85 王都へ11
陸上に存在する遺跡が破壊され始めて久しいと聞く。
発掘された遺物が古代魔導具を再現する為に必要不可欠だと知られた時から、人々は遺跡で破壊の限りを尽くし遺物を掘り起こした。
掘り起こされた遺物は高値で取り引きされ更に高い値段で魔導具が売られていく。人々は大金と名誉のために際限なく遺物を求めた。
貴重な建築物は失われ魔導具たり得ない遺物は捨てられ最早古代文明を知るための物は僅かに残された古代語で記された解読不可能な本だけではないかとさえ言われている。
小雨は降り止まず泥濘み始めた街道を馬車はノロノロと進んでいた。予定から遅れているのかもうすぐ昼だというのに馬車は止まる気配がなく雨も段々激しくなってきている。
「このまま降り続けたら子爵様と一緒にご飯も無理なんじゃない?」
先程の子爵の様子が気になるがカイの話も気になる。これからどう対処していくかもう少し作戦を練る時間が欲しい。
「この先の川の手前に小さい村があるから今日はそこで昼休憩の予定でしょ〜?きっと食堂くらいあるよぉ」
ニコラスが教えてくれた情報にガックリしてしまう。でも雨の中仕事している護衛達や御者の事を考えると屋根付きの休憩は確かに有り難い話だ。
「まぁあまりオジジの話はするな。子爵が本当にその保存の会所属なら余計な関わりが増えるかも知れない」
貴族と関わると碌なことがないとリュディガーが心配そうに言ってくるがもし本当なら少しでも古代文明や古代文字について話が聞けるチャンスじゃないだろうか?曲がりなりにも保存の会などと名乗っているんだから多少の知識はあるのだろうし。
「変な期待するな。彼奴等は口先だけの連中だ」
私の心を読んだかのようにカイが忠告してくる。
「でもオジジの事を知ってるんだよ。それだけ古代文明に興味があるってことでしょう?何かしらの情報を持っててもおかしくないじゃない?」
「持ってないさ。ゼバルドの名は少しでも遺跡や魔導具開発に携わっていれば耳にするし、貴族だったら貴族院で歴史を学ぶ際に必ずゼバルドの名を知る」
「え?オジジって貴族院で学ぶほどの人なの?しゅごい!!歴史上の人物みたい!」
興奮し思わず噛んでしまったが、仮にも孫と言っても過言ではない私が、オジジがそこまで有名だと知らずにいた事に驚かずにいられるものか。さっきの子爵も今の私と同じ位驚いていたんじゃないだろうか?
「リュディガーは知ってたの?」
「そりゃ、実の孫だからな」
クソッ、ここで実の孫マウントかよ!
「ズルい!私だって知りたかった」
「俺も陸に来るまで知らなかったさ。まわりから話を聞いたんだ」
リュディガーが港町で仕事をし始めた時にメルチェーデ号の者だとしると、ゼバルド・ガーランドと繋がりを持ちたい人達に絡まれ知る事になったようだ。オジジは遺物の研究家でもあるし、魔導具にも詳しいから商売人にも名前が知られているらしい。
「教えてくれても良かったじゃない」
私だけがのけ者みたいでちょっとヤダ。
くちびるを尖らせているとリュディガーが困ったように微笑み、私の髪をクシャとする。
「オジジが嫌がったんだよ、エメラルドには言うなって。照れくさかったんじゃないか?自分は有名なんだぞなんて言えないだろ?」
「……確かに」
何となくオジジの気持ちもわかる気がした。オジジも私と一緒で、ただただ古代文字を解読したり、遺物を発掘したり分析したりして古代文明の事を知りたいだけなんだ。陸の人達はお金や利権に煩いって前に愚痴ってたことがあった気がする。それが嫌で船に乗っているのかな?
