78 王都へ4
街ブラもそろそろ終わりに近づき、私達は展望台から引き上げる事にした。ジュースを買った店にカップを返そうと皆の分を集めて私が持って行くことにする。やってもらってばかりでは居心地が悪かったからだ。支払いもカイが一人でやっているので遺物が売れた後に返すよと言っておいた。別にいいよとカイは笑ってたけど絶対に返そう。
露店へカップを持って行くとそこに黒いマントにフードを深く被った客がいてすれ違いざまに軽くぶつかった。
「おっと、大丈夫ですか?」
私よりも小柄でよろけた相手を咄嗟に支えた。
「お前、ノエルの子だろ?」
しわがれた声で相手が老婆だとわかったが尋ねられた事にちょっと驚いて答えられないでいると再び老婆が口を開く。
「ノエルへ行け」
ジッと見つめた後それだけ言うとヨロヨロとしながら去って行った。
なんじゃアレ?
薄気味悪く思いながらみんながいる方へ戻るとカイが老婆が立ち去った方を見ていた。
「あの婆ちゃんと知り合いなの?」
「まぁ、ここらじゃみんな知ってる。害は無いよ」
コルデロホテルへ向けて歩きながら聞いた話では、あの老婆は金髪、もしくはそれに近い髪色の人を見かけると近寄り何か話しかけて来るらしい。
「なんて言われた?」
ピッポがまださっきの細長いパン、キューを齧りながら聞いてくる。細っこいその体の何処にそれだけの食べ物が入っていくのだろう?
「ノエルの子だろ?って」
「ノエル?ノエル国の事だろうな。金髪だし」
「そうね、それからノエルへ行けって」
「えっ!?」
後ろで聞いていたカイが急に声をあげた。
「ノエルへ行けって言ったのか、あのウッラ婆さんがそんな事を……」
道すがらカイがウッラ婆さんというさっきの人の話をした。
ウッラは今はこのエルドレッド国にいるがノエル国の出身だそうだ。どういう経緯かわからないがこの港町に住み着き、さっきのようにノエル国を思わせる雰囲気の人を見かけると近寄り何かを言い残すらしい。
「カイも何か言われたの?」
カイもノエル国に由来があり、髪色は茶色で瞳も薄い茶色だ。カイは自分の髪をクシャリと撫でる。
「あぁ、お前じゃないって言われた」
「なにそれ?意味わかんないけどムカつく」
どんな奴にでも否定的な言葉を吐かれれば誰だって嫌なのになんて婆さんだ。
メルチェーデ号では目立つ容姿だった私もこの港街ではさほど目を引かない。少ないとはいえノエル国の特徴と言える金髪も時々見かけるから私も前ほど人目を気にしないでいられるがやはり目につくのか。
ノエル国は三大陸の中で一番国土が小さく気候も厳しい。鉱物の産出が国を支える主な産業の一つだが採掘現場は年間を通し地下の温度が零度を下回る永年凍土と呼ばれる状態で思うようにいかないらしい。その為国は豊かとは言えず、エルドレッド国やフィランダー国へ移住したり出稼ぎに来る人も多くいるという。カイの一族もそういう理由でここにいるのかも知れない。
翌日、いよいよ王都へ向け出発する準備が整った。貸し切りのように殆ど他の客と顔を会わすことの無く快適だったコルデロホテルをチェックアウトし玄関前に出ると予定されていた四台の馬車が既に来ていた。
リュディガーが馬車の周辺を見た後カイを振り返る。
「護衛はどうなった?」
「ちょっと都合がつかなくてな、二泊目の町から雇う事になってる。馬車の中に一応武器は用意してあるし暫くは危険も少ない地域だ。それにリュディガー達は回収船乗りだから魔導銃を扱えるよな?剣もある」
そう言って馬車の椅子の下から小銃型の魔導銃を取り出し使い方を教えてくれた。
「最新式だな。スゲー!」
ピッポは嬉しそうに手に取り重さを確かめ何度か構えてみる。リュディガーは既に見たことがあるようで魔晶石の残量をチェックして不具合がないか軽く見た後、私に寄こして来た。
「あのさ、エメラルドに銃を扱わせるってどうなってんだ?」
カイは私が銃に触ることが如何にも不服そうに顔を歪ませる。
「そのくだりは散々オジジとモッテン船長とでやったんだよ。だけどコイツが成長していくに連れて四六時中くっついてるのは無理だと判断したんだ」
同じ様に顔を歪ませながらリュディガーが言う。
「結局銃とナイフを仕込んだよな?」
