84 王都へ10
しとしと静かに降り続ける雨に気を取られているふりをしていた。
ランベルティーニ子爵も鼻髭の形が崩れないよう慎重に静かにティーカップを口へ運び、街道から少し離れた場所から広がる森を眺めているようだった。
休憩のはずが全然休めてない。
きっとこのテーブルについている子爵以外の人は全員そう思っているだろう。ピッポすら音も立てずに菓子のキューを黙々と食べている。
「あの森を知っているか?」
「ひゃい?」
急に話しかけられ驚いて変な声を出してしまいちょいと睨まれた。
「そういう時は『恐れ入りますがもう一度仰って頂けませんか?』や、もしくは『申しわけございませんが……』と言って語尾を濁すのも有効だ」
「ご指導ありがとう存じます」
「ふむ。それでだ、あの森だが」
「森ですか。申しわけございません。私はまだ陸の事はほとんど何も存じ上げません。森すら間近には初めて見ました」
ここに来るまでの街道沿いは林というほどの木の密集地帯はあったが今目の前に広がる深い森は無かった。時々船から遠くに見かけた事はあったけれど。そう言うと子爵は私の顔を一瞥したあと背もたれの方へ視線をうつした。
「え?あぁ、これですか?」
そこには斜め掛けに出来るようになった特級ケースが、私の背中と背もたれの間に置いてあった。それをくるりと回し膝の上に持ってくると子爵を見る。
「其方は回収船で発掘をしておるのであろう?自分が探し当てた遺物がそもそもどういう物か理解しておるのか?」
「理解、ですか?はい……遺物は魔導具を作る為に必要なものですよね?」
例えばカイが発掘した第三区分外殻変容型は魔導具の形を作るために使われるものだ。側だけとはいえコレが無いと魔導具が作動しない必要不可欠なものだが使い回しが結構きく。大物遺物で一番多く発掘されるものだ。
「まぁ、確かに。間違ってはおらぬ答えだな」
含みがあるような話し方になんだかムッとする。
私はこれでもエルドレッド国で名を馳せる優秀な古代遺物学者ゼバルド・ガーランドの孫……はないが、そのようなもの。回収船で長い間古代文明について研究し続けているオジジから色々なことを学んできた一番弟子という自負がある。
「ランベルティーニ子爵様は遺物に対して造詣が深くていらっしゃるのでしょうか?是非御教授願いたいです」
ついイラッとしてしまった発言に子爵のティーカップを持つ手が動きを止めた。
やっべぇ、やっちまったか?
ピッポが使うような言葉が脳内に浮かぶ。口に出すとリュディガーが睨んでくるやつだ。ピリッとした空気に私の隣に座っていたリュディガーがそっと手を伸ばし私の座っているイスを掴んだのがわかる。いざとなれば私を抱えて子爵から距離を取る為だろう。今は和やかな雰囲気でお茶してるとはいえ、子爵の雇った護衛はいつでも子爵を守り、命令を聞くために直ぐ側に立っている。
「ほぅ……興味があるか?」
思っていなかった返しに少し戸惑う。
「は、はい。私はゼバルド・ガーランドと暮らしておりましたので古代文明には……」
「なに!?ゼバルド・ガーランドとな!あの古代文明研究者の第一人者のか!?」
ランベルティーニ子爵はこれまで彼が見せていた落ち着いた貴族という顔からは想像つかないほど動揺し手にしたカップがブルブルと震えバシャバシャお茶が溢れている。
「ふぇっ!し、子爵さま!?」
びっくりして立ち上がると子爵も立ち上がる。
「今の話は本当か?虚偽は許さぬぞ!」
「嘘ではありません!」
リュディガーがそう言うなり私を掴んで後ろへ回した。勢いよく引っ張られすっ転びそうになったがピッポがガシッとオデコと肩を掴んで支えてくれた。なんでオデコ?しかもキューを素手で食べていたせいか指に砂糖がついていてザラッとしてるぞ!!
急な展開に護衛であるニコラスやイーロが一歩私達に近づいて来る。もしかして貴族相手でも守ってくれるつもりなんだろうか?
