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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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71 港街1

あぁ~ストックがぁ~

また飛び飛びになりそうです。

すみません。

「わぁー、凄い!これが馬車なのね」

 

 オリエッタ商会の馬車は港で見た他の馬車より豪華で大きく六人乗り。私とピッポ、カイが並んで座り、向かいにベニート、ベルナデッタ、リュディガーが座っている。私の前はベニートだ。

 

「ハハッ、馬車は初めてかな」

 

 ベニートが私がはしゃぐ姿に乾いた笑いを投げてくる。

 

「はい、乗せて頂いてありがとうございます。それと改めまして救助要請に応えて頂きありがとうございました」

 

 座ったままだったが頭を下げると丁寧に礼を述べた。助けてもらったんだから一度はキチンとお礼を言っとかないとね。

 

「い、いや、救助要請に応えることは船に乗る者の義務なのだから構わない」

 

 ベニートはちょっと驚いたような顔をした。いきなり礼を言うのは駄目だったかなとチラリとリュディガーを見たが小さく頷かれたので大丈夫だったようだ。

 

「臥せっていたとはいえご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はエメラルドと申します。私の捜索にあたりお手数をおかけいたしまして申し訳ありませんでした。ですがお陰で救われました」

 

 話の途中で愛想笑いを入れろって回収船で知り合ったお姉さん達が言ってたのを思い出してにっこり微笑む。

 

「それにいつも寄港の際にリュディガーがお世話になっているようでありがとうございます」

 

 身内が世話になったなら挨拶も忘れるなって言ってた。もうこれで必要な事は済んだかなと最後にもう一回笑顔を浮かべて外面スイッチを切った。

 

「見て見てピッポ!あんなに人が……あそこで何か売ってる!?」

 

 直ぐに横にいるピッポの袖を引っ張り馬車の窓から見える街の光景に視線を移す。

 

「わかったから引っ張るな。すみません、ベニートさん、窓開けてもいいですか?」

「あ、あぁ、勿論だ」

 

 直ぐに開かれた窓から顔を出し通りの店を目で追っていく。本で読んだりお姉さん達に話を聞いたりしていた光景が目の前にある事に想像以上に興奮していた。

 街には人も物も溢れかえり活気がある。忙しく働く者や楽しそうに買い物をする女性がいて見ているだけでワクワクする。

 

「まぁ、初めて街に来た田舎娘より嬉しそうですわね」

 

 馬車から見える街を楽しんでいると若干見下すようなベルナデッタの発言が聞こえてくる。若干じゃないかな?

 

「そうなんです、何もかも初めてで驚きの連続です。ご挨拶が遅れました、エメラルドです」

 

 やや大仰に言葉を返しついでに挨拶もしておく。ベルナデッタはちょっと呆れたような顔をしたあと自己紹介してくれた。

 

「ベルナデッタよ。リュディガーの妹さんですってね」

「リュディガーによれば妹は居ないそうです」

「あらなんて酷い事を言うのリュディガー。一緒に育った妹さんが可哀想じゃない、ねぇ?」

 

 リュディガーを叱るような口調で彼の腕に手をかけ嗜めるように顔を覗き込む。リュディガーはその手をそっと外そうと腕を動かす。

 

「本当の事だ」

 

 そう言ってベルナデッタの方を見る。

 

 なんかイチャついてるな。こんな狭い所で身内の目の前で恥ずかしくないのかい。

 

 私はうわ~って気持ちになりながら再び外を眺めた。

 港から直ぐの街は煩雑で小さな店や家が建ち並び、馬車が通る大通りから細い路地があちらこちらに伸びていた。服装もシンプルで実用的、行き交う人も多く徒歩の人が殆どでメルチェーデ号で暮らす人と似た雰囲気だった。


 そこから少し上って港から離れると道幅が広がり大きく高い建物が増えて来た。徒歩の人が減り馬車が増え並ぶ店も整頓され綺麗に飾られている。服装も目の前にいるベニートやベルナデッタのような着飾る人達が目につく。


