65 オリエッタ商会5
フィランダー国の島か大陸へ行くならエルドレッド国へ行くより早く合流できると喜んでいたのに。魔物討伐船は貨物船のルートも外れ魔物がよく現れるという海域を通りエルドレッド国へ向かっているらしい。
俺がムカムカしている様子をベニートがニヤニヤしながら見てくる。
「リュディガー、今回は高くつきそうだな」
ただでさえ急遽載せてもらった負い目があったのに、行き先を何度も変更するとか船が魔物に襲われてるだとか騒いで手間をかけているのは確かだ。
「すみません、もう一度変更をお願いします。かかった経費は全て俺が払いますから」
船長が、というより俺個人が払うと言ったほうが誠意が伝わるだろう。少しは船長にも負担してもらってもいいがそれは後でいい。
「ふ~ん、お前個人でそれだけ払えるってことか」
ベニートが独り事のようにボソッとこぼす。表向き俺はただの船長モッテンの部下で回収船の平船員という肩書きだ。普通の居住区に住み普段は船の溶鉱炉やエンジンルームで働いている。重要な役職ではないが幹部の身内だから他の船員達とは少し違うと思われていただろうが出来るだけ目立たないように動いてきた。
今回の事でベニートには色々と勘ぐられてしまうだろう。ただの妹のお気に入りのオモチャが何か変な動きを見せれば徹底的に調べ上げられるかも知れない。これは上に報告案件だな。まぁ遅かれ早かれ今回の事が無くてもエメラルドが大人になっていけば多少はバレていっただろうけど。
「ちょっとベニート兄さん、私の話を聞いてよ?」
お強請りに来たはずがすっかり出鼻を挫かれたベルナデッタがようやく口を挟む余地ができたと思ったのか切り出した。少し機嫌が悪そうだ。
「なんだベルナデッタ?」
「急いでメルチェーデ号の船長に連絡をしてリュディガーをノエル国へ連れて行く許可を取って欲しいの」
「なんだまだ諦めてなかったのか?」
「そんなわけ無いじゃない。せっかくリュディガーが船を降りているのよ」
いつも会う時はエルドレッド国の港でもちろん仕事中だ。精々一緒に食事をするか無理矢理買い物に付き合わされるか。時間も限られていたし港町から出ることは無かった。ベルナデッタに気に入られている事はわかっていたから距離感には気を付けていたんだが。
「ベルナデッタ、メルチェーデ号と通信するには距離がある。あちらもエルドレッド国へ向かっているならそこで話をすることになるだろう」
不機嫌に眉を寄せるベルナデッタをよそに思わず拳を握りしめて密かにヨシッと思う。
魔物討伐船に救助されひと安心だったはずだが、その船が魔物がよく目撃される海域を通ることが予測されると聞きイライラしていた。いくら目撃情報が多くとも遭遇率はそれほど高く無いと知りつつも落ち着かない。
だけど流石になにも起こっていないのに操舵室に居座るわけにいかない。ピッポは船員達と仲良くなり船のエンジンルームの中にも案内してもらえると嬉々として出て行った。相変わらず人懐こく初対面の相手にも取り入るのが上手いやつだ。
そして俺は応接室へ連れて行かれ目の前にはベルナデッタが座って優雅にティーカップを口に運んでいる。
「私と一緒にいるのにそんなにイライラしないでよ」
「あぁ~悪い」
謝罪を口にしながらもエメラルドの事を考えていた。
まったく次から次へと心配かけやがって。
苛つく俺に文句を言いながら、ベルナデッタは通信が届かないと言われてた後も諦める様子はない。ノエル国へ行く費用はオリエッタ商会が持つから心配ないだの、あの国の遺跡を詳しい現地の人に案内させるようにするだの、俺の気を引こうとアピールしてくる。
全く一体俺の何が気に入ったんだか。
ベルナデッタほどの容姿と家柄があれば優秀な相手が選べるだろう。平民とはいえ望めば貴族へ嫁ぐ事だって叶うに違いないし、父親のヴァスコ会頭も娘の嫁ぎ先はある程度選定済みだろう。これほどの財を成した平民の娘で好き勝手に贅沢をしていても嫁ぎ先は父親の言いなりだ。
ベルナデッタもそういうもんだと思っているだろう。自分で生きる道を選べない事は少しだけ可哀想だなと思った。
ベルナデッタはエメラルドと一つしか年が違わない。去年成人したばかりだが既に何度も顔合わせという名の見合いをしているという。ヴァスコ会頭にしてもできるだけベルナデッタの意向を汲んでやりたい気持ちもあるのだろう。
「ねぇ聞いてるの?」
「あぁ、遺跡に連れて行くって話だろ?」
「違うわよ!発掘費用をお父様にお願いして負担してあげるってことよ」
ノエル国での発掘はオジジとエメラルドの目標だ。だからそれなりに魅力的な申し出だとは思うが、俺とオジジ、そして今回のエメラルドの遺物売却の金があればそこそこの金額が確保できる。発掘費用はいくらあってもいいだろうが、それで何某かの制限をかけられるのは嫌だな。
俺がどうやってベルナデッタの誘いを躱そうかと思っているとピッポが応接室へ顔を出した。良いタイミングだピッポ、流石だな。
「楽しそうに話してるとこ悪いんだけどさ」
「問題ない、どうした?」
ベルナデッタがちょっとムッとしてるが見ないふりだ。
「船員のジムがさ、なんか気になるって言ってるんだ。ベニートさんはモニターのバグだって言うんだけど」
ピッポに連れられ操舵室に行くとモニターを一緒に確認する。
「これなんだけど」
モニターには特級ケースが魔物討伐船に重なった横に魔物の赤い光が映っている。えぇっ!っと驚いたが誰も騒いだりしていない。
「心配するな。これはさっき魔物討伐船から魔導砲で仕留めた魔物の光だ」
魔物はモニター上には赤い光で表示されるがそれは魔物が持つ魔力を感知しているからだ。魔物の魔力は命が途絶えると散ってしまうので倒された魔物はモニターには映らない。ベニートは笑って大丈夫だと続けて話す。
「まだこのモニターも開発途中なんだ。試作段階の時も魔晶石の切り替え時に多少画面のノイズや歪みがあったんだ。これもただのバグだ、よくある事さ」
確かにメルチェーデ号のモニターだって仕留めた魔物の光が時間が経ってるから消える事もあった。
ピッポを振り返るとジムという船員を側に呼び話を聞けという。
「あ、あの、確かにバグも時々あるのですが」
ジムは上司であるベニートが問題ないと言っている事に逆らう形になるので遠慮しているのか口ごもる。
「かまわん、部下の意見ぐらい聞く耳は持っているぞ」
ベニートは寛大さを示しながらも自分の判断に自信がありそうだ。
「モニターのバグでこれまで起こったのは、魔物の光が時間が経ってから消えたり、歪んでボヤけたりとかはあったんですけれど、一回消えて時間が経ってからまた点くってことはありませんでした。だから……」
首筋にざわっと冷たい物が走る。
「まさか二体目じゃ……」
再びモニターに目を向けるとそこに映っていたのは凄い勢いで魔物討伐船がルートを外れ蛇行しながら進んで行く姿だった。
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