72 港街2
「迎えってまだ来ないのかなぁ?」
二階にある個室へ案内され丸いテーブルの隣に座るカイにため息を交えつつ視線を向ける。
「確かに遅すぎるな」
カイはやっぱり口数が少なく大人しくしているのでつまらない。ピッポは早々に席を立ち窓から外を眺めている。私もそこへ行きたかったがなんだか知らないけれど反対隣の席はベニートが座っていてやたらと話しかけられて抜けられない。
「エメラルドさんは何歳から発掘を始めたんだ?」とか「遺物を発見した時はどんな気持ちがした?」など。本当につまらない質問に適当に答えていたら最後に「これほど時間がかかるなら先に買い物へ行く方が良いかも知れないな」と、やっと有意義な話をした。
「そうですねそうします。リュディガー、案内人がここに来たらそう言ってもらっていい?」
そう言って立ち上がりリュディガーの方を見たが、私より酷い状況に同情しちゃう。
リュディガーとベルナデッタはテーブルは四人掛けだからと二人だけ別に座っていた。いや四人なら私達庶民組でちょうどなんですけど、などとは言えず、何故かベニートがこちら側に来ていたのだ。部屋にはゆったり寛げる高級そうなソファもあるというのに。解せぬ。
近い距離で二人でお茶してるリュディガーはこちらに背を向けているので表情は見えないけれど微動だにしない姿に心中お察し致しますって感じだった。
「待て、俺も行く」
立ち上がりかけたリュディガーの腕をベルナデッタが掴む。
「リュディガー、女性の買い物は時間がかかるものだし待っていられるとゆっくりと選べないわ」
「は?そんな事は問題ない。俺はいつもベルナデッタの買い物に付き合ってたんだから慣れてる」
そう言ってからハッとして私を振り返る。ぷはっとピッポが吹き出し睨まれていた。
「リュディガーったら。私は買い物に慣れているけれどエメラルドさんは初めて行くのだから気遣ってあげないと」
「だ、だが初めてだからついて行ってやらないとどこにどんな店があるかもわからない」
「だったら私がついて行こう」
突然のベニート参戦に顔が歪みそうになる。
なんでお前なんだよ。
「いや結構です。ピッポと行くんで」
「彼だってこの街に詳しいわけじゃないだろう。私が行くよ」
なんだか張り切っているベニートを止めるようにカイが立ち上がる。
「あぁ~俺が行きます。街にも慣れてるんで。行くぞエメラルド、ピッポ」
そう言って私の手を取りさっさと部屋を出た。ピッポも退屈していたのでヤッターと言いながらついて来た。部屋の隅に待機していたサイラとミラにも声をかけて一緒に階段を目指す。
逃げるように店を出てカイに引っ張られるままに通りをどんどん歩いていく。オリエッタ商会の店が見えなくなる所まで来た時にやっと手を離され足を止める。
「「はぁ〜〜〜〜〜」」
カイと二人で同時に大きなため息をつく。
「なんなんだあいつら」
「陸のお茶する店ってあんなに疲れるの?」
お茶するってもっと寛げるもんだと思ってた。
「二人ともなにぐったりしてんだよ。確かに退屈だったけど」
良いよなぁピッポは。時々究極に空気読めないから。
「エメラルド様、カイ様も店に入る前よりお疲れのようですね」
サイラとミラが私達の様子を見て心配してくれる。ホントそれ。
ひと息ついてカイが知っている店に連れて行ってくれることになり歩き出した。
「それにしても疲れたわ。ベルナデッタさんはともかくベニートさんは一体なんなの?」
歩きながらボヤいているとカイがまた手を繋いできて馬車が通り過ぎるのを待って通りを横切る。
「エメラルドに興味があるんだろ」
「興味ってなによ。あんな大きな商会の人間が私になんの用があるのよ」
まさか愛人とかでもないだろう。ベニートから見れば私なんてまだまだ子どもに見えるだろうし、入店を断られるほど場違いな格好だ。いくら私がここエルドレッド国で珍しい金髪翠眼でも国外を飛び回るベニートには目新しくもないだろうし。
