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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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79 王都へ5

 港街を出発して数時間後、馬車が止まった。先頭のランベルティーニ子爵を乗せた馬車から従者が降りてくると各自食事休憩を取るようにとのこと。初めて会った時に話していた通り子爵は私達と馴れ合う気は無いらしい。あのお姿を見れないのは残念だが仕方がない。

 

 馬車から必要な荷物を下ろし、食事を作る準備が進められる。私は一切タッチしていなかったがカイがクラリス商会に頼んで色々用意をしてくれていたらしく、サイラとミラの他にも料理人がいて素早い手つきで食事が作り上げられていく。

 小型に改良されたという魔導具のコンロで作られる温かいスープと香ばしい香りの肉串。辺りにいい匂いが漂い待ち遠しくてしようがない。

 サイラとミラも一緒にと言ったが他の使用人達もいるのでと断られる。彼女達はもうクラリス商会の人間だからそこはキッパリ線引きをされてしまった。ま、仕方ない。安定職は大事だもんね。

 

 美味しい昼食を終えるとまたランベルティーニ子爵の従者がやって来て出発すると言われた。

 港街の近くでは数件ポツポツと民家があり、畑を耕す人の姿も見えていたが昼食を終えた後は起伏が緩やかな何も無い草原を横切るように街道が続いていた。数時間おきに木陰を見つけると小休止をとり、その度に料理人が温かいお茶を淹れてくれる。馬車の揺れは耐えられない程では無いがずっと座りっぱなしで腰が痛いのが難点だった。何故かピッポは平気な顔をしていた。


 日が傾きかけた頃、最初の宿泊地である小さな町に到着した。案内人が泊まる宿は決まっているらしくランベルティーニ子爵は私達とは別になった。

 ここにもクラリス商会の宿があるのか、私達が乗った馬車はカイの指示で町外れにある一角へ向かった。そこには港街で見た貴族街のお屋敷の小さめ位の、それでも大きな建物があった。

 

「ここはクラリス商会と懇意にしている服飾店の家だ。今夜はここで世話になろう」

 

 宿では無いようだがカイが勝手知ったる感じで馬車を下りると早速お屋敷のドアを開き中へ入って行く。いいのかなぁという感じで私達も後についていくと、玄関ホールでカイが恰幅の良いオバサンに抱きしめ……られてるでいいのかな?

 

「ふぐぇ〜、し、死ぬ……離して、くれ」

 

 バキッと背骨が折れる音が聞こえたような気がするほど締め付けているオバサン。

 

「カイリーーー!!心配したんだよ、無事に帰って来ただなんてこんなに嬉しいことはないよ!!」

 

 再開を喜んでの抱擁らしいがカイの命は風前の灯に見える。ヤバいかな?

 

「はじめまして、今夜はお世話になります。エメラルドと申します」

 

 挨拶をするフリをして割って入る。するとオバサンは私に初めて気づいたという顔で驚き獲物を捕えていた力を緩めた。

 

「あら〜ごめんなさいね。お客様の事を後まわしにしちゃってでも許して頂だい。カイリったら何も言わずにいなくなっちゃって本当に心配してたのよ〜」

「はっ、はっ、た、助かった……」

 

 結構ギリギリだったカイは崩れ落ちるとピッポが冷静に肩を貸す形ですっくと立たせた。ちょっとぐだついてるけど無事そうだな。

 

「それはご心配でしたでしょうね。すみません、このような時にお邪魔してしまって」

 

 リュディガーとピッポも自己紹介した。オバサンは結構上背があり背の高いカイと同じ位で横幅は倍以上、迫力満点の御婦人で先程見た限りでも力も強そうだ。けれどその表情は明るく優しそうだ。

 

「カイリの大叔母のロイネよ。さぁさぁ遠慮しないでこっちへ来て頂だい。お腹空いたでしょう?すぐに食べられるわよ」

 

 オバサンは大叔母さんで、どうやら先に知らせが行っていたらしくそのまま私達四人は食堂へ案内された。荷物はサイラ達が部屋へ運んでくれたようだ。

 

 長いテーブルにズラリと並べられたご馳走にピッポが極上の笑みを浮かべる。

 

「うわぁ~美味そうだな。オバサンもう食べていいか?」

 

 はしゃぐピッポの両肩を大叔母さんがガッシリ掴む。

 

「私の事はロイネさんと呼んで頂だい。勿論食べてもいいわよ」

 

 前半は少し低い声で、その後それが無かったかのように元の愛想のよいロイネさんに戻った。流石のピッポもその切り替えの早さに大人しくコクコクと頷いていた。ピッポが脱出すると次にロイネはリュディガーに目を向けた。ジロジロと観察してニンマリ笑う。

 

「あらお兄さんは随分イイ男ね。うちの姪のトイニと会ってみないかい?」

「遠慮しておきます。陸に住む気も無いので」


 サックリ断ってついでにそれ以上何も言われないように付け加える。陸の人は船の生活を敬遠がちだからこう言っておけば大体収まるのだろう。


「おやまぁ残念だね。さぁ遠慮なく食べておくれ」


 ロイネも気を悪くした感じもなく歓待してくれる。こういうのも挨拶の一環なのかな?勝手に言われてる姪御さんの気持は無視なのか。




 食事はとても美味しくお腹いっぱい食べると部屋に連れて行ってもらった。私とサイラはドア続きの部屋で、リュディガーとピッポは同室、ミラは使用人部屋らしい。カイはいつも使っている部屋を使うようだ。


