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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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81 王都へ7

 あぁ無理かぁ。そこまで甘くないのか。

 

 残念に思いながらも最後にしょげながら俯く。

 

「だったら用意した物を差し上げてもいいですかぁ?食材が無駄になってしまうので」

 

 チロっと上目遣いでランベルティーニ子爵を見ようとするが子爵は私よりも少しだけ背が低い。睨んでるように見えないか心配だが……

 

「……構わん。私は無駄は嫌いだからな」

 

 そう言ってトコトコと馬車に戻って行った。ドアが閉じられるのを確認し馬車に背を向け歩きだすと隣のカイとハイタッチした。



 すぐに私達の馬車の近くへ行くと既に用意されていたトレーを確認する。


「やっぱ無理だったか?」


 ピッポが何かをつまみ食いしているのか口をモグモグさせながら聞いてくる。


「一緒は無理だけど受け取ってもらえるってさ」


 ちょっとドヤ顔で返すとリュディガーが予想通りだなと頷いた。


「それで、そいつに持たせるのか?」

「え?」


 振り返ると子爵の一時雇い侍従がいつの間にやら後ろに立っていて驚いた。


「では私がお持ちするから渡してもらおう」


 スンとした顔で要求してくるがコイツも平民のはず。ちょっとイラつくが早速トレーを渡すと少し驚いていた。


「えらく早いな」 

「えぇ、後はパンを載せるだけですけど」

 

 パンは料理人が出発前に生地を仕上げており食べる直前に焼いてくれるので昨日も焼き立てを食べていた。たったいま焼き上がったパンを籠に入れこちらへ運んでくれそこからトレーの空いている場所にトングで二つ載せる。

 

「子爵様は体が小さいから二つで足りるかな?」

 

 パンの他に野菜スープとタレ焼きの肉、それにじゃがいものガレットだ。

 

「う、ゴホン!」

 

 急に一時雇い侍従が軽く咳払いをする。食事を運ぶっていうのに何だよと思って顔を見るとパンを入れた籠をチラリと見て私を見て目を細める。

 

 え?なになに?コレ?

 

 私は持っていたトングをパンの籠へ入れるともう一つ取った。すると一時雇い侍従が僅かにニヤリとする。それを見てトングを戻すと今度はショックを受けたような顔をした。

 

「面倒いんだけど。欲しいの?欲しくないの?」

 

 一時雇い侍従は苦々しい顔をしたが「欲しい」と言う。どうやら子爵の食事はかなり質素だそうで、雇われの侍従もそのせいで質素な食事しかありつけないらしい。もっと言えば御者も護衛も同じだそうだ。

 

「四人分か」

 

 今回はまさか子爵以外の人達のも必要だと思っていなかったので全員分は渡せない。取り合えずパンを多目に渡すことにした。

 

「明日は人数分用意しておくから、明日も食べてもらえるように上手く言っておいて下さい」

 

 トレーにパンをてんこ盛りにしてやると一時雇い侍従が満面の笑みで頷いた。


 

 

 昼食を終えると一時雇い侍従がトレーを戻しにやって来た。

 

「子爵様ちゃんと食べてくれましたか?」

 

 受け取りながら尋ねると侍従がコホンと咳払いする。

 

「子爵様はしっかり食べられた。味については残しておられなかったので口に合わないわけでは無いだろう。パンも焼き立てで美味くて美味く……いや、とにかく、上手く言い含めたから明日からも頼むよ」

 

 途中まで何とか体裁を保っていた侍従だが途中で諦めると普通に頼んできた。

 

「いいよ、休憩のお茶はどうする?色々お茶菓子もあるよ」

「頼む。取りに来るよ」

 

 一度受け取ってしまえば後は抵抗無く受け入れると侍従は去って行った。

 直ぐに馬車は出発しそこからも順調に進んで数時間後。休憩に入ると侍従が早足でやって来た。

 

「まだ用意出来てないよ。早すぎ〜」

 

 サイラ達が魔導具で湯を沸かし始めたばかりだというのにせっかちな奴だと思っていた。

 

「いや違うんだ。子爵様が「一緒にお茶を」と仰ってる」

「えぇー!貴族様は平民とお茶しないんじゃないの?」

 

 本来なら同じテーブルなどあり得ないらしいし、まして同じ空間でも無理らしい。でも今回は別々のテーブルだが近くでお茶をどうか?ということらしい。

 

「そんな事出来るんだ」

「子爵様が仰るにはわざわざ運んだりして二か所に分ければ時間がかかるだろうから、一緒なら準備する者の手間も省けるだろうということだ」

 

「えぇーやっさしい〜」

「いや違うだろ。どんなお茶菓子があるか見たいんじゃないか?」

 

 ピッポがスッと口を挟むと侍従が目をそらした。もしかして結構甘味好き?