ピッポがそう言って自分の荷物からナイフがホルダーに入った状態の物を渡してきた。私も同じのをもっていたがこれまでのなんだかんだでとっくに無くなっていた。
「これピッポのでしょう?」
「俺は昨日新しいのをリュディガーに買ってもらったんだ。これ見てくれ」
こちらに背を向け上着の裾を捲ると真新しいナイフホルダーがベルトに装着されていた。勿論新しいナイフが収納されていて後ろに手を回せば抜けるようになっている。
「えぇー!そっちのが大きい!私もそれがいい!」
「馬鹿だな、これじゃお前の手には大き過ぎるよ。そんな事もわかんねぇのか?」
ピッポがニヤニヤしながら見せびらかしてくる。
くぅ~ムカつく!
「わかってるけど!私も新しいのが良かった」
リュディガーを睨むように振り返るとため息をつかれた。
「カイ、拳銃もあるだろ?」
「あるけど。エメラルドにか?」
「いや今はいい。五月蝿いから見せるだけだ、俺が持っておく」
まだまだ嫌そうな二人でコソコソ話し、カイが再び馬車の椅子の下から拳銃型の魔導銃を取り出してきた。
「それ私の!?」
すぐに手を伸ばすとツイっとリュディガーが手を上げて届かない位置に持って行く。
「今は持たせない。だけどいざという時はこれを渡してやるから大人しくしてろ」
「するする!だからちょっと見せて!」
何故かため息をつかれながら渡された拳銃の使い方を確認する。
なるほど、グリップの下で魔晶石を入れ替えるタイプね。残量はグリップの上、船で扱ったのより随分軽いわ。
魔晶石の入れ替えを何度か練習したところでリュディガーに取り上げられた。
「あぁ~」
「ほら出発するぞ、急げ」
そのまま馬車に押し込まれた。
自分で持っていたかったのに!だけどナイフは手に入ったから我慢するか。
私は旅の間、女冒険者がよくするチュニックにスパッツを合わせた格好をすることにしている。流石に本職の人達より印象が柔らかく感じるような軽いテイストの物を選び高級ホテルでも浮かない仕様ではあるけれど、ナイフを隠して携帯するには良い感じで動きやすい。
四台の馬車で案内人であるボナベントゥーラ・ランベルティーニ子爵が宿泊しているベッテルホテルへ向かった。この街を訪れる殆どのお貴族様が利用すると言われる高級ホテルらしく、私達が泊まった所より更に上の、より領主のお城に近い場所にそれはあった。
ホテルの正面出入り口は広く、数段の階段を上りロビーへ入ると手前右にカウンターデスク。左側はカフェになっているらしく優雅にお茶を楽しむ人がいる。綺羅びやかな建物内はお貴族様仕様なんだろうけど、私としてはコルデロホテルのシンプルさが落ち着いていて良い。
リュディガーとピッポも一緒にホテルに入って来ていたが入口付近で待機してもらいカイと二人でカウンターデスクへ向かう。ランベルティーニ子爵に会いに来たと告げると私たちの事情を理解したようで、少し待つようにと言われた。
カウンターデスクの横で待っている間、何となくカフェを眺めていると数人のお貴族様であろう貴婦人達が私達を見てひそヒソヒソと話をしてはクスリと笑う。なんかめっちゃムカつくけれど彼らに比べて貧相な服装の事でも言っているんだろう。リュディガーもカイもそんな事は全く気にしていないようで、きっと陸では普通の事なんだろう。勿論ピッポは全く気にしていない。
暫く待っていると正面奥からランベルティーニ子爵が従者を連れてトコトコとこちらにやって来た。
やっぱりカワイイんだけど。
先日見た姿と変わらずちんまりしたサイズ感にぽっこりお腹、端にいくほど緩く上向きにカーブした鼻髭がなんとも言えない。
相変わらずやや顎を上げ気味で目の前まで来たランベルティーニ子爵に恭しく頭を下げてカイが挨拶をする。
「ランベルティーニ子爵さま。これから七日間、宜しくお願い致します」
「うむ、いらぬ手間をかけさせるなよ」
子爵の少し高めの声がロビーに響くとカフェの方からププッと吹き出すような声が聞こえた。
え?っと驚いて視線だけを向けるとさっき私達を見てヒソヒソしていた貴婦人が顔を背けているが肩を震わせている。
なんだアレは?もしかしてランベルティーニ子爵を笑っているの?
