73 港街3
二階の高級そうな応接室らしき所へ通された。
「こちらでお寛ぎ下さい。改めまして、本日はカイリ様をお連れ頂きましてありがとうございます」
ソファセットに座るよう促され私とピッポは座ったがサイラとミラは後ろに控える。
「カイリってカイのことよね?彼ってココとどういう関係なんですか?」
私の質問を聞いたハイデンは一瞬キュッと眉を寄せたがすぐに戻し少し考えた。
「恐れ入りますが私ではお答えしかねます故ご本人がいらっしゃるまでしばしお待ち下さい」
「そう……別にいいけど。私達は買い物する為にここに連れてこられたんだけど、ここって何を売ってるの?」
「何をご入用でしょうか?」
いつまで経ってもカイは来ないし知ってる店だって言ってたから信用しても良いのかなと思い、私は布で包まれた特級ケースを見せるとコンコンと叩く。
「これから王都へコレを持って行かなきゃいけないの。何もかも無くしちゃったから着替え、日用品、必要なものを見繕って欲しいの。後ろの二人のもお願い」
サイラとミラも何も無いもんね。
「エメラルド様、私達は結構です」
「いや駄目だよ。人のこと言えないけどその格好は酷い」
オリエッタ商会で過ごしている間は洗濯している間とかは服を借りていたけど降りる時に元の服装に戻してきた。借りた服は体に合ってなかったしどうせすぐに買い物するつもりだったからだ。色々な困難をくぐり抜けた私達三人の服はそりゃもう酷いもんだ。
私の指摘にサイラとミラがお互いを見合いため息をつく。
「恐れ入りますが服を一着だけお願いできますでしょうか?」
「もちろんだよ」
一着じゃ済ませないけどね。
ハイデンは承知致しましたと言ったっきり部屋を出ると中々戻って来なかったがその間にやっとカイがやって来た。
「待たせたな……」
「お疲れ様?」
アスピドケロンから逃げた時よりグッタリしてるけど大丈夫なの?
カイの横にはちんまりした老婆が満足気な表情で私達を見ている。大きさはカイの半分くらいだな。小さいながらもシャキッと背筋が伸び老婆と言えど生気が漲っている。店の玄関先でカイに飛びついて見せたあの跳躍も見事だった。
会頭だというアライサはふんだんに刺繍を施した朱色を基調とした生地で作られた長衣を纏い腰には独特な幅広の飾り紐でゆったりしめられている。足元は艶のある革のブーツ。これにも刺繍がびっちりされている。
「ノエルの民族衣装ね」
オジジとメルチェーデ号で勉強した時の本に挿絵があって見たことがある。しかもこれほど見事に刺繍で埋め尽くされた服は高位の人物だけが纏うことを許されているものだ。刺繍されている一つ一つの模様に意味があり代々受け継ぐ柄があって次代に新たに刺繍が足されて数が増え複雑になっていくのだと本で読んだことがある。
私がマジマジと刺繍を見ているとアライサがほうと頷く。
「若いのによく勉強なさっておるようじゃ。最近では我らのこの衣装もとんと見かけんのにの」
「実物は初めて見ました。本を読んだだけなので」
顔をあげ立ち上がると改めて挨拶をする。
「私はエメラルドと申します。アライサ会頭」
「ピッポと申します」
ピッポも同じように立ち上がり礼をとる。コイツも最近本を読んでいるだけあってこのアライサがノエルの高位者だと気づいたようだ。
「私はアライサだ、そんなに畏まらなくていいから座んなさい。あんた達よく孫のカイリを連れてきてくれたね」
アライサは気の良いおばあちゃんという感じで親しみやすそうだ。
「孫なんだ」
私は向かいに座るカイにそう言うとダルそうな顔をされた。
「外孫だ」
「そこ重要なの?孫は孫でしょう?」
普段は私より大人に見えるカイがおばあちゃんの前では小さい子にでもなったような表情をみせている気がする。私はそれが面白くてニヤニヤしているとカイの隣に座っているアライサが嬉しそうに目を細める。
「カイリは子供の頃は小賢しいところがあってな。よく大人達を見下して年の近い親族からも嫌われておった」
嬉しそうな顔と発言が一致してない気がする。
「婆さん余計なことを言うなよ」
「生意気言うと昔みたいにぶん殴るぞ」
