67 オリエッタ商会7
暗闇の中、救命艇の明かりだけを頼りにエメラルドを探していた。焦りが頂点に達し流れが速い海へ飛び込みたいような気持ちを抑えるのに苦労する。
「クソッ、なんで特級ケースを持ってないんだ!」
救命艇の操舵室の壁を蹴り飛ばしながらイライラを吐き出す。
それさえあれば発信機で見つけることができたのに。あれほど肌見放すなって言ったのに。
「エメラルドはちゃんと約束を守ってた。だけどキングクラーケンに狙われて奪われたんだ」
「はぁ!?」
カイが救命艇を操縦しながら信じられない事を言う。特級ケースには魔物避けが備わっているはず。避けることがあっても取り上げるなんて聞いたことがない。
「キングクラーケンがあの島に引っぱっていったのか?」
ピッポが聞いたこと無いなぁと呟きながら首をひねっている。
「俺も初めての経験だ。ダキラ船長も驚いてた」
魔物討伐船の船長も知らないならかなりレアな事だろう。キングクラーケンに遭遇することすら希少なのにこんな事が起こるなんて考えられない。
「あのキングクラーケンはなんだか他の魔物と違う感じがした。俺達を連れて行った割に放り出し離れて行ったり、かと思えば特級ケースに執着しているようでもあった。特にエメラルドの特級ケースを気にしていた感じだった」
エメラルドの特級ケースには第一区分の特級遺物が入っていた。アレが何らかの影響を及ぼしているとでも言う気か?
だがそんな事を考るより今はエメラルドを探す方が先だ。
一晩中周辺の海を探したがエメラルドは見つからなかった。
明け方空が白み始めピッポが一旦オリエッタ商会の船へ戻ろうと提案する。俺はエメラルドが近くにいるかも知れない場所から離れたく無かったが、あの船ならより広い範囲を探せるからと説得された。
オリエッタ商会の船へ戻ると事情を説明し、既に魔物は倒し安全は確認できたので島まで救助に向ってもらった。
島で待っていた魔物討伐船の乗組員を救助し、改めてダキラ船長がオリエッタ商会の番頭ベニートに感謝を伝え事情説明をしていたようだ。
その間も俺は救命艇でピッポと何故かカイも一緒にエメラルドを探していた。他の者達も同じ様に小型ボートを出し捜索してくれていたが一向に見つからず。
エメラルドが居なくなって三日目。
ベニートから今日で捜索を打ち切ると宣言されてしまった。
「待ってくれ!もう少しだけ頼む」
「残念だが駄目だ。俺達も救助した奴等もこれ以上ここに留まることはできない。食料もその他の物資にも限界があるし、仕事をこれ以上止めることはできない。それに、既に三日だ。諦めた方がいい」
ベニートの話に胸が苦しくなる。傍にいたピッポが俺の肩に手を置き心配そうに俺の顔をジッと見ている。
ピッポ……酷い顔色だ。やつれて疲れ切っている。俺と一緒に休むことなくエメラルドを探しているせいだ。俺も同じ感じかな。だが……
「エメラルドは生きてる」
「リュディガー……」
「あいつが死ねばわかる。この近くにいるはずだ。俺を待ってる」
操舵室の中にいる全員がエメラルドは死んだと思っている雰囲気だ。だが違う。あいつは生きてる。
「あっ」
その時モニターを見ていた船員が声をあげた。
「どうした?」
ベニートが直ぐに近寄り問いかける。
「救命具の信号が……」
ここから数キロ先にポツンと光る救命具の信号。
「絶対にエメラルドだ。行ってくれ!」
ベニートがこれで最後だと横で騒いでいるが関係無い。これはエメラルドが俺を呼んでいる信号だ!
確信に近い考えは誰も信じていないようだった。ピッポすら痛ましいような目で俺を見ている。ただカイだけはキリキリ張り詰めたような顔でモニターを食い入るように見ていたと後でピッポから聞いた。
リュディガーが私の手を握りしめたままグラリと頭を揺らす。
「そろそろ限界だな。ほら行くぞ」
ピッポが私のベッドの側に置いたイスに座っているリュディガーの腕をガシッと掴み引っ張りあげて立たせる。
「いや、大丈夫だ……自分で歩ける」
「無理だよ早く来い」
口では抗おうとしているが全く力が入っていない足取りで、どうやら私を探している間一睡もしていないことがわかる。ピッポは私が見つかった時点で仮眠をとったらしいがリュディガーは医務室の前で私が目覚めるのをずっと待っていたらしい。通路に座り込み小間切れにうつらうつらしていたらしいがそんなの寝た内に入らないだろう。
「私ももう少しゆっくりするからリュディガーも寝な」
「おぅ、何かあったら呼べ。すぐ、横の、部屋にいる……」
ぐらんぐらんに首を揺らしながらほぼ意識がない感じでピッポに引きずられるようにしてやっと出て行った。デカい男が倒れると運ぶのが大変そうだからね。
二人が出ていきサイラが顔をだした。
「エメラルド様、お医者様がいらっしゃいました」
バッと現れた白衣の女医は長い白髪を後ろで一本に結わえ何も言わずに私の顎を掴んで左右にクイッと動かす。乱暴なようで手つきは優しく、丁寧ではないが鋭い目つきで何やら診察してくれているようだ。
「まだ十分じゃないが動ける程度には回復してる。少しずつ慣らしていきな」
「ありがとうございます。ミネルバ先生」
雑い感じだがこの数日でここまで回復させてくれたのだから名医には違いない。
「感謝は形で表してもらう主義だからね。船を降りるまでに支払いの目処をつけときなよ」
ミネルバはパサッと一枚の紙をベッドサイドに置くとひらりと白衣をなびかせ早足で出て行った。
えっ!?どういう意味?
直ぐにそれを手に取り開くとそこに……
「ご請求額、百八十二万フィール……ナニコレ、まさかの治療費!?」
いやいやいやいや、いや高くない?いや高くないかい?
信じられない金額に呆然とする。
何日かかったっけ?四日、五日でしょ?それでこれって……
「サイラ、私ってどんな治療したの?」
「治療ですか?一般的なものだったと思いますが……」
私は極度に衰弱していたため、回復薬を直接からだに入れる注射と栄養剤の点滴、そして傷の手当てだったらしい。自分では気づいていなかったが背中に酷い打撲痕があったとか。請求書の二枚目に詳細が記されていた。
「うわっ、ヤラれた。これ上級回復薬じゃない」
この時代の回復薬は昔と違い弱った体に一気に入れるとショックを受けて悪化する恐れがあるため数日かけて点滴で入れていく。最初の注射は体を休めるために眠らせる麻酔のようなものだったらしい。
……この時代ってなんだ?
ふと自分の考えに疑問が浮かぶ。頭の中にはどの様な状態でも使える回復薬があったような気がして変な感じだ。そんな夢のような薬があるわけない、よね?
そんな事を考えていたらドアがノックされトレーを持ったミラが入って来た。
「エメラルド様、少しお食事をなさいませんか?」
「わぁありがとう。言われてみればお腹減ってるわ」
ミラが嬉しそうにサイドテーブルにトレーを置いてくれた。
「それと、体調がよろしければカイ様が面会されたいと仰っておられますがどう致しますか?」
「はぁ?カイが来てるの?面会とか訳わかんないんだけど。入ってくれば良いじゃない」
なんだかよそよそしい態度な感じがちょっと笑ける。今更許可とか必要か?
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