなくいい匂いが漂う。私は四方囲まれたサークルの中に入れられパパの回復を待っていた。
「パパ、大丈夫?」
上手く話せないが木製サークルの隙間から手を出してパパの頭をペチペチと叩く。
「大丈夫だ、ちょっと休めば」
力なく答えるパパにため息をついているとクスクス笑う声が聞こえた。
「コンスタンさん大丈夫ですか?」
見ると若い男がへばっているパパの横のテーブルにトレーを持ってくると座った。
「あぁ、ジムか、ちょっとエメラルド見ててくれ。水持って来る」
「良いっすよ、ここで食べてるんで」
パパはヨロヨロ立ち上がり何処かへ行く。
「パパッ」
「大丈夫だ、すぐ戻るよ」
いや私じゃなくてあなたの心配だよ。ほらふらついて、あぁあ、誰かにぶつかりそうになってるじゃない。
「もぉ~パパ、駄目ね」
目で追いながらそう言うとジムと呼ばれた男がそばに来てまたクスクス笑う。
「本当にちっこいのによく話すなぁ。コンスタンさんがウチのコは天才だって騒ぐ気持ちがわかるよ」
どうやら私は年齢の割に言葉の習得が早いらしい。
「流石コンスタンさんとルイーズさんの子どもだな」
ジムの後ろからもう一人知らない男が来た。
「コンスタンさんって魔導具の開発者としては天才だと言われてるけど頭良すぎて変態だよな」
「確かに」
ハハハと笑い合うジムともう一人の男の声に一人、また一人と人が集まって来る。
「きゃー可愛い。エメラルドちゃんでしょう?」
「絶対こんな子が生まれるっていうなら直ぐにでも産みたいわ」
若い女子達がキュンとしたような顔をして私を見ている。
ま、仕方ないよね。可愛いは正義だから。
「あぁこらこら皆騒ぎすぎ。エメラルドがびっくりするじゃないか」
なんとか回復したらしいパパが戻って来ると騒ぎの中心にいた私を抱き上げる。
「ジム、ありがとう」
面倒を見てくれた礼を言って皆に惜しまれながら私達はまた移動していく。あっちふらふら、こっちふらふらとしながら最終的に人気のない中庭らしき場所に着くと芝生の上にコロンと置かれた。
風がさわさわと周囲に植えられた木々の葉を揺らし、見上げると真っ青な空が四角く切り取られて見える。ここは吹き抜けになっているらしく、外に繋がってて自然光に照らされるとても心地よい場所だ。
パパは私を横に置いたままノートを取り出し腹ばうとペンを握った。
表紙の真ん中より少し上に表題が書いてある。
『ヴィーラント法』
「パパッ!」
驚いてパパの顔を見てその文字に手を伸ばす。
「エメラルド、いいだろコレ。まだ途中だけどパパの書いてる本だぞ」
にっこり笑うパパの顔。
視界が狭まり触れる寸前で遠ざかるノート。
待ってパパ!『ヴィーラント法』はパパの本だったの!?それが何故、どうして現代の私が解読しているの?