視線を子爵の方へチラッと向けると少し、髭をピクつかせたようだが何も言わずに従者にカウンターデスクへ向うよう指示する。従者はホテリエから何かを受け取り戻って来ると子爵は頷く。
「では行くとしよう」
ププッ、クククッ!
またも貴婦人達が吹き出すが子爵は一瞥もせず馬車へ向かう。私の真横を通り過ぎる子爵の姿を見ていてふとその服装に目が止まった。
ランベルティーニ子爵は貴族らしい派手な刺繍が施されたジャケットを纏っていたが襟元が少し擦り切れていた。よくよく見ると服装は全体的に古ぼけて、カフェにいる貴族の男達の物とは少し形が違う。彼等の方が若いとはいえより洗練されている感じがする。
なんで?お貴族様なのに。と思ってから高速艇に乗っていた馬鹿貴族の二人を思い出した。貴族だからって裕福な訳じゃない。ランベルティーニ子爵ももしかしてそうなのかも知れない。
子爵の少し淋しくなった頭頂部を見ながらちょっと切ない気持ちになった。
「急ぐぞ」
カイに促されて慌てて子爵の後を追ったが後ろからは貴婦人の笑い声がまだ聞こえていた。
私達の馬車の前に厳しい馬車がつけられており、そこへ子爵が乗り込んでいった。閉じられた馬車のドアに施されたご立派なお印はエルドレッド国の王家の物らしく、六角形の台座の中に輝きを表す放射線状のラインを背景に剣と魔獣のインガレの顔が刻まれている。魔獣のインガレはこの大陸で最悪最強だと言われその魔獣を倒せる王家は偉大だとかなんとかという理由で使われているらしい。案内人は国からの派遣なので王家の印が入った馬車を出しているようだ。
馬車に乗り込むと直ぐに出発となった。
「なんかムカついたんだけど」
馬車の中にはカイとリュディガー、ピッポがいる。後ろの馬車にサイラとミラが乗っている。四台もあるので別にみんなが一緒でなくても良いんだけれどこれから七日もあるのだからその時々に合わせて分乗すればいいだろう。
「確かに気分の良いもんじゃなかったな」
隣に座るリュディガーも呆れ気味だ。ピッポはなんの事だかわかっていない様子。
「時々あることだ、貴族にも色々いるからな。カフェにいた貴婦人達はまだ若かったけど家門の爵位がランベルティーニ子爵より上なのかもな」
「年齢は子爵の方が上でしょう?それをあんな馬鹿にした感じでさ!」
年が上だからって無闇に偉そうぶる奴もムカつくけど、爵位が上だからって聞えよがしに笑うなんて性格悪過ぎでしょ!
「エメラルドは本当にランベルティーニ子爵を気に入ってるんだな」
カイが驚きと呆れを含んだ顔で言った。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
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