 シャワーを浴びてスッキリとし夜着に着替えるとサイラは自分の部屋に行った。もう慣れたもので私があまり構われるのが好きじゃない事は把握済みなのであっさりしたものだ。

 私は大きくあくびをしながら常に持ち歩いている特級ケースをベッドに置いて直ぐ横に腰掛ける。

 ケースを開けると中にある二十面体の遺物を包む布を広げて艷やかな光を放つそれを眺める。


 やっぱり印が濃くなってる。


 オリエッタ商会の船に救助され、確認した時からほんの僅かだけれど二十面体の一つ一つに描かれている意味不明の印が段々と濃くなりしかも金の色を帯びてきたように思える。

 私はケースに一緒に収納してあった『ヴィーラント法』を取り出し表紙を捲って目次を手でなぞる。


 確か、金文字って何処かで見たような……


 まだ目次も全ての解読が進んでいないが、ところどころ読める個所もある。


 ここか。金……文字……


 並んで書かれている訳では無いが同じ行にある二文字。この章は魔晶石に関する事が書かれてる。


 私は同じくケースに入れていた私限定ノートを取り出し表紙にあるブローチの様に美しく装飾されている魔晶石の部分に手を当て魔力を込める。表紙の花模様がキラッと光り解錠を合図する。

 開いた真っ白なページの一番上の左端に古代文字で"金"と書く。古代文字は緻密な二十六個文字の組み合わせで成り立っているがそれがさらに暗号化されて記されていると言われているのが『ヴィーラント法』だ。暗号もひと通りではないらしく、幾つか組み合わされていて正に複雑怪奇。

 最近の私とオジジの間では解読には魔力が関係しているのではと考えている。


 "金"と書いて少しあけた横に"文字"と書いて、再び『ヴィーラント法』に目を移した時。


「エメラルド様。今夜はもう遅いですからお休みください。明日からの長旅に備えて」


 ヒンヤリするサイラの声が部屋に響いた。顔をあげれば私の部屋の奥にあった使用人用の部屋から圧が強火のサイラの姿にビクリとする。


「わ、わかってる。すぐ寝るから」

「今すぐ片付けてベッドに横になってください。終わるまでここで見ていますから」


 高速艇でのやらかしを知っているサイラに慈悲は無い。素早く特級ケースに諸々片付けると大人しくベッドへもぐり込んだ。


「お休みなさいませ」


 静かに扉は閉じられホッと息を吐く。






 早朝目を覚まし起き上がるとサイラが直ぐに来てくれた。


「お目覚めですか?」

「うん、おはよう。早いね」


 ここ最近ずっと知らない場所のせいかフカフカのベッドなのに眠りが浅い気がする。浅い眠りのなか昨日寝る間際に考えてしまった古代文字の事やガラス張りの建物の事、半球体の装置の事が次々と現れていた気がする。


 あれ?ガラス張りの建物……あの時の夢のことか。


 なんだかすっかり忘れていた死にかけていた時に見た夢。あれは何だったんだろう?


 ぼんやりしていたが気がつけば建物内もそれほど物音がすることも無く、そろそろ使用人達が動き始めた頃という感じだ。


 服を着替えて顔を洗ってもまだ朝食まで時間がありそう。窓から外を見るといつも慣れた青い海原は見えず、薄暗く靄がかかった林が見えるばかりだ。


 あぁ~揺れが無くて眠れないのかな?


 魔導具で揺れを制御しているとはいえ全く揺れないわけではないメルチェーデ号の固いベッドを恋しく思う時が来るとは……人生何が起こるかわからないもんだ。


 サイラと二人で静かに部屋を出ると階段を下り玄関から外へ出た。


「んん~、気持ちいいねぇ」


 建物の中は静かで何となく気を遣ってしまう。いつでも何処かで誰かが動いていて色々な音がしていたメルチェーデ号とは全く違う。

 朝の冷えた空気のなかを先程見た林へ足を進める。


「地面から木が生えてる」


 港町でも植え込みはあったがこんなに背が高く多くの木が生えている所は初めてだった。


「本当に船だけで育ったのですね」


 物珍しそうに林の中を歩く私を見てサイラがしみじみという。


「そうだよ。私みたいなのは今まで見たことない?」

「そうですね、小さい子なら何度か。大きくても十歳までですね」


 流石に成人するまで船しか知らないのは稀らしい。ピッポすら何度かは港に下りている。


「サイラはどこで育ったの?」

「私は港町から少し離れた農家生まれです。農家と言っても両親はそこ従業員ですけど」


 住み込みで働く両親の元では子どもは成人すると否応なく家を出なければいけないらしい。運が良ければ両親と一緒に働けるがそれ程大きく無い農家等はそんな余裕が無いそうだ。

 数年は食堂や商店で働いたがどこもすぐに解雇され、最後に高速艇にたどり着いたらしい。


「コネが無いと良いように使われて転々としましたが今回は大丈夫そうでホッとしました」


 クラリス商会との契約はサイラ達のように何も持たない平民には高嶺の花だそうで、奇跡の就職だと二人で喜んでいたとか。クラリス商会にしても高速艇で働いた経験がある二人はある程度の礼儀作法が仕込まれているということでお得らしい。

 だったら皆一度高速艇で働けば良いのにと思うけれど、今回のように何度も死にかける事も含めてやはり船での生活が敬遠されるらしい。


 そんなに怖いかな?私は快適だったんだけど。






 

 

ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。


読んで頂いてありがとうございます。

面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価、宜しくお願いします。

ポイントが入るとクルクル回って踊って喜んでおります。くるくる〜☆

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