イヤだから、顔と発言が一致してないって。
アライサは終始ニコニコしているがカイはなんとも言えない感じだ。でも口は悪いが態度は悪くなく、このお婆さんが好きなんだとわかる。
「お待たせ致しました」
やっと戻って来たハイデンがドアを大きく開けたかと思うと、次々と大きな箱が運び込まれそこから色々な物が取り出され並べられていく。服や靴、鞄はもちろん、装飾品やティーカップセット、食器、絨毯、寝具、クッション。まるでお金持ちの引っ越しのような有様だ。
「なにこれ!?」
私が驚いているとカイがテキパキ指示を出す。どうやらこれから買い物を始めるようだが私が思ってたのとは全然違うんですけど。
「ここから王都まで向かう。馬車は四台。特級持ちが俺とエメラルドだ。護衛も数人必要だ」
アライサが一瞬視線を私に向け、そのまま膝に乗せている特級ケースを包んでいる物を見た。
「新しいケースも用意しておやり」
そう言うとハイデンが頷きすぐに部屋を出た。
え?ちょ、ちょっと待って。
「会頭、特級ケースには特定の発信機がついているから入れ替えは出来ないんじゃないですか?」
「大丈夫じゃ、うちで記録を載せ替える事が出来る」
ここでって……そんなの聞いたことないんだけどと思いカイを見ると大丈夫だと言うように頷いた。
「特級ケースを扱える業者はきちんと管理されている。クラリス商会もその一つだから安心しろ。入れ替えには俺も立ち会う」
「そう……だったらいい」
隣のピッポも良いんじゃねぇかって言ってるし、カイは私を無事に連れて帰るって契約を結んでいるんだからここで騙すことはないだろう。
そこからは怒涛の買い物地獄だった。
私の服をサイラとミラが熱心に選び抜く。下着や夜着、靴等など、サイズを合わせなければいけない物の試着だけでグッタリしていた私をよそに、絨毯や寝具等などそれって馬車旅に必要なの?と疑問に感じる事があったがなにせ初めての陸で、馬車旅で、買い物だ。もう言われるままに買うしかない。
数時間後にやっと選び終わった満足ドヤ顔のサイラとミラ。グッタリしている私とカイ。何故かドサクサに紛れて自分の服も選んでいたピッポはご機嫌で。やっとリュディガーが待っているオリエッタ商会の店に戻る事になった。
注文した物は王都へ出発する時にあわせて持って来てくれるが、服を含めた日用品はこのあと宿泊する所へ運んでくれるらしい。宿はカイを通じて知らせるのかな?とりあえず新しい服に着替えよっと。
私の特級ケースは無事に新品に変えられた。新しい特級ケースの魔晶石と壊れた方の魔晶石を入れ替え私が確認のためそこへ魔力を登録すれば完了という簡単なものだったが、素人には魔晶石がどこに設置されているかも取り出し方もわからないらしい。
買い物している間に特級ケースは斜め掛け出来るように改良され革紐が取り付けられていたので安定感を持って携帯出来るようになった事が喜ばしい。カイのにもついでに取り付けられていた。
意外とあっさりアライサ会頭と別れ、帰りはクラリス商会の馬車でオリエッタ商会の店の前まで送ってくれた。店の前に立つとドアマンが営業スマイルでいらっしゃいませとドアを開ける。
「え?入っていいの?」
てっきり渋られたあげく確認してきます的な態度を取られ待たされた後にさっさと行けよって感じになると思ってた。さっきもそんな感じだったし今はリュディガーもベルナデッタもベニートもいない。
「もちろんでございます、お嬢様。ご来店下さいましてありがとうございます」
こいつマジでさっきの奴と同一人物か?気持ち悪い笑顔だなと思っていたら後ろでサイラが軽く咳払いをした。
「エメラルド様っ。参りましょう」
何故か私の名前を滑舌良くハッキリくっきり気持ち大きめで呼ぶと店へ入るよう促した。その瞬間、ドアマンの気持ち悪い笑顔が固まった。私に向けた視線を上から下まで何往復もしゴクリと喉を鳴らす。
キモッ。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
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