「我々の住まいはもう少し上なんだが、今はあの店に行こう」


 最初と違い私が少し落ち着いて景色を見ていると何故かベニートがそう教えてくれすぐに馬車が止まった。


「高そうな店だな」


 ピッポが小声で言った言葉にベニートがオリエッタ商会が経営する店だと教えてくれた。


 もしかして払ってくれるのかな?ラッキー。


 ピッポもそう思ったのか二人で顔を見合わせてニヤリとした。馬車のドアが開かれ端に座っていた私が降りようとするとカイが私を押えて先に降りていく。大人し過ぎて存在を忘れてたよ。

 彼は振り返ると手を差し出してくれた。


「ありがとう」


 素直に応じて支えてもらいサッと降りる。続いてピッポ、リュディガーが降りて来たので場所をあけるとベルナデッタがリュディガーの名を呼んだ。


「お願い」


 手を差し出しエスコートを要求している。パンツ姿の私と違い彼女のワンピースの丈は長くヒラヒラ装飾も多い、高くて細いヒールの靴で油断すれば転げ落ちそうだ。

 断れないリュディガーが手を貸しベルナデッタが降りるとすぐにベニートも降りて躊躇いなく店へ向かう。

 店側もオーナーが来たのだから流れるようにドアを開け案内して行く。私達はベルナデッタと彼女をエスコートするリュディガーの後に続いて店に入ろうとしたがドアマンらしき男に遮られてしまう。


「使用人はこちらへ」


 そう言われ正面ドアから遠ざけられそうになった。


「待ってくれ、俺の連れだ」


 慌ててリュディガーが声をかけてくれたがドアマンは納得出来ない感じで私達をジロジロと見てくる。


「リュディガー様の使用人でもこの格好では店の品位に相応しくないので正面からの入店は困ります」

「俺も似たようなものだろう」

「リュディガー様はこの者達とは違います。ガストーネ様からもそう申し付けられておりますので」


 店前でリュディガーとドアマンがごたついているのにベルナデッタが手助けもせず私を見てクスッと笑う。若干見下してくるよね。若干じゃないか。


「だったら俺も裏にまわる」


 リュディガーがムッとした顔でベルナデッタの手を離し私の傍に来ると背に手を添え建物の脇へ向かおうとした。


「もういいわ、私が許可する。すぐに個室へ入るのだから構わないわ」


 ベルナデッタが騒動がおさまりかけた頃になったてそう指示をだした。私達がまわりから十分に注目を浴びてからタイミングを見計らった感じがする。だったら最初に言ってくれればいいのに。お嬢様って変わった事するなぁ。


 私的にはどこから入ろうがどうでもいいけれどリュディガーは気にしていたようだ。

 やっと店の中に入るとそこはメルチェーデ号の食堂の半分くらいの広さのホールだった。高い天井、美しく装飾された壁には絵画がかけられ、高級そうなテーブルやイス、ふかふかの絨毯、そこに着飾ったご婦人方や紳士達が優雅にお茶を飲んでた。


「ふわぁ……」


 流石にはしゃいで大声を出してはイケないことがわかった私は自分の口を手で押さえた。どうやらここはカフェと呼ばれる陸でお茶するところのようだ。


「ひゃ~~」


 ピッポはちょっと空気が読めないから仕方がない。

 でもピッポの向こうにいたカイがかなり落ち着いた様子だった。


 そうか、カイはお金持ちの息子だったな。


 リュディガー達と合流してからうっかり存在を忘れそうになるがカイはそれなりの商家の出だと言っていたことを思い出し、もしかするとこんなところも慣れているのかも知れないと思った。カイは少し俯き加減で誰とも目を合わせないようにして気配を消している。


 それが気になりつつもホールの真ん中を突っ切るように店内を進むと全てのテーブルの人が黙って私達に注目している事に気がついた。さっきまで客達のおしゃべりでざわついていたホールが嘘のように静まり返りかなり居心地が悪い。

 ベルナデッタはそんな事を気にもせずホールの奥にある階段まで行くと振り返ってこちらを見た。正確にはリュディガーを。


「お願い」


 可愛らしく微笑み手を差し出しエスコートを催促している。私の横にいた彼は少〜し頬をピクッとさせたが笑顔を張り付けると重そうな足を進め離れて行った。



 

読んで頂きありがとうございます。

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