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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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「いやぁ、どこからどう見ても王子には見えねぇわ、です」

 

 ピッポはカイ向かって感心したように言う。今更丁寧な言葉なんて話せないので語尾が気持ち悪い状態になってる。

 

「別に王子って言ったって三番目だし殆ど野放しで育ったんだ。気にするな」


 ここに来て今更王子という事を隠す気も無いらしく、これまでと全く態度も変えないカイが手にした資料から目を離さずに言った。


 ちょっと聞いた話によると現王エサイアス陛下は国を支える為に必死に手段を模索していたが無理が祟って病床に伏し、その後を三兄弟で引き受けたがやはり王太子に一番重圧がかかったのか五年前のある日突然倒れ身罷られたらしい。そして次男リクハルトが王太子に繰り上がった時点でカイが国を飛び出した。


「国内にいても情報が中々上がってこないからな。いっそ自分の目で見てどうにかしようと思ってな」


 鉱山から得た僅かな収入を元手にクラリス商会を立ち上げ少しは存えているがノエル国はまだまだ貧しい。豊かな他国へ実際に足を運んでカイはかなり打ちのめされたようだ。どうにか国を栄えさせる手段がないかと探し周り、やはり永久凍土の鉱山を掘り起こすにしても農業や漁業の取れ高を上げるにしても魔導具が必要なのだろうという結果にたどり着き遺跡と魔導具の第一人者と言われるオジジに近付く為にメルチェーデ号に乗り込んできたらしい。凄い執念だなぁと思う。私なら途中で投げ出しそうだ。ま、取り敢えず王子って事は流しておいてよさそうだ。



 塔に到着した日は流石に体を休めるようキツく言い渡され食事時以外はサイラの監視付きで与えられた部屋に引き籠もっていた。まぁこの塔のこれまでの資料を見せてもらっていたので退屈はせずむしろ早く寝るように叱られたくらいだ。


 翌早朝、時間が惜しくてサイラに食事を持ってきてもらって部屋で済ませると塔の調査へ向かう準備を整えた。なにせ既に塔の中にいるのだから直ぐに取りかかれる。

 部屋から出ると既にオジジとカイが頭を寄せて話していて、資料を指さしその指を何処かへ向けた。


「あちら側に元々は崩れた階段があったのですが今は最低限通れるように修繕も済んでいます。だけど三階上がった所で上に続く階段が無いんです」

「ふむ、恐らくその階の開かない扉のいずれかに更に上階へ向かう手段があるのじゃろ」

「はい、資料によるとこの塔は無人島の塔と違い全てが研究所だったようです」

「ちょっとちょっと、私抜きで話を進めないでよ!」


 仲間外れ感が半端なくて若干じゃなくムカつく。急いでオジジの側に行くとガシッとその腕を掴んだ。


「私を置いていくつもりじゃないでしょうね?」


 この塔も扉が開けられず調査が進まないのなら私の存在は必要不可欠でしょ。オジジはちょっと呆れたような顔をしながら私を見る。


「お前が寝坊したんじゃろ。心配せんでも起こすところじゃった」

「はぁ、置いていくわけないだろ。それでこの階段の他に……」


 カイが面倒くさそうに顔をしかめまた資料に目を向けると話を続ける。

 昨夜の内に私も資料を見せてもらっていたので話を聞きつつ自分の手元にある資料に目を向ける。

 それによると今居るここは一階で、確認できただけで四十階以上の塔らしい。内部から三階以上には行けないから外側を目測した結果らしいがこの辺りは一年を通して曇天模様らしいので正確にはわからないようだ。目測って事は一階一階数えていったのか? 


「取り敢えず三階まで行ってエメラルドの魔力で扉が開くかどうか試すところから始めようか」


 オジジがそう言いカイが案内する形で階段へ向かった。塔の入口から見て宿泊施設は主に左側に寄せて作られている。正面奥の右側に階段があるらしくそこへ向かうと修繕が済んでいると聞いていた通り直された痕跡がわかる階段が見えてきた。

 余り予算が掛かっていない修繕状況なので気をつけながら階段を上っていくと上から聞き覚えのある声が響いてきた。


「くぅぅ、やはり駄目か。ジーナ、早くエメラルドを呼んで来てくれ」

「駄目ですよ、疲れているだろうからゆっくり寝かせてやれってリュディガーさんが物凄い怖い顔で言ってたじゃないですか」


 チッ、男爵とジーナが私より先に行ってるってどういうことよ。


 ムカついて足を速めようとすると後ろから腕を掴まれた。ビックリして振り返るとサイラが笑顔で私を見ていてその隙間からリュディガーが腕を伸ばしていた。


「エメラルド様、足元が悪いのでゆっくりと上がって下さい」

「エメラルド、お前こんな誰を信用していいかわからん場所での移動に俺に声を掛けないってどういうことだ?」


 二人の事をちょっと忘れてた。


 階段をゆっくりと(・・・・・)上がりきり二階へ着くとすぐ近くに男爵とジーナが騒いでいた。


「男爵様、おはようございます」


 忘れがちだけど一応貴族様だから挨拶はしておこうと声をかけた。私の声に振り返った男爵は満面の笑みを浮かべ早く早くと扉を開けるよう急かしてくる。


「ここだと思うぞ、ここ」


 手招きして壁に扉であろう切り込みの所を指差す仕草に苛つく。腹いせに勿体ぶってやろうかとも思ったけれどそんな事をしても調査が遅れるだけだしオジジとカイからの無言の圧力もキツいので止めておこう。


 ノエル国の塔はこれまで誰も扉を開けることが出来なかったせいか調査が進まず入れる範囲が数十年前から殆ど変わっていないらしい。瓦礫を除去し少しずつ進んでいたが三階で止まっている。


 そして私の登場だ。


「よし、いくよ」


 扉らしき壁の一部にそっと手を添え魔力を込める。滑らかな動きながら少しザリザリと音を立てて扉が横壁に吸い込まれて行く。


「開いた!!」


 私が叫びたかったが上回る勢いでカイが叫んだ。一瞬男爵かと思ったが違った。私を押し退け部屋へ入って行くカイ。勿論私だって行こうとしたが例によってリュディガーに腕を掴まれていた。

 結局オジジも入って安全確認がされてからの入室となりかなり気に入らない。だがここで不貞腐れるよりも調査を進める方が先だろう。


 いざ部屋の中に入ったがそこには安っぽいベッドと椅子とテーブル、壁際に棚のような物があるだけで古代文明を解明できそうな物は何も無かった。パッと見た感じ簡易の休憩室のようだ。二階には全部で五つの扉があって全てその様な有り様だ。落ち込みそうな気持ちを奮い立たせ続いて三階へ上がるために階段へ向かう。


「行くぞ」


 ちょっと偉そうなカイが(まぁ王子なんだから本当に偉いんだけど)若干の落胆を含ませながら私を急かしてくる。私だって気持ちは同じなので後に続く。


 この塔の外観はむき出しに見えるが崖に嵌め込まれたように埋まっている感じになっているので実は高さ以外の全体像がわかり辛い。外から入った入口は間口が広く馬車用に後から広げたわけではなく最初から大きく開く仕様だったらしい。入った所の広い場所も最初から仕切りや部屋などは殆ど無かったらしくもしかしたら古代文明当時も何か乗り物が出入りする場所だったのかも知れないらしい。

 一階のあの場所も塔の高さから想像しても狭すぎる。そしてこの二階も見た感じ通路が狭くて短いし扉が開いた部屋も狭くどう見ても釣り合いが取れていない。


 そして三階だ。





 

 

読んで頂いてありがとうございます。

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