82 王都へ8
子爵様と無事に一回目のお茶した後は当たり前のように二回目を一緒にし、今夜の宿へ到着した。ここはそこそこ栄えている街だが宿屋はランクが偏っているようで子爵と同じところのようだ。
宿屋に到着し玄関先で馬車を下りた子爵が先にロビーへ向かう。私達も続いて馬車を玄関先につけ下りると先に下りていたサイラが静かに付き添ってくれる。もうすっかり私付きの使用人って感じだね。移動中は割と放って置いてくれるが街なんかではキッチリ仕事をするというイイ感じの匙加減だ。
ロビーに入ると左側にカウンターデスクがある。カイが直ぐに手続きをする為にそこへ向かい、キョロキョロする私の横にいつの間にかリュディガーがいて反対側にピッポがいる。
「どうしたの?」
「いや別に」
移動中よりもピリついた感じなのは気の所為じゃないだろう。何かあるのかと私もただキョロキョロするだけじゃなくまわりをよく観察してみる。
この宿はそこそこのランクの宿だ。平民だけではなく下位貴族も普通に泊まるのか明らかに高級そうな服装の人達がアチラコチラにいる。
カイと並んでランベルティーニ子爵の侍従が宿泊手続きをしているようで、その間子爵は近くの椅子にキッチリと姿勢正しく腰掛けていた。子爵は背が低くこじんまりしてお腹がポッコリ出ているカワユイ体型だが立ち姿や居住いなど、物を知らない私でも洗練されているものだとわかる。
その子爵を見て貴族らしき女性がコソコソと隣にいる女性に何か耳打ちをして二人でクスクス笑っている。あきらかにランベルティーニ子爵を見ている事がわかりムカッ腹が立って仕方が無い。
「なんなのアレ!言いたいことがあるならハッキリ言えばいいじゃない!」
イラつく私にピッポが視界を遮りリュディガーがまぁまぁという感じで肩を引き寄せる。
「前のホテルでも同じ感じだったろ?それでも子爵は毅然とした態度だったじゃないか。きっと何か事情があのさ」
「でも!」
私がそれでも我慢できないでいるとピッポも振り返る。
「貴族様だってプライドがあるんだからわけのわからない平民の小娘に庇われても迷惑だって。せっかく静かに聞き流してんのにさ。俺、ランベルティーニ子爵を見直したぞ。これぞ大人の対応っていうんだろ?」
「……ピッポは相変わらず良い奴だね」
私の方が勉強はずっと進んでいるのに、こういうところはピッポに敵わない気がする。普段はすっとぼけているクセに。
手続きが終わったのか、カイは一旦カウンターを離れたが子爵の侍従を呼び止めると何か短く話をしてから戻って来た。
「何話してたの?」
案内された部屋に落ち着くとカイにさっきの事を尋ねた。
「ランベルティーニ子爵にご一緒に夕食をどうですか?って言っといた。手続きしてる時に子爵の部屋のレベルが俺達より低かったのが聞こえてしまってな。またエメラルドが子爵と一緒がいいって駄々こねた事になってるなから頑張れよ」
「えぇー!またぁ?あれ大変なんだよ」
否定的な言葉と裏腹に私は嬉しさで一杯だった。皆もなんだかんだ言いながら子爵の事を気遣ってくれているのだ。これまでのお貴族様といえばムカつく連中ばかりだったけれどランベルティーニ子爵はちょっと違う気がする。お金は無いみたいだけどだからといって平民に難癖つけて厚かましく無心してくることもない。私達からすれば普通といえば普通の事だけど貴族って平民の常識なんて通用しないと思っていたから新鮮な感じがするのかも知れない。
私達の部屋は二階の奥まった一角にある特別室らしく、広くて部屋数も多い。そもそも人数が多いし、警護のことを考えるとここが丁度いいらしい。
リビングを中心に複数のベッドルームがあり、出入りするには必ずリビングを通らなければいけないため、そこにカイとリュディガーとピッポのうち誰かが居るようにするらしい。
「そういえばここから護衛がつくんだろ?」
確か二泊目ので町から雇うってカイが言ってた事を思い出したのかリュディガーが言う。
「あぁ、もうすぐ挨拶に来るはずだ」
夕食まではまだ時間がある。リビングの奥にあるダイニングでは着々と夕食の準備が進められているが、貴族である子爵様と平民の私達では同じテーブルは駄目なはず。どうするんだろ?
