91 夢の中3?
リュディガーは子爵に問われるままにこれまで私とオジジがメルチェーデ号で暮らしながら行っていた解読の話を続ける。
「祖父は確かに忙しい身でしたが、エメラルドが古代文字を学び始めた頃から彼女と一緒に時間が取れた時にしか『ヴィーラント法』を開いてなかった気がします。私も仕事があったので絶対という訳ではありませんが」
「なるほど、ゼバルド殿はエメラルドに何かを感じていたという事なのか?」
リュディガーと子爵の話はここにオジジが居ないんだから何故だったのかという疑問に答えは出ない。聞いている私も自分の事ながら段々興味が失われ、というか早く解読の続きがしたい。でもなんだか堂々と『ヴィーラント法』とノートを広げてやる雰囲気でもないし、テーブルの上にはまだ食べ終わっていない昼食の皿が載っていて場所も無い。
私はこっそり特級ケースから『ヴィーラント法』を取り出しテーブルの下の自分の膝の上に開くとパラパラ捲りさっきの続きのページを広げる。
えぇ~っと、これは、これとこれ、それから……
ノートに書き込む事は出来ないが指で紙面をなぞりながら頭の中で組み合わせ解読していく。
段々と周囲の音が消え自分の頭の中で自動的に解読されていくように滑らかに文章が組み立てられていく。普通に本を読むように文字を目で追いながら次々と本を読み進める。
『ヴィーラント法』の前半部分から中盤、後半へと読み進め、気がつけばテーブルの上にノートを広げてスラスラと文を綴っていた。
意識の遠くで微かにリュディガーやカイ、子爵の声が聞こえている気がする。
「メモ用に新しいノートを持ってこよう」
「待ってろ、俺の部屋の方が近い」
「あぁ私が本を押さえておくから大丈夫だ」
「エメラルド、水だ。口開けろ、それとムウを食べろ」
手を止めること無く延々と『ヴィーラント法』の解読を疲れも感じず続けていた。自分でも何かに操られているように感じるほど集中していたがやがて突然誰かに終わりを告げられたような気持ちになりペンを手放した。
「終わった……」
「エメラルド!」
リュディガーの叫ぶ声を聞いたと思ったら目の前の景色がかしでいき意識は暗転した。
「おぉ~おきまちたかぁ?パパでちゅよ〜」
寝起きでボンヤリしているところへチュバチュバと頬へ舐らんばかりのキスを撒き散らすパパの髪をぎゅっと引っ張る。
「ヤー!パパ」
「イテテッ、エメラルドは力が強いでちゅね〜」
髪を引っ張られ顔を傾けながらパパは私を抱き上げ、向かった先から明るい陽射しが入っている。外へ出るのかと思っていると飛び込んで来た光景に度肝を抜かれた。
「ふぁー!」
そこは高い塔の上で目の前に同じ位の高さの四角い塔が幾つも並んでいた。下を見ると虫のように小さい人が沢山歩いていて思わず吸い込まれそうな気持ちになり体が傾ぎ、ゴンッという鈍い音と共に額に痛みを感じた。
「ふぐっ!」
「あぁ!!エメラルド、大丈夫か!?うわぁ、赤くなってる!ルイーズ、ルイーズ!大変だっ、エメラルドが、エメラルドがぁーー!!」
最初は気づかず何も無いのかと思っていたが大きく透明度の高い硝子が窓に嵌められていたらしく、覗き込んだようになってしまった私はそこそこ強めに額を打ち付けたのだ。
「コンスタンどうしたの!?」
この世の終わりのように叫んだパパに驚いたママが隣の部屋から駆けつけた。私はじ~んとする額を押さえて痛みに黙って堪えていたがあたふたするばかりのパパから私を取り上げ、真剣な眼差しで傷の様子を窺うママを見た瞬間に何かが溢れてしまう。
「うぅ~マぁマぁーー!!あぁ~、いちゃい〜!」
「あらあらエメラルド、大丈夫よ、ママはここにいるわ」
「ルイーズ、エメラルドは無事か?あぁこんなに泣いて、どうすればいい!?どうすれば……」
「うるさい、落ち着きなさい!ちょっとコブになるかも知れないけれどこれくらい大丈夫よ!エメラルドもビックリしたのよね、もう大丈夫よ」
