74 港街4
店内に入ると何故かざわっとした後、全員が私達を見ている気がした。
「なに?なにかおかしい?」
さっき来た時も視線は向けられていたがここのオーナーの娘であるベルナデッタや息子のベニートに注目が集まっていた。その後みすぼらしい格好の私達へ眉をひそめるという感じだったが、今回は何かが違う。
「大丈夫だ。気にするな」
ニヤッとするカイが私の背にそって手を添え進ませる。ヒソヒソと囁く声が聞こえるか聞こえないか絶妙な感じだ。
「ふっ、やったわね」
「当たり前よ」
何やら後ろからついて来るサイラとミラがしてやったり顔だ。買い物に行く前は使用人は裏から入れって言ってたけれど二人にも新しい綺麗な服を着てもらい一見どこかのお嬢様風なので問題なかったみたいだな。ピッポもちょっと高級な服に替えたが、別に他には態度は変わらないので私が何かおかしい訳じゃないみたいだからもういいか。
階段を上りリュディガー達が居るはずの部屋の前にきた。さっきは気づかなかったがドア前には執事らしき風体の中年の男がいて入ろうとすると止められた。
「お嬢様、恐れ入りますがこちらは使用中の部屋でございます」
丁寧に説明され通りがかった店の使用人へ他の部屋に案内するようにと声をかける。
「あ、いえ、この部屋で良いはずです。私達はリュディガーの連れなんで」
そう言うとその男は私達をマジマジと見てハッとする。
「し……失礼致しました」
一瞬声を失いかけたという感じだったが改めてドアを開いてくれた。
「ベニート様、お客様がお戻りです」
やっと中に通されるとさっきのテーブルには誰も居なくて、少し離れた場所にあったソファで寛いでいたベニートと目が合い戻りましたと笑顔でお知らせした。離れていたかったのでテーブルの方にピッポとカイと座った。サイラ達は壁際に控えている。
はぁ、やれやれまだ王都からの案内人は来ていないのかな、なんて思っていた。
「エメラルドさん!」
「はいっ?」
急にベニートに名を呼ばれビクッとしてしまう。ソファからすくっと立ち上がりツカツカとこちらへ来る顔は目を見開き驚いているように見える。
「なんと見違えたな。さっきの姿でも意外性があって魅力的だったが着飾れば間違いなく美しい」
何故か手を取り立ち上がらせるとくるりと回され体全面を観察された。
私は今、サイラとミラに選んでもらった若草色のワンピースを着ている。肌触りが良くお高いんでしょうねという感じの生地で着慣れなくてちょっと落ち着かない。刺繍が施された可愛い襟とスカートの裾近くに生地と似た色の糸で小さい葉っぱの刺繍が散らされていて裾にはレースがついている。短い髪も少しオイルでケアされ綺麗に梳かれ眉も整えられて薄く化粧までされた。勿論化粧品なんて持ってなかったのでクラリス商会から買った。靴も可愛らしい白っぽい履きやすい物だ。細いヒールが付いているのは断固拒否した。
さっきと違うのはそれくらいだ。だからってなんなんだ?
