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三階へ上がると今度は二つの扉があった。通路の長さは二階とほぼ同じ。階段を上がって直ぐの所と通路の突き当りに扉の痕跡。先ずは手前だろう。
扉に手を触れ魔力を少し流す。扉は少しザリザリと音を立て壁に吸い込まれて行く。ここまでは二階と同じだったが部屋の中は違った。
「ここは……あちらの塔の部屋と似ているが……」
無人島の塔にあったのと同じ様に壁に大きなモニター、その前に操作盤、部屋もそこそこな広さで五、六人程度が働いてそうな場所だ。
「かなり簡素な操作盤じゃな」
無人島の塔にあった一番広い部屋の彗星の事を調べていた操作盤のような複雑さや難解さは無いように見える。もっと単純な感じなのでオジジや男爵でなくても使えそうだ。
「エメラルド、やってみろ」
取り敢えず私が魔力を込めなければ始まらないし、簡単そうなのでお前にも出来るかもな、的な雰囲気でオジジが私を促す。言われるままに操作盤の前に立ち少し前かがみになって両手で触れる。
フォンと起動したらしい音が鳴りモニターに光りが灯る。
「やっぱり魔力の違いか……」
あっさり動く魔導具にカイが悔しいような感慨深いような声を吐く。ずっと探し続けていた塔の研究を進める手掛かりが私という一見ちっぽけな存在だったのだから複雑な心情なのだろう。
「……ノエル国に来てくれてありがとう。エメラルド」
続いて聞こえた言葉には思ってもみなかった明るさが含まれているように感じてちょっと驚いた。
「えっ、あ、こちらこそ、ありがとう」
国家機密を明かしてくれたのだから私だって感謝くらいしてる。隣に来て嬉しそうに微笑むカイにとって私は思ったよりちっぽけな存在でもないらしい。
「エメラルド、早く私の魔力も登録出来るか試してくれ!」
カイと私の間にグイッと入り込み男爵が急かしてくる。一瞬イラッとしたが直ぐに後ろから男爵の首に腕が回され引き戻されて行った。
「男爵様、大人しくしろって」
流石ジーナ。イラッとするが男爵に言われた通り他の人の魔力を登録した方が調査は円滑に進む。勿論男爵の登録は一番後回しにするが早速探っていく。
無人島の操作盤より単純に出来ていたので操作自体は簡単だった。ただ欲しい情報がどこあるのか探す作業はちょっと手間がかかった。
「なんだこれ? 各階の通路はわかるけど、カンシカメラ切り替え? ジドウシャ進入路? やっぱり処々意味が分からない単語が出てくるなぁ」
古代語が読めても専門知識が必要な物や今の時代に無い物の単語は意味が分からなくて読み方しかわからない。いずれもっと調べが進めば前後の文脈からわかるのだろうけど。
「ともかくここは彗星や魔導具の研究とは関係の無い部屋のようじゃな」
よく分からない作業をする部屋のようなので今は深くは探らず魔力を登録する為の情報を探していく。
数分後、漸くそれらしきものを探り当て先ずはオジジの魔力を登録した。
「ふむ、魔力登録はエメラルドに任せる。ワシは上階へ向かう方法を探るぞ」
オジジは操作盤を操れるようになった途端サクサクと進めていく。私はその間に後ろから早くしろというカイと男爵からの圧力を受けつつ魔力を登録していった。
登録が済むと男爵が当たり前のように私を押し退けオジジと並んで凄い勢いで操作していく。私だって調査に加わりたいが悔しいけれど男爵の方が速くて上手いので仕方なく大人しく……待つわけあるかぁ!
音も無く素早く部屋から出て通路の奥へ向かう。突き当りにもう一つの扉がありそうなのだから開くか試しに行くべきだろう。私が部屋から出た時点でリュディガーとサイラは当然のように付いてきている。
「やっぱり扉よね」
突き当りの壁に長方形の切れ込みのような物があり、壁側の目の高さの位置に掌より少し大きい位のプレートのようなもの。これってアレじゃない?
魔力を込めながらペッタリと掌を押し付けると音も無く光り出す。
「ハイ、来た!」
直ぐに乗り込もうと身を乗り出し、そのまま扉が開くかと思ったが甘かった。おかしいな首を捻りながらプレートから手を離すが光りは灯ったままだ。
「まだ何かあるんじゃないか?」
リュディガーが私の顔の直ぐ横から顔を出して言う。
「ちょっと、近いって」
「よく見えねぇんだよ」
「別に見るものないわよ」
「他にお前と特定する物が必要なんじゃないか?」
「なんでよ? 魔力込めたのに」
ただ光ってるだけのプレートを前に言い合っていた。
『あぁ、やっと来たのかい』
どこからとも無く少しくぐもったような声がし静かに扉が開いた。
一瞬固まりリュディガーと目を合わせる。何故かサイラがガシッと私の腕を掴んだ。
「慎重にお願いします」
いつでも冷静だねぇサイラ。
「わかった。行くよリュディガー」
「全く慎重さを感じないが?」
「あんたに声をかけるだけマシでしょう?」
「確かに」
開いた扉の向こうは既視感のある空間。これって上階へ向かう魔導具だ。無人島の塔にあったものより空間は小さいが覗き込むと横に見覚えのあるボタンが見えたが前のとは違い四つだけだ。
「とにかく乗って」
流石にそうっと魔導具に足を踏み入れ振り返るとボタンを見る。下の段の横並びにある開くと閉じるは扉の操作の事よね。だったらこの上の縦に二つ並んでいる何も記されていないボタンは何かしら? これって押しても良いのかな?
『もう! 焦れったいね』
魔導具の中にもさっきの声が聞こえ扉が勝手に閉じられていく。
「え!? まだ押してない……あぁ、開くを押せばいいのか」
焦ったがポチポチと開くボタンを押したが全く反応せず魔導具はゆっくりと上り始めた。直ぐにリュディガーが私の腕を掴み私はサイラと手を繋いだ途端ふわっと体が浮く感覚。
「うわぁ~!」
『うるさいね、着いたら右奥にあるエレベーターに乗り換えな。光ってる奴だよ』
また声がして直ぐに魔導具の扉が開く。
「ここって一階分上がっただけ?」
警戒しながら私の腕を掴んだままリュディガーが体半分だけ先に外へ出ると辺りを見回し私達も出るように促した。
広い空間で明るくキレイだった。
下の階は汚れているわけではなかったが崩れたり補修の跡があった。でもここは全くそれとは違う。どんな素材で出来ているのか分からないがひび割れも無く真っ直ぐ伸びる床板はホコリ一つ無く磨き抜かれた輝きはこれまで見たこともない美しさ。見上げた天井は全体的に光り広い空間を隅々まで明るく照らしている。壁はつるりとして硝子の窓のようだが外が見えているわけではない。
「……」
三人共一言も発せず数歩足をす進めただけで立ち止まっていた。
『何やってんだい。早く言った通りにしな』
「「うわぁ!」」
呆然としていた私達にまた謎の声がし驚いて飛び上がってしまう。
「えぇっと、なんだっけ? 右奥にある、えれべーた? だっけ」
ドキドキとする胸を押さえながら辺りを見回しつつ言われた通りに、だけどゆっくりとこの恐らく四階の右奥側に向かって進む。
私とサイラはしっかりと手を繋ぎ、リュディガーはいつの間に持っていたのか腰に帯びた剣に手を添えいつでもイケる体勢だ。
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