私が自分の短い髪をつまんで見ているとカイがフッと笑う。
「容姿だけが人を引き付けるわけじゃない。お前が予想外にキチンとした言葉遣いと礼儀を知っていたから驚いて目についたんだろう」
そんなことぐらいで興味を持たれるなら雑に応対してれば良かったよ。
「だけど、その……あれは、良いのか?」
カイがなんだか気遣うような素振りもじもじしてる。
「なに?気持ち悪いわよ、ハッキリ言ってよ」
「気持ち悪いとか言うなよ。俺の扱い雑過ぎるぞ」
文句を言ってる割に嬉しそうなカイ。やっぱちょっとキモいな。
「リュディガーのことだよ。ベルナデッタお嬢様がずっとベタベタしてるのは気にならないのかって話だ」
「気になるけど?」
「なるのかよっ。その割に冷静に見てるな。相手はお前のこと意識しまくってるぞ」
話しながら大通りから少し入った静かな場所まで来ると数軒目の店先に立つドアマンにカイが軽く手を上げた。
「あっ!!」
ドアマンはこの辺りの雰囲気に見合わないほど大きな声を上げると凄い勢いで店へ入って行った。
「だけどお前ってサラッと流してるよな」
いや何事もなかったように続けるんかい。
「だって私には関係ないじゃない、お嬢様の考えなんて。これはリュディガーの問題でしょ?」
ベルナデッタといちゃついてようが私を見下してようが私自身には関係ない。ただ巻き込まれるのは疲れるから離れた所でやって欲しい。
「リュディガーにはいつも女が付き纏うからな。エメラルドはけっこう慣れてんだよ」
ピッポがいい合いの手を入れたタイミングでさっきの店の前まで来た。途端、バンッと豪快にドアが開かれ何かが飛び出して来た。
「カイリーーーっ!!!」
ばすっと勢いよくカイの顔辺りに張り付き彼がヨロヨロと数歩後ろへ下がる。
「な、なにやっ……はや……」
「カイカイカイカイカイカぁーイリ!良かった無事でー!!」
カイの名前を連呼し頭から貪りつかんばかりに撫で回しながら号泣する何か。
「魔物?」
「いえ、クラリス商会会頭のアライサ様です」
いつの間にか隣に黒服のキリッとした男がいた。
「クラリス商会って魔晶石の加工技術が優れてるって言われてるとこだな」
ピッポがちょっとマヌケそうなほえ~って顔で店が入っている建物を見上げて言った。私もつられて見上げたが五階建てのかなり立派な物で通りに面してズラッと横に五つの店舗が入っている一角だ。どこまでがクラリス商会の物なん……
「建物全体がクラリス商会の物で貸し出しております。申し遅れました、会頭の秘書兼雑用のハイデンと申します。本日はカイリ様をお連れして頂きましてありがとうございます。ではこちらへどうぞ」
おぉ、なんかわかんないけど凄い奴だなハイデン。
食い気味の説明から流れるように店内へ入るよう促される。
「え、アレは?」
「捨て置いて大丈夫です」
会頭を捨て置いていい商会なんだ。
まだまだ盛り上がっている謎のカイとアライサを残したまま私達は先に店の中へ入って行った。
中では数人の人達が落ち着きを装いながらも滅茶苦茶早足で歩きながら何事かを手配しているようだった。
「会頭のこの後の予定は全てキャンセルで」
「お取り引き様には丁寧に謝罪してお帰り頂いて」
「次回のお値引きをお約束していいですか?」
「それは来てから相談ね」
口々に小声で何かを確認し合っていて忙しそうだ。
オリエッタ商会の店と全く雰囲気が違うシンプルで上品な感じのロビー。ここはお茶するところじゃなくて仕事をするという感じだ。
右側にあるカウンターデスクには綺麗なお姉さん達がいて客を出迎えるように笑顔を向けられた。
ちょっとずつしか投稿出来ておりませんが宜しくお願いします。
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