「そいつらは部屋の中には入れないんだろ?」
ピッポがソファでゴロゴロしながらまた何かを食べている。
「あぁ、部屋の外を守らせる。ギルド経由で雇ったから信用出来るかどうかわからんからな」
カイがピッポの向かいのソファに座りこれから来る護衛との契約書を確認している。その背後からリュディガーも書類を見ていたがキュッと眉をあげる。
「おい、コイツら……」
コンコンコンコンッ!
ノックがしピッポが素早く立ち上がってドアへ向う。勿論子爵が来るには早すぎる。
「誰だ?」
「ギルドからの依頼で護衛に来たよぉ」
あれ?声と話し方に聞き覚えがある。
「やっぱり、ピッポ開けろ」
ドアが開かれ現れたのはつい数日前に別れたばかりの面子だった。
「ウソ!?ニコラス、ダキラ船長、マグダ、それにイーロ!どうしてここに?」
四人はそれぞれ別れた時と違い、いかにも冒険者という格好で剣を携えマントを羽織っている。男達はともかく、マグダも船で見ていた体にピッタリ沿った胸の谷間を強調するワンピースではなく、女性冒険者がよく着ているチュニックに厚手のスパッツと編み上げブーツ。腰には装備に適した幅広のベルトを巻き拳銃型の魔導銃を携帯し髪を後ろで一つに束ねていた。
「エメラルドちゃん、また会ったわね。王都までよろしくぅ〜」
その口調は相変わらずだけど見た目だけはちゃんとした冒険者だ。
「マグダって……戦えるの!?」
ピラピラ手を振りながら部屋に入って来るマグダに驚いていると私のすぐ横にピッポが立った。
「おっぱい……」
ダキラ船長が代表して契約書にサインし正式に四人が私達の護衛として王都まで同行することになった。
「ちょっと、いつの間に護衛とか。何やってるの?国へ帰らないの?」
ニコラスがリビングを歩き回りウェルカムフルーツを見つけると喜んで勝手に頬張っている。
「おぉ……高い、部屋の、フルーツは、美味いなぁ」
モグモグしているニコラスは話せる状態じゃなく、誰に聞こうかと首を巡らせるとイーロと目があった。
「イーロ、そうだ貴方にお礼を言わなきゃと思ってたんだ」
私の体調が思わしくなく、オリエッタ商会の船では言えなかった特級ケースを探してくれたお礼がまだだった事を思い出した。
「お礼って?」
「特級ケース探してくれたんでしょ?」
「あぁ……素材を回収する時に偶々見つけただけだから」
恩に着せるわけでもなく爽やかな笑顔。特級ケースは私以外が開けられるわけじゃないから黙って持って行っても良い事はないけれど、何となく訝しんでしまう。ともかく礼は言ったからこの件はもういいだろう。
「で、なんで護衛?」
「もちろん金だ。国へ帰るため、船をもう一度手に入れるために金を稼ぐんだ」
契約を結び終えたのかダキラ船長が立ち上がりながら偉そうに胸を張る。
「船長って強いの?」
「あぁ?船の男を舐めるなよ」
「舐めないよ、私だって船に乗ってんだから」
「確かに。だが俺達だって船だけで稼いでるんじゃないんだ。一度航海に出た後は一定期間陸に待機する事にしているからその間陸で他の仕事してんだよ。今回は船がバラバラになっちまったからな。長くなりそうだ」
フッとつまらなそうな顔でダキラ船長が嘆息する。わかるよ、やっぱり陸にいるより船の方が良いよね。
ダキラ船長をはじめ他の乗組員も冒険者ギルドに所属しているらしく、海の魔物を倒した事もポイントは頭割りだが成果として認めてもらえるらしい。なので船長とニコラスはB級、イーロはC級ランクらしい。
「マグダは?」
高速艇の客として乗っていたマグダだが、考えてみればどこかの回収船に乗っていたんだからそれなりの腕があったのかな?
「私は一応C級よ。でも最近発掘ばっかりしてたから腕が鈍ってないかちょっと心配」
拳銃型の魔導銃を持っているということは得意武器が銃なのだろう。剣なら相手さえいれば船の上でも訓練が出来るが銃は基本使わせてもらえない。私の場合は上層部との強力なコネにより時々訓練出来ていた特例といえる。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
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