私とママのまわりを心配のあまりバタバタと動き回り全く役に立たなかったパパは、最終的にテーブルに脛を物凄い音を立ててぶつけうずくまっていた。パパの方がよっぽど重症そうだった。
「全く子守も満足に出来ないのかしら?」
泣き止んだ私を抱いたママは冷たい眼差しでパパに一瞥して舌打ちすると隣の部屋へ戻って行く。
「ごめんよエメラルド。ルイーズ愛してるよ」
パパは頬を赤く染めはにかみながらついて来る。あんなに睨みつけられたどこに愛を囁く要因があったのか不思議に思った。
隣の部屋はかなり広く数人の大人がキビキビと動いていた。前に見た大きなモニターより更に大きなモニターが部屋の奥の壁に二面も設置されている。手前には大人の腰の高さ位の見たことがない装置が通路を挟んで幾つも並べられ操作している人が忙しなく手を動かし、その真ん中の通路をママが歩いていく。辿り着いた先にはショートカットで黒髪の女性がいた。
「手のかかる旦那ね」
「ララ、ごめんなさい。続けて」
ララはニヤニヤしながら私の頭をひと撫でする。
「パパよりしっかり育ってちゃんと養ってやりなよ、エメラルド」
どうやらパパは顔は良いが生活力や子供の面倒をみる能力は高くないらしい。「よろちくな、エメラルド」と恥ずかしげもなく言ってくるあたり自覚はあるようだ。
モニターを見ながらママとララは何やら話を始める。
「じゃあやっぱり当初よりずいぶん早く接近して来るのは間違いないのね」
「えぇ、正確な軌道はまだ読めないけど接触は免れないわ」
「唯一の希望はこの小惑星がここ来るまでに諸々ぶつかって小さく砕けてきていることね。それでも私達を全滅させるのに十分な威力は保っているけどね」
目の前のモニターは前に見た物とあまり変わりなく、中心にある小さな丸い玉に向かって幾つもの線が描かれては消えていく。
ママ達は何度か装置を操作して何かを探っているようだけれどそこに必死さはなくおざなりな感じだ。何かを諦めているという感じだ。
ショウワクセイってホシのこと?どっちもよくわかないけど、私達は全滅って、死ぬってこと?ここに居ちゃいけないの?危険なの?
「ママ」
問いかけようと見上げたがママは私を見ずにぎゅっと抱きしめる。
「コンスタン、お願い。ララ、あの件を進めましょう」
「アスナ国にロケット発射の準備を進言するのね。軌道を変えるための最適な時期と場所の計算も始めるわ」
「たっぷり爆薬を積んで飛んでもらわなきゃね」
私をパパに託すとママはララと大きなモニターの前を離れ小さなモニターを二人で覗き込み何かを始めた。
「パパ、あっち、ママとこぉ」
パパが私を抱いてママから離れて行こうとするので慌てて指差してママの傍に行けと言ったらパパはニコニコと嬉しそうな顔をした。
「エメラルドはママが好きか?」
さっきママとララはとても難しい大変な話をしていた感じだったのにパパはなんでそんな事を聞いてくるんだと思った。
「ママちゅき」
とにかく答えれば大好きなママの所へ連れて行ってもらえるのかな。
パパは私の答えに満面の笑みで頷く。
「そうだろそうだろ。パパも一緒だ。ルイーズが大好きで大好きでたまらないんだ。ちょっと怒っている顔なんてすっごくセクシーだと思わないか?ルイーズはいつも俺の駄目なところをこれでもかと遠慮なく手加減なんて言葉を知らないんじゃないかってくらいにエグッてくるんだよ、はぁ~」
何を思い出してか恍惚としている。
うちのパパはどうやら変態らしい。
「だからなエメラルド。そんな大好きなママがお仕事を頑張ってるからパパとこっちで待っていよう。ママはお前の未来の為にすっごく頑張ってる。わかるか?」
さっきまでのデレた親父ではなく真剣なパパの顔は強く優しい瞳をしている。けっこう良い旦那なのかも。でもね。
「ヤー、ママがいい!」
グイーっと体をのけ反らせパパから逃れようともがいた。
読んで頂いてありがとうございます。
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