「なんと、本当か……あのゼバルド・ガーランドの……」
子爵が怒ってくるのかと身構えていたが拍子抜けするような言葉にピッポと目を合わせ首を傾げる。
え??
噛み締めるようにオジジの名前を繰り返していた子爵だったがハッとして我に返ったようで。
「あぁ、すまぬ。少し、いやかなり動揺してしまったようだ。よもや其方がガーランドの孫とは」
「いえ、孫はこのリュディガーだけです。私は養い子ですので」
リュディガーの後ろ、ピッポの砂糖塗れの手をはたき落としヒョイッと顔を出す。
「あぁ、そうであったな。孤児だと記されてあったので気づくのが遅れてしまった。そうだな、メルチェーデ号から来たのだからそこの辺りを考慮すべきであったのに」
そこからも何やら一人でブツクサと零していたが、そこに一時雇い侍従が遠慮がちに口を挟んできた。
「そろそろ出発のお時間ですが……」
その声に子爵は一瞬悔しそうに顔を歪めたが直ぐに取り繕うと軽く咳払いをし先程の動揺を抑え込むと視線で承諾の意思をあらわした。
「今は冷静では居られぬ。次の休憩で少し話をしよう」
そう言って自分の馬車へ去って行った。
「「「「ふぇ〜」」」」
その場に残った全員が大きく息を吐ききった。
「子爵自体は脅威ではないけどなぁ」
馬車と並走しながら馬上のニコラスがおっそろしい言葉を吐く。
小雨が降り続けるなかフードを被りながらの護衛ご苦労様って感じだけど、何を言ってんだ?
馬車の窓を開けてこの後の子爵との対応についてリュディガーとカイが護衛達を交えて話し合いをしていた。
「そうそう後処理の問題よね」
マグダまでそれに乗っかるの?
「あの侍従は金で解決出来るだろ?」
「護衛もショボそうだしねぇ」
「だけど王都での手続きが面倒になるのが面倒だな」
「それぐらいクラリス商会のもんなら慣れてるだろう?」
「いや待って待って待って!!」
私を除いた四人でどんどん話を進めているようで怖い。これって子爵をどうにかしちゃう話に向かってるの?
「ヤダな、例えばの話だよぉ」
ニコラスがニヤニヤしながらこちらを見ている。反対側にマグダが同じ様に馬で並走しているけれど、そちらもわざとらしい笑みを浮かべて同意するように頷く。
「護衛としては色々な想定をしておくものよ。今回も子爵がエメラルドちゃんを罰するよう言い出したら、ねぇ?カイ」
「そうだな。話し合いで解決出来なければこのまま王都へ行くわけにはいかなかっただろうな」
なにそれ怖い。子爵をどうにかするってこと?事故とか?魔物とかのせいにして素知らぬ顔で特級遺物を売って船に帰るって事?
そりゃメルチェーデ号でも秘密裏に処理ことはあるだろうけど!
「だけどオジジの名前に反応したって事が意外だったな」
「あぁ、まぁそれは、恐らくランベルティーニ子爵は『古代遺跡保存の会』に所属しているからだろう」
カイが鼻白むように言う。初めて聞く謎の会があるようだが言葉通りなら古代遺跡を保存するって事だろう。古代遺物や古代文字に思い入れが強そうなカイなら喜んで入ってそうだが何か違う様子だ。
「少数の貴族達が立ち上げた名ばかりの『保存の会』さ。社交の一環のだろう。さほど活動せず保守的なジジイ達が何かしら人との繋がりを求めて好んで入る馬鹿な集まりだ」
ほぇ~、なにかと公正な感じがしていたカイにしては辛辣なお言葉だな。
「キライなのか?」
ピッポが砂糖がついた指を舐めるついでのようにきく。アナタまだ食べてるの?
「本気で遺跡を守る気があるとは思えない。その証拠にこの大陸の殆どの遺跡は破壊の限りを尽くされている」
うわっ、かなり怒ってる。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
読んで頂いてありがとうございます。
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