理由がわからずぽけっとしているとベニートと同じ様に、今度はリュディガーがシュバッとこちらへ来るとベニートの手から私の手を取り上げた。
「いくらベニートさんでも不躾に触れないで下さい」
「お前だって私の妹に触れてるじゃないか」
「エメラルドは妹じゃないし、アレは私が触れてるんじゃなくて向こうが触れて来てるんです。兄として無闇に男に触れるなと言い聞かせて下さい」
余裕そうに笑っているベニートと違いお怒り気味のリュディガー。私的にはどちらも面倒臭そうで相手にしたくない。
リュディガーに握られた手をグイッと引っこ抜くと場所を移動しカイの一つ向こう、ピッポの隣へ座った。
「見ろ、お前が騒ぐからエメラルドさんが行ってしまったじゃないか。買い物をして疲れているんだから静かにしろよ」
ベニートがリュディガーを誂うように言うとテーブルを挟んで私の正面に座った。
「俺は別に騒いでなんて……」
「そうよ、リュディガー。都会どころか陸にも慣れていないエメラルドさんをゆっくりさせてあげなきゃ。それに、あの話をエメラルドさんにしてあげないと」
リュディガーを追いかけるようにこちらにベルナデッタも来た。
「あのってなんのことだ?」
「もちろん私と一緒にノエル国へ行く話よ」
「承諾した覚えはない」
苦々しい顔をしてベルナデッタを見ているが彼女はどこ吹く風という感じ。リュディガーの腕に自分の腕を絡ませグイッと胸を押し当てている。
「うわぁ、お嬢様があんな事していいの?」
ムカつくというより驚きが勝つ。
コソッと隣のピッポにいうと珍しく真面目な顔でコクリと頷く。
「何が悪い。あれは技術だ」
「技術?」
「そうだ、初級編だが見事だ。そしてお前には無理だ」
「なんでよ?」
「使える武器がない」
ピッポが真剣な顔で私の胸元に視線を向けている。ささやかな膨らみにそっと手を添えちょっと落ち込む。
いやしないよ、しないけど出来ないと言われるとなんかさ。
ゴスッとピッポの脛を蹴った。
「イッッッテ……」
ちょっと威力が弱かった気がする。なにせ今履いている靴は柔らかい布製だ。いつもの木製の靴底ならもっと攻撃力高目なのに。
「クックックッ、止めろよこんなところで。ヒィー、腹痛ぇ」
私達の会話を盗み聞きしてカイが肩を震わせている。
「なによカイまで私を馬鹿にするの?」
「してないしてない。大丈夫だ、エメラルドは今のままで」
大丈夫ってなんだよ!なんかムカつくな。
もっと文句を言ってやろうと思っていたらドアがノックされ案内人が到着したと告げられた。
急に部屋の中の空気がピリッと張り詰め座っていた私達も立つよう促され文句を言い合ってたリュディガーとベニートも口をつぐみベルナデッタもリュディガーから手を離すと部屋の中央にササッと並んだ。
今回案内人が迎えに来たのは特級遺物保持者の私とカイなので二人で一番前に立たされ他の人は少し下がった後ろに並んだ。
「エルドレッド国、王都よりお出でになった案内人、ボナベントゥーラ・ランベルティーニ子爵がお越しです」
長ったらしい名前を告げた後、もったいぶるように一人の男が部屋へ入って来た。
「ちっさ」
「コラッ……貴族様だぞ」
思わずまろびでた独り言である小声の悪口、いやいや、事実を隣のカイに聞かれて注意された。一番前とはいえそこそこ離れているのでお貴族様には聞こえていないだろう。
ランベルティーニ子爵とかいうちっさいオッサンはふんぞり返りトコトコと私達の前までやって来ると咳払いを一つした。
「私が国より遣わされた遺物保持者の案内人、ランベルティーニ子爵だ。二日後よりこの街を経ち王都へ向かう間、今日以降其方らと顔を会わせたり言葉を交わすことなど無いであろうからそのつもりで」
貴族らしい煌びやかなジャケットにウエストコート、トラウザーズを纏い、ちょっと高めの声、やや寂しい頭頂部を見られまいとしているのか顎は上げ気味でまるっと突き出した腹に人を見下した態度。性格悪そうな目つきに貧弱な鼻髭がどうにもツボにハマってしまう。
「なにあれ……」
「エメラルドっ」
再びカイに注意された。でもみんなアレを見てなんとも思わないの!?
「逆にちょっとカワイイ……」
「なっ!?」
カイが突然大きな声を出し、ランベルティーニ子爵にギロっと睨みつけられた。
「なんだお前は?」
「うっ、ゴホンッ、も、申し訳ございません。王都のお貴族様を前にしてつい緊張してしまいまして」
誤魔化すのに必死だね。
「ふむ、それは仕方がないのぉ。構わん、今回は許してやろう」
「寛大な御心に感謝致します」
おだてられ満足そうに目を細めるランベルティーニ子爵にカイがホッとして頭を下げながら私を睨む。
なんでよ?私は関係ないじゃない。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
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