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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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 船は順調にノエル国へ向かっている。 男爵やカイは色々と私に話を聞きたいようだったが私自身まだよく分かっていない事が多い。自分に本当の両親がいたという事さえ実感がない。ましてその二人が古代人で私がその生き残りなんてメルチェーデ号を降りるまで考えたこともなかった。その上これまでずっと研究してきた『ヴィーラント法』の著者が自分のパパだったなんて。あの、やばい感じの、チャラい感じの、よくわかんない感じの、あの『ヴィーラント法』著者が、パパなんて……あまり信じたくない。

 本の最終章の翻訳が終わる前ならとてつもなく偉大な 著者を尊敬していたのに解読に成功したことを素直に喜べない自分がいる。あんなに苦労したのに台無しにしやがって。

 

「はぁ……」

 

 船に乗ってからずっとため息が止まらない。ノエル国に行ってララに会えればきっとこれまで 疑問に思っていたことが明らかになっていくだろう。古代文明のことも魔導具のこともパパとママのことも、そして私自身のことも。でも今は期待よりも不安の方が勝ってしまって気持ちの整理がつかない。


「エメラルド様 大丈夫ですか?」


 サイラが心配そうな顔で私にマグカップを差し出した。暖かいお茶を手に取ると少しホッとし少し落ち着いてきた。


「ありがとう。なんか疲れちゃったよ」

「急に色々と情報が入ってきましたものね」


 私が少し明るい声を出すとサイラは安心したように微笑んだ。


「ただの寝不足だよ。少し寝とけ」


 呼んでもいないのにピッポが サイラの後ろから顔を出した。なんだぁこいつ。まさかサイラについて回ってるんじゃないでしょうね。


「目が冴えて眠れない」

「横になってりゃ勝手に寝るよ。疲れてんだからさ」


 私に話しながら自分も目をこすり眠そうにしている。


「ピッポこそ眠ればいいのに」

「後でリュディガーと交代する」


 船長命令であれこれと使われているピッポを見て、リュディガーはさっさと仮眠を取り始めた。オジジはさすがに疲れていたのかすぐに眠ってしまった。私は何だか目が冴えて窓から海を眺めていた。他のみんなも睡眠時間が取れていなかったので各々そこらで横たわり客室内は静かだった。


 私たちの発掘をいちいち邪魔する船長だがこういう時は責任感が強く文句も言わずに舵を握っている。


「ピッポ、さっさと食いもん持ってこい!! 気が利かねぇ奴だな!」


 上の階にある操舵室から船長の怒鳴る声が聞こえた。まぁ文句は言うけど責任感はあるんだよ。




 航海は順調に進み今日の夕方にはノエル 国へ到着予定だ。

 昨夜あたりから寝不足を取り戻したみんなに余裕ができたのか、改めて色々と尋ねられる。


「じゃあララって人はエメラルドの母親の友人で同僚、そしてノエル国人ということになるのか?」


 カイがモニターに映し出されていた手紙に書いてあった内容と私の記憶を合わせた結果を話すとそこに行き着いた。男爵は今、私やママとパパが古代人であの塔を通して過去と現代で繋がりがある、という驚きと感激に収集がつかず奇声をあげてジーナに「落ち着け」と宥められてまともに話すことが出来ないでいる。変人て……凄い。だがカイはどちらかと言うと冷静で現実的な問題と向き合っている。


「隠されてきたノエル国の遺跡の場所を知っているって事は多分そうなるね」


 私の記憶にあるララと手紙を送ってきたララが同一人物であればの話であるが。


「ノエル国の遺跡で待つ、ってことはつまりそいつはノエル国の国家機密を知っている。だけど我々の一族以外にそのことを知るものはほぼいないはずだし近づく事が出来ないはずだから、一族内の者の可能性が高いが……一体誰なんだ? 俺が知ってるやつか?」


 カイがイーロと自分たちが考える疑わしい人物の名前を数人あげながらこそこそ話している。

 私が知らない名前ばかりだしノエル国の誰なのかということにはあまり興味がなかった。彼等の話には口出しするつもりは無いのでその場を離れると静かに座るオジジの所へ向かった。オジジは島にあった塔の遺跡で得た情報を書き写していたノートを静かに見ていた。


「他の場所の見当はついた?」


 古代文明時代の地図と現代の地図を見比べた結果、人工的に作られた島がノエル国の領土と重なる部分がある可能性が高いためそこを起点として現代の地図上の何処に他の遺跡があるのかを検討していた。

 ノエル国にある遺跡の場所は人工島の痕跡がある海岸線から少し奥まった所にあり、古代文明時代の地図でも同じ様に人工島の上にあるようだとわかる。


「ここが人工島だった所として、オジジが言うようにあの無人島の塔がこの地図上の三つの拠点の一箇所なら横移動の魔導具の目的地がこの人工島、つまりノエル国になるんじゃない?」


 三つの起点から出た線通りに魔導具が進みそのルートからだけ人工島へ行く事が出来るという事ならば、その三箇所はかなり重要な拠点だったのではないだろうか?


「人工島へ向かう道だったとして、あの塔が重要な拠点だというなら無人島の塔があった地点は古代文明時は大陸だったかもしれぬな」


 今は大陸から離れた無人島という状態だけれど、彗星衝突という恐ろしい出来事によって陸地の場所が変わっているのかも知れない。実際に過去の大陸の遺跡発掘現場から海にしか存在しない物が掘り起こされたという記録も残されている。


「三つの拠点の内一つがあの無人島なら他は……」

「地図から見る位置的にはエルドレッド国とフィランダー国にあってもおかしくはないのぅ……」


 魔導具用の地図上での三つの拠点はそれぞれ間隔が開いており単純に地図を拡大して現代の大陸の地図と重ねればそこまで無理がなく二つの大陸にかかる位置だ。おまけにエルドレッド国の拠点の位置は子爵に教えてもらった例の遺跡の場所と言えなくもない。


「エルドレッド国の遺跡ももう少し詳しく見ていけば塔だと判明したのかもね」


 あの遺跡では私の魔力で遺跡自体が反応する事もなく全く気づかなかったが島の遺跡と似ていた部分もあった。同じ古代文明の物なのだから偶然かもしれないけれど。


「戻ったらもっと詳しく調べなくちゃね」

「戻れれば、じゃな」


 え!? っと驚いてオジジを見れば軽くため息をつかれた。


「お前は行くと言っていた王都にも向かわず売ると言っていた特級遺物も売っておらん。その時点で国から目をつけられとるからの。次にエルドレッド国へ行く時は簡単にはいかんじゃろ」

「そんな事……あるか。あるよね」


 逃げるようにあの国を出たのだからあり得る話か。


「そう言えば、子爵様大丈夫だったのかな?」


 今頃になって全てを押し付けてしまったランヴェルティーニ子爵の事を思い出した。名前ランヴェルティーニであってる? 思い出すの久しぶり過ぎて。


「ボナなら大丈夫だ気にするな」


 正気を取り戻したのか急に男爵が話しかけてきた。後ろに立っているジーナの手には縄が握られその先は男爵の腰へ繋がっている。罪人か? 馬か?


「ボナはこれまでも何度も特級遺物を王都へ送らず国からの信用は地に落ちているからこれ以上落ちようがない」


 他人事の様に陽気に話す男爵。


 逆にそんな状態でよくその仕事を続けられているなぁ。







 

読んで頂いてありがとうございます。

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