 

 子爵はこちらへいらっしゃるらしいので急いで準備を進めた。これ迄なら適当にテーブルを置いてマグカップで好き勝手に座って食べていたが、少し離れた場所にもう一台小さなテーブルを出してくるとそこへテーブルクロスをかけティーセットを準備する。勿論私ではなくサイラ達がするんだけど。

 

 流石に高速艇に乗るために訓練しただけあってお貴族様仕様のティータイムも完璧に素早く整えると侍従に頷いてオッケーを出すサイラ。侍従も直ぐに引き返し子爵様を連れ再びやって来た。

 

「先程の食事もなかなかの物であった。今回も急だったが世話になる」


 私達が礼をとりながら静かに迎えるといつもの様にトコトコとやって来ると少し高めの声で話す。


「とんでもございません。子爵様にご満足頂けるかどうか。不慣れなため不手際がございましたら寛大なお心でお許しください」


 カイが慇懃に出迎える。


「構わん。子どものすることだ」


 ん?


 どうやらコレも私が我儘で子爵様にお茶を差し上げたいと言った事になっているようだ。別にいいけどさ、ひとこと言っとけよ侍従!


「子爵様ありがとうございます!これ食べますか?」


 アホの子を再起動すると私はキラキラ笑顔でサイラ達が用意してくれたクッキーを持っていった。

 子爵は早速テーブルにつき、侍従が準備されていたお茶を毒見したあとティーカップへ注ぐ。


「ホントに毒見した!」


 初めての行為に驚いて思わず声に出してしまう。普段ならこんなに軽口を叩いたりしないが、アホの子を起動中なので勢いで出てしまった感じだ。


「こらエメラルド!」


 カイに注意されて慌てて口を押えた。


「申しわけ……ごめんなさい」


 一瞬アホの子を停止ししかけたがなんとか持ち直しペコリと頭を下げた。ピリついた空気を破ったのは子爵だった。


「確かに不要だな。ここで私の命を狙う奴などいない」


 フッと自嘲的な笑みを浮かべを子爵はティーカップを口へ運んだ。何となく気不味い空気になり戸惑っていると後ろからピッポが背中を押して来た。首だけで振り返ると口パクで「イケよ」と言う。


 も〜、仕方ないなぁ。

 

 アホの子起動中の私はそのままクッキーを子爵のテーブルに置いた。


「今日はこのクッキーと、もうすぐ焼き上がるキューっていうお菓子です。子爵様、キューって知ってますか?」


 子爵が私を見て眉間にシワを寄せたのでドキッとした。ちょっとやり過ぎた?


「キュー?知らぬな。平民の菓子か?」

「そ、そうらしいです。私も陸に来て初めて食べました」

「陸に来て、とな。あぁ、其方は初めて上陸したのか」

「はい、そうです。陸は人が多いですね。港に降りた時いっぱいいてビックリしました」

「確かに港町は栄えているが、これから向う王都ではもっと人が溢れている。驚き過ぎぬように心しておくと良い」

「はい、ありがとうございます」


 思わず子爵と話が弾み侍従に咳払いをされてやっと少し離れた自分のテーブルへ行った。


「お前スゲーな。お貴族様と会話が続いてたぞ」


 ピッポがコソコソと小さめの声で全然凄いと思っていない感じで口をモグモグさせていう。


「子爵様も暇なんじゃない?ずっと馬車に一人でしょ。侍従は御者台だし護衛は騎乗してるし」

「恐らく食事の提供とお茶に対する返礼みたいなもんじゃないか?」


 そう言ってリュディガーがクッキーを口に放り込む。


「口きいてやってる的な?スゲーな貴族」

「いやランベルティーニ子爵はそこまで性悪じゃないよ。きっと世話になったんだから話くらいはしないとな、的な感じだって」

「どっちでも一緒だ」

「一緒じゃないよ」


 振り返って子爵を見ると丁度キューが出来上がり運ばれていくところだった。


「怒らないかな?」


 平民の食べるお菓子だって伝えてあるから、もしかすると手を付けないかも知れないがそうなっても侍従達が食べるだろう。

 訝しげに皿の上の細長いパンのようなキューを見ていたが不意にフォークで突き刺し口へ運んだ。


「食べた!」

「食べたな」


 ピッポと二人でじっと観察していたが子爵は顔色を全く変えずに咀嚼するともう一つフォークで突き刺し口へ入れた。


「美味しかったんだ」

「出来立てがサイコーに上手いからな」


 直ぐにこちらにも運ばれて来たキューを手で持つとパクっと齧り付く。


 お、シナモンシュガーだ!美味しい。



 

 

ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。


読んで頂いてありがとうございます。

面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価、宜しくお願いします。

ポイントが入るとクルクル回って踊って喜んでおります。くるくる〜☆

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