急に目の前が暗くなり何も聞こえなくなっていく…………
「お腹減ったぁ」
激しい空腹に襲われ目を開くとサイラが涙目で私を見ていた。
「エメラルド様、お目覚めになりましたか!?」
「う、うん、サイラ。おはよう?」
「い、いいえ、今は夕方です。リュディガー様を呼んでまいりますね」
いつも落ち着いているサイラがパタパタと早足で部屋を出て行く。
いつの間に眠ってしまったのか記憶が曖昧だが、多分解読しててそのまま寝た気がする。グッスリ寝た感覚がしたから朝かと思ったけれどまだ夕方とは。もうすぐ夕食ならそりゃあお腹も減っているわけだ。
私はベッドから出ようと体を起こそうとして体中がギシギシいいそうな程の痛みを感じた。
「あっ、イテテッ。なにこれ」
なんとか起き上がって解すように肩や首をゆっくりと回しているとノックもなくリュディガーが部屋に飛び込んで来た。
「エメラルド!」
「うわぁっ、ビックリした。なによ?」
私の顔を見るなり膝から崩れ落ちると両手も床について大きくため息をついた。
「なんなの一体?」
意味がわからず途方に暮れそうになっているとピッポが顔を出す。
「相変わらずエメラルドが絡むとポンコツだなリュディガー」
「うるさいぞピッポ」
リュディガーはヨロヨロ立ち上がりピッポを睨む。
「ご飯出来てるの?」
そのまま足をベッドから下ろして立ち上がろうとしたがやっぱり体中が痛い。
「イテテ……」
「あぁ無理すんな。ゆっくり、ゆっくりで良い。いや、やっぱりここで食べろ。持って来てやるから」
リュディガーがなんだかオロオロして私をベッドへ押し戻し寝かせようとする。
「なんで押すのよ、もう起きるから退いて」
「いや、ここで、ここで食べればいい」
「リュディガー、ポンコツ引っ込めろ。エメラルドが起きるっつてんだろ?」
ピッポがリュディガーの腕を掴んで引っ張り私の傍から離れた隙になんとか立ち上がる。なんだか足に力が入らずグラグラとする足元を見て気がついた。
「あれ?寝間着だ。いつ着替えたっけ?」
解読しながらの寝落ちだった気がするがサイラがわざわざ着替えさせてくれたのかな?
「お前さ、あれから何日経ったかわかってるか?」
ピッポが呆れた顔してる隣でリュディガーが心配そうに眉間にしわ状態でこっちを見ている。
「何日って、ここに泊まってから?えっと、二日目でしょ?」
「違う、七日目だ」
「はぁ?ちょっと何言ってるかわかんない」
ピッポのよくわからない発言に理解出来ないでいると開けっ放しだったドアから誰かが入って来た。
「なんだもう起きあがってるのかい?」
そこには見覚えのある白髪の老齢の女性がいた。年齢が推定し難い女性はリュディガー達を押し退け私のそばに来ると顎を掴んで上向かせ、一見雑だがさっさと顔色を診たり目の動きを確認し首元に手を添えたりして最後に私を数歩歩かせるとフムと頷く。
「少し貧血気味だが食事がちゃんと摂れなかったせいだろう。他には異常は無さそうだからもう良いよ」
そう言って後からついて来ていたサイラから黒い鞄を受け取り、取り出した紙に何やら書き込むとピラっと手渡して来た。
「出来ればここを離れる前に宜しく」
「ありがとう、ございます?」
ニヤッと笑い部屋を出て行ったのはオリエッタ商会の高速艇でもお世話になった女性医師ミネルバだった。
なんでここに居るんだろう?
不思議に思いながら手にして紙を見るとそこには、『ご請求額二十五万ゴル』と太字で書かれていた。前回と違いフィランダー国の通貨単位ではなくエルドレッド国の通貨単位で請求されているところが現実味が増して怖い。
「高い!なにこれ、なんで請求されてるの?」
「仕方無いだろ、お前二徹して倒れて三日眠ってたんだから」
ピッポがちょっと笑いながら言ってくるのがムカつく。
「二徹ってなに?」
「やっぱり覚えてないのか。お前はあの日コッソリ解読してるかと思ったら急にテーブルの上の物を押し退けて本を置いて、物凄い勢いでノートに書き込みだして、誰が何を言っても一切反応しないで『ヴィーラント法』を解読し続けて終わったと同時に意識を失ったんだ」
だいぶやらかしてしまっていたらしい私はそれからリュディガーに運ばれベッドで寝かされたが一日経っても起きる気配がなく、様子を見ていたが飲まず食わずで目覚めず、リュディガーが騒ぎ出したところで運良く王都へ向かうミネルバがこの村に来たらしい。
顔見知りだったリュディガーは直ぐに私の診察を頼み二徹で弱っていた体に治療を施してくれたようだ。
お馴染み上級回復薬かぁ……
海で漂流しその後の回復に大活躍した例の上級回復薬の点滴を一本入れられていたらしい。
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