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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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 ノエル国に到着した。

 

「寒い! いや寒過ぎる!!」

 

 船内から一歩踏み出した途端ピッポが叫んだ。全くの同意だ。見える範囲に雪こそ降っていないものの凍えるような冷気が辺りに漂っている。

 船は主要な港ではなくカイの指示によって少し寂れた小さな港町へ向かったのだが余りの寒さに慌てて各自船に備え付けの救命ボックスからマントを取り出し羽織ると少しホッとした。

 漁師町らしく港には小型の船がチラホラ見えて私達の船を着岸前から町人であろう人達にジロジロと見られていた。見慣れぬ私達を訝しんでいるのだろう。

 

「あ、カイさん!」

 

 怪しまれている視線に耐えながら荷物を降ろしていると一人の若い男が驚いたような声をあげた。


「よう、久しぶり。町長はいるか?」


 どうやら知り合いらしくハイと返事をすると駆けていった。


「この町は俺の一族と深い繋がりがある者が多いんだ。ここでは俺はクラリス商会の会長の外孫だって知られているから滅多な事じゃ無下には扱われないだろうけど、多くのノエル国の人間は警戒心が強い。だから出来るだけ大人しくしておいてくれ、エメラルド」

「え、私?」

「そう、一番心配なのはお前だ」

「なんでよ? 別に何もしやしないわよ」


 ふんぬと抗議の声をあげるとカイは面倒くさそうにため息をついた。


「あぁ、確かに積極的に問題を起こした事はあまり無いような印象だけど、お前の周りはいつも何かが起こっている気がするし実際そうだ」


 カイの返しにムッとしながらちょっと最近起こった印象的な出来事を思い起こしてみる。

 えぇ~っと、メルチェーデ号で特級遺物を発掘して、でもそれは良い事でしょう。その後、王都へ行く途中で魔物のアスピドケロンに遭遇したけどアレは私には責任は無いよね。それに魔物討伐船に助けてもらって無事だったし、お貴族様が鬱陶しかったけどなんだかんだ大丈夫だったし、キングクラーケンに襲われて最終漂流して死にかけて……なんか、色々あり過ぎて何が良くて何が悪かったのかよくわからなくなってきた。


 私が考え込んだ後何も言えずにいるとカイが納得したかと言うように頷く。


「わかればいい」


 偉そうな物言いにちょっと腹が立ち、かと言って一人では太刀打ち出来ない気がして誰か味方がいないかまわりを見た。するとリュディガーが私の肩に手を置いた。その手は力強くて温かく凄く頼りになる。味方がいたと嬉しくなり彼を見上げた。


「見知らぬ土地だ。自重しろよ」

「はぁ?」


 彼の言葉にムッとしたがそのまま背を押され、先を行くカイに付いていくように歩かされる。


「ちょっと押さないでよ。なんで私が自重しなきゃいけないのよ」

「そりゃあお前がいつも騒動の中心にいるからだろう」


 反対側からピッポが両手に荷物を抱えながらそう言い捨て小走りに進む。なんであんたにまでそんなこと言われなきゃいけないのよ。そう思っていたらサイラが後ろから優しく声をかけてくれた。


「私はどこまでもエメラルド様について行きたいですから、ついていけるような環境をお願いしますね」


 笑みを浮かべているサイラの目が笑って無い。とにかく黙って頷いておこう。



 カイの後について行くと道すがら見えていた民家らしき物が並ぶ中で少し大きめの建物に向かっているようだった。さっき話していたから恐らく町長の家だろうけど雰囲気的に町の宿屋のような感じで、カイは誰を呼ぶでもなく勝手に扉をあけて私達を中へ通し適当に荷物を置くようにと言われる。


「ここって?」

「町長はクラリス商会の人間だ。つまり商会の建物だ」


 カイは遠慮は要らないとばかりに建物の奥から出てきた人達に指示して今日はここで宿泊するからと部屋を割り振る。やはり町長の家であり宿屋も兼ねているらしい。


「ぼっちゃま!」


 突然の声掛けにカイがビクリと体をはね上げる。そこへ背後から黒い影が走り抜けカイへ突進していく。背が高く厳つい体つきだがその顔には深く皺が刻まれていて顔だけ見れば結構なお年かな。この寒い中むき出しの両腕には所々傷跡があり冒険家のような風体だ。


「うわっ、ふぎぃっ! 止めろ……死ぬ……」


 会うなり飛びつくというなんだか既視感のある光景で何となく察してしまう。


「一体何処をほっつき歩いていたのですか! アライサ様からもうすぐこちらへ来ると聞かされたのに全く音沙汰無く、ワシがどれほど心配した事かぁ~」


 ぎゅうぅぅっとカイを絞る音が聞こえてきこそうなほどきつく抱きしめる様子を皆が呆れて見ていた。町の人達も止めに入る者は無く刻一刻とカイの命は風前の灯火に見える。


「旦那様そろそろ解放して差し上げませんと」


 私達が入って来た扉から優しげな声が聞こえ振り返ると柔らかな微笑みを称えた老婆が杖をつき立っていた。可愛いおばあちゃんという感じでちょっとほっこりしていると見かけによらない滑らかな動きで未だカイを絞りあげる厳つい爺さんに近づくと持っていた杖で大胆にこめかみをゴスッと突いた。


「……イテェ」


 少し体をビクつかせ突かれたこめかみを手でさする。


「イテェぞ、エルヤ」

「えぇオイヴァ、痛くしましたから。カイリぼっちゃまが死にかけておりますよ」


 見かけによらない凶暴さを見せたエルヤの話で我に返ったオイヴァが自分の腕の中でだらりと垂れ下がるカイに気づきやっと彼を絞め技から解放するとお姫様のように横抱きに抱えた。ダメージが強過ぎて逆らうことが出来なくなったカイを抱えたままオイヴァが宝物のように優しく運んで行く。


「止めろ……おろせ……」


 多少の抵抗を試みたカイだが連れ去られて行った。あっという間の出来事にただ見ていると先程の可愛いが凶暴さをあわせ持つエルヤと呼ばれたおばあちゃんがニコニコと笑顔で話しかけてきた。


「遠い所を遥々ようこそ。私はエルヤ。この町の長オイヴァの妻でございます」


 丁寧な挨拶を受けこちらも出来るだけ丁寧に挨拶を返した。オジジと船長は普段通りだったがさっきの攻撃力を見せられているのでピッポなんて頬を引きつらせていた。


 町長オイヴァはカイを部屋に連れて行ったらしく私達もエルヤに指示された下働きに案内されそれぞれあてがって貰った部屋へ向かった。私の部屋の隣はサイラで廊下へ出ずに中にある扉で行き来できる続き部屋だ。ゆっくり休んで下さいと言われそれぞれ部屋にお茶が運ばれしばしの休憩の後、夕食の時間となった。


 教えられていた時間に宿の玄関ホール横にある食堂へ行くと既にカイが居てオイヴァと向かい合い何やら話し込んでいた。


「あぁ、来たか。あらためて紹介する。これは町長のオイヴァ、俺とは古い付き合いだ」


 どうやら町長オイヴァは若かりし頃はノエル国騎士団長だったらしく隠居した今は港町に住みこの国へ来る人達の監視をしているそうだ。エルヤは副官だったとか。先程見たやり取りからも何となく当時を想像出来る二人だ。


 カイは私達を例の遺跡へ向かう予定だと話していたらしい。ノエル国にとって国家機密扱いの遺跡へ私達を連れて行くことにオイヴァは難色を示しているようだ。








 

 

読んで頂いてありがとうございます。

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