馬車は直ぐに小さな村に入ると中心部あたりで止まった。中心部とは言ってもポツポツとしか建物がないなか、数軒が纏まっているだけで閑散とした雰囲気だ。恐らく村長であろう人の家が他より少し大き目で、そこから誰かが小走りに子爵の馬車へ向かった。
数分後、話を聞きに行ってくれたニコラスが戻って来た。
「なんかさぁ、この先の橋が沈んだんだってさぁ」
「はぁ?橋って川に架かってるやつでしょ?なんで沈むの?」
「沈んだって歩いて渡ればいいんじゃねぇのか?」
陸の事情が全くわからない私とピッポは首を傾げるばかり。
「そう簡単にいかないんだよ」
カイがなんだか私達に子どもに言い聞かせるような顔で言う。リュディガーは多少わかってるらしくそれほど驚いていない感じだ。
メルチェーデ号にいた時は私の方が断然勉強が出来ていたのにここにきてピッポと同レベルなのがなんだかムッとしちゃう。
「川の上流が雨続きで増水したんだろうってさぁ。でも沈下橋だから水がひけば渡れるだろうって言ってたぁ」
ニコラスから聞いた話をカイがわかりやすく説明してくれた。
この先にある川は上流の山に降る雨のせいで年に数回増水し橋がよく流されていたらしい。復興に時間がかかると何かと不便なため沈下橋という欄干が無い構造にし増水時には橋面の上を流木や土砂が流れていき橋自体が破壊されにくい構造になっているらしい。
「数日ここで足止めされるだろうけど迂回路を使うよりは距離的にも時間的にも良いだろうってことだな」
「へぇ、川の増水か。陸も何かと大変だね」
うんうんと頷きながら話を聞いていたのにピッポが現実を突きつけて来る。
「じゃこの村で子爵様と過ごすのか」
宿はこの村で一軒きり。しかも部屋は三部屋だけで、他の人は村長の家と村民の家に分かれて宿泊するらしい。子爵は村長の家へ、私とリュディガーとカイは宿で後は村民の家に散っていった。
「子爵様と離れて良かった〜」
部屋分けが済み私は宿の部屋へ荷物を置いて食堂へ向かう。宿には三部屋だけとはいえ、護衛が交代で部屋の前の廊下に待機するし、念の為サイラは私の部屋に簡易ベッドを入れ間仕切りを置いて一緒に泊まる事になった。
食堂は宿の入り口から入ってすぐの場所で、幾つかテーブルがあり他の所に泊まっている人も食事だけはここで摂るらしい。
コソっと廊下の陰から食堂の中を窺う。
「いた」
何故か既にランベルティーニ子爵が席につき、何故かピッポと話をしている。
「何話してるんだろう?」
流石にサイラは貴族を盗み見る事に気が引けたのかチラッと見ただけで私の後ろに大人しくしている。私はジッと子爵とピッポの話に聞き耳を立てていた。
「では其方もゼバルド殿といつも話をしているということなんだな?」
「はい、エメラルドと共に勉強を教えてもらってます。それに私は船長が保護者ですから日ごろから何かと手伝いもしております」
「うぬぅ、そうであったか。実に羨ま……興味深い。それで、ゼバルド殿は回収船で日々熱心に古代文明の研究に勤しんでおられるのか?」
「そうとも言えますし、そうで無いとも。普段オジジは、あ、私はゼバルド・ガーランドをオジジと呼んでおります」
なんだか……なんだかちょっと色々ツッコミどころが散りばめられていて何とも言えない。
先ず、ピッポが子爵と話している違和感と自分のことを『私』と言っているところを初めてみた違和感。オマケに何となく子爵にオジジと親しい事でマウントを取っているかのような違和感。なんだコレ?
戸惑っていると後ろから来たリュディガーが私の背中に手を添えた。
「アイツ何やってんだ?」
「わかんない」
リュディガーは小さく舌打ちし、そのまま私の背を押し食堂へ一緒に入ると子爵とピッポの方へ行く。
「おぉ、ゼバルド殿の孫、確かリュディガーであったな」
子爵はこれまで見せたことのないキラキラした目を私達に向けてくる。
「はい、子爵様」
リュディガーは慣れたように返事をする。きっとこれまでオジジの孫だと知った奴等が同じような態度を取ってきたのだろう。肩に置かれた手に少し力が込められ子爵から離すようにそっと脇へ押し出された。
まだ少し投稿をお休み致します。
出来るだけ早く再開するよう頑張ります。
読んで頂いてありがとうございます。
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