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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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気温が下がって来ましたね。体調が優れませんが何とか書き続けたいと思います。

皆様もご自愛下さい。

 カイが言った通り二日後に二台の馬車が用意され出発の準備が整えられた。馬車には見知らぬ三人の若者が騎馬でついてくるという。彼等は簡易の革鎧を身に着け体格も良くもしかしなくとも護衛なのかもしれない。

 しかもノエル国に着いてからいつの間にか姿が見えなくなっていたイーロも再び合流し彼も馬に乗ってついてくるらしく御者も含め合計十五人のなかなかの大人数になった。


 予想外に物々しい雰囲気にどんよりとした空模様で日も差さず空気が凍りそうな中、オイヴァとエルヤが見送るために私達が馬車に乗り込むのを待っている。六人乗りの大きな馬車の割り振りはオジジ、私、サイラ、リュディガーとカイ。もう一台に船長、ピッポ、男爵、ジーナだ。ピッポがこちらに乗ろうとちょっと足掻いていたがまるっきり無視してやった。


「道中お気をつけて」


 オイヴァが自分もついてきたそうな顔で言う。ギリギリまで粘っていたようだが港の護りが手薄になってはいけないと残されたようだ。現役を引退したとはいえ元・騎士団長が密かに港の監視をしているらしく離れられないらしい。


「やはり城へは向かわないのですか?」


 見送りのエルヤが仕方のない子という目でカイを見て言う。


「あぁ、時間が惜しいからな。では吉報を待っていてくれ」


 カイはこれ以上何か言われる前にという感じで振り切るように御者に合図を送り馬車を出発させた。

 

 ちょっと待って。何か聞き捨てならない言葉が聞こえていた気がする。


「カイ、城って城?」

「あぁ」


 軽い返事だ。


「ノエル国の?」

「あぁ」

「王様の居るあの城?」

「そうだな」


 何だか考えてはいけない何かが迫って来ているようだったので一旦口を噤み馬車の中に居る人の顔を見回す。オジジは何も感じていないように本を開き読んでいる。リュディガーは一回だけ頬をピクつかせた後は何事も無かったような表情だ。サイラは無表情ながらも少しばかり顔色が悪い気がする。これは……スルーだな、ヨシッ、それで良い。


 嫌な予想を振り切るように窓から外を見ると馬車と並走するイーロが見えた。他の騎馬の二人と同じく革鎧を身に着けている。本格的な鎧でない簡易な感じで、その姿にまるで違和感はなく慣れた様子だ。


「イーロ、そうしてると騎士団員の休暇中みたいね」

「流石に休暇中は革鎧を身に着けないよ」


 うん……えっと。もういいかな。




 馬車はしばらく軽い登り坂の道を順調に進み一度休憩した後また走り続け日が傾いた頃小さな村で停車した。


「ここで一泊します」


 カイは馬車のドアを開けながらそう話して下りて行く。私達も後について馬車から下りたが日が沈んだせいでもあるだろうけれど余りの空気の冷たさにブルっと体を震わせる。馬車の中は魔導具で温められ快適だっただけに寒暖差に驚く。


 遺跡への旅路は数日かかるらしく途中で何度か村や町で休憩したり宿泊していったがどこも物資が乏しく人々は痩せた者ばかりだった。話に聞くよりも貧困度合いが酷くカイが必死に私達をノエル国へ連れてきたことが理解できた。


 港町周辺では気温は低いものの雪は無く馬車での移動も快適だったが三日目以降に山間部に差し掛かると一気に辺りは雪景色に変わった。街道に雪は殆ど積もっていないがその両側の林や岩場には大人の膝位まで積もっている。街道は人が行き来するし比較的人が多く住む場所の近くには雪を溶かす魔導具が道に埋め込まれていたり町の人達がマメに雪掻きをして物流が止まらないように気を配っているらしい。


 いよいよ遺跡へ近づいた頃にはかなり天候は荒れ少し吹雪いていた。馬車の中の私達はともかく外で護衛をしているイーロ達は毛皮を着込んでいるが顔色は常に悪かった。少しでも休憩した方が良いのではとカイに提案したが休んだ所で体を温める場所もないから出来るだけ早く到着する方が良いのだと言われた。


「そろそろ見えます」


 その声に馬車の窓から外を見る。巻き上がる雪の隙間に目を凝らしてみれば周りの山より一際高く尖った形の黒い影が見えた。


「あれがノエル国の塔の遺跡か」


 道中静かに馬車に乗っていたオジジがやっと顔を上げて窓から外を確認すると早速馬車から下りる準備の為にゴソゴソと動き出す。カイに見せてもらった研究ノートで見たノエル国の塔の遺跡は洞窟の中ではなく崖に嵌め込まれ表面に浮かび上がっている様で、下から見上げる角度で描かれた塔は空に突き刺さる程に高く描かれていた。

 ノエル国が小さな陸地とはいえ年中吹雪いていると言っても過言ではない気候のお陰で他国から気づかれることなく守られ続けた塔が今目の前にそびえ立っているのだ。


「ほ、本当に……あったんだ」


 カイ以外の全員が馬車の窓から頭を出し限界まで首を反らし見上げている。吹雪の中視界は悪く真っ直ぐに空へ伸びる人工物とわかる直線を目で辿っていくが頂上まで見えているのか全く分からない。


「早く中へ入れ!」


 カイをはじめとするノエル国の人達には見慣れているものらしく塔を見上げる者は無く合図を送ったのか塔の下、入口に当たる付近が大きく開くと馬車ごと中へ入って行った。


 塔の中は広い空間が広がっていて天井も高い。先に見た無人島の塔の中と似たような感じだが数十年研究がされていた場所らしく長く滞在しても生活に困らない程度の施設が作られていた。

 小さな集落といった感じで数軒の簡単な長屋が建てられていて個室が割り当てられベッドもちゃんとあった。塔の中なので雪にさらされることはなく入口は木製の扉が造られ閉じられている、が気温は低い。でも食事を作る場所で常に火は焚かれているせいか外よりはずっとマシだ。

 荷物を馬車から降ろし各自部屋へ持ち込み片付ける。やっと少し気を抜くとカイに呼ばれ、大人数で火を囲み休憩出来るように作られている他より大きな建物の集会所へ集まった。


 塔には常駐している人が数人居てこの場所の警護や何か新たな発見がないかの調査を続けているらしい。


「カイリ様! お久しぶりです」


 ここまで一緒に来た恐らく護衛の人と同じ革鎧を来た体格の良い壮年の男が軽い足取りで近付いてきた。


 カイの事を「カイリ()」って言っちゃってる。


「エイノ、久しいな。お前がいるとは思わなかったよ」


 うわぁ~、カイはあのオジさん呼び捨てなんだ。なんか怖い怖い〜。


 私は現実から目を逸らしたくて実際に右横へ顔を向けた。そこにニコニコと嬉しそうな気持ちを隠しきれていない緩んだ顔のピッポがサイラを見ていた。ホッとする。


「話には聞いていますが……」


 そう言ってエイノと呼ばれた男は私達全員を検分するように見ていき船長のところでじっくりと時間をかけていたが数秒睨み合うと最後にオジジに視線を移した。因みに睨んできたエイノに「あぁん!」と声を上げた船長をそっと押えたのはリュディガーの英断だ。


「この方がゼバルト殿ですか」


 確信を持ってオジジに近付き自分の右手を胸に当てると軽く頭を下げた。


「お初にお目にかかります。私はノエル国騎士団副団長のエイノと申します」


 はいはい言っちゃってますね、えぇ、副騎士団長って事は騎士で貴族だよね! その人に敬語使われるとかカイって、カイってやっぱり……


「今回はカイリ王子の要請にお応え頂き有難うございます」


 はい、出たー! 選りによって王子とかぁーないわ~、ホントないわ~。


 色々な伏線で何となく察してたけどハッキリと言われるとちょっとムカつくしかなりショック、とか思っていたけれど。私の視線の先に顎が外れそうなほど驚いているピッポを見たらちょっと冷静になったわ。うん、ピッポだわ。


 

 

読んで頂いてありがとうございます。

面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価、宜しくお願いします。

ブクマが増えるとやたらやる気が出ますね。


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