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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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 クラリッサ・コーポレーションは塔の二十階から八十五階迄を使用する巨大な団体のようだった。私達が塔に入って来たところが二十階で塔の中だというのに庭があったらしく建物内から庭へ出る扉を使って私達は中へ入ったのだ。十九階から下は埋もれているのかな?

 それにしても建物の中に庭か。確かパパとそんな感じの場所で過ごした事もあったな。夢の中、いや過去の記憶の中、実際に、本当に過ごした……はずだ。


 

 

 あれからオジジの指示通り幾つかの階へ向かおうとポチポチと階数ボタンを押していった。とある階は二十二階のように寂れた感じで幾つか部屋があったり、とある階は宿泊出来るように二段ベッドが並べられているだけの部屋があったり、食堂らしき場所があったりした。勿論魔導具がビッチリと並ぶ所もありこのクラリッサ・コーポレーションは物を売ったりする商会などではなく何かの研究所なのだろうことが窺える。そうやって彷徨っていると後から追いついて来た男爵も雄叫びのような声をあげながら次々と自分で開けられる部屋に入って行き、皆で手分けして中を確認していった。

 

「そろそろもういいだろ! 少しは寝なけりゃ明日からの航海に響く」

 

 恐らく深夜もとっくに過ぎもう数時間で夜明けだろうという所で痺れを切らした船長がドスの効いた声でストップをかけてきた。何度か止められていたがそろそろ本気のようだ。|私とオジジと男爵とカイ《私達》は全く眠気はなく嬉々として塔内を駆けずり回っていたので船長の声なんて聞こえない聞こえない。だけどしつこくついて回りいい加減にしろとオジジを捕まえようとする船長の横を二人してすり抜け、もう何度乗ったかわからない魔導具へ再び乗り込むとボタンを連打する。

 

「早く早く早く!」

 

 船長に追いつかれる前に魔導具の扉よ閉まれ! と念を込めつつ扉を見ているとリュディガー、サイラ、ピッポが滑り込んだ所で無事に閉じきった。三十階のボタンを押された魔導具は音も無く動き出す。

 

「ほえぇ〜、きっと後が怖いぞ。もういいい加減諦めろよエメラルド。また来りゃ良いじゃねぇか」

 

 ピッポはそんな事を言っているが、そもそも当のノエル国のカイが私たち同様この遺跡から離れ難そうにしているのだからまだ数日はイケるんじゃないかと思われる。

 魔導具は三十階に到着し直ぐに例の部屋の前にいく。最後にもう一度この部屋で色々な事を確認してからノエル国へ行きたいとオジジが言ったからだ。私が最も心を許せる四人以外は誰もいない絶好の機会に扉横の壁にあるプレートを指差した。

 

「このルイーズ・ロッシって人さ、私のママかも」

「「「はぁっ?!」」」

 

 皆が吃驚が過ぎるという感じで声をあげる。

 

「お前のママ?」

「何だよそれ!?」

「本当なんですか?」


 と言いはしたものの、一瞬の間の後「そう言われればそうか」だの「まぁ納得だな」等と口々に零す。でもオジジだけは動揺を見せずどうやら早い段階でそこに気づいていたようだ。


「でなければこの部屋でだけ操作版の許容範囲が広い理由はないからな。魔力で個人特定する機能を使い予めエメラルドを登録しておったのじゃろう」


 私の記憶にある塔がここであるかはわからないが、ママであるルイーズの研究所がここに置かれその時に私の魔力登録を済ませてあったのだろう。


 部屋に入り正面にあるモニターへ足を進めていると先程調べ尽くしていた時には見なかった何かが映し出されていた。他の階を調べる時に放って置いた男爵が、私達が乗った魔導具が戻って来るまでの僅かな時間でまた新たに見つけた物があったのかなと思い、慌ててよく見るとそこには古代語で『エメラルドへ ララより』という文字があった。


「ララ!! ってママと一緒にいたあの(・・)?!」


 男爵からは何も話が無かったのでこれは私達がいなかった間にこの文字が出て来たと思われる。なにせ名指しだ。もし男爵が発見していたなら絶対に私かオジジに知らせたはずだから。


「記憶にある名か?」

「うん。ママと彗星の事を話してた」

「ふむ。研究者か」


 私の拙い記憶を解析しオジジの中ではママは彗星衝突に関する事を研究していた人物と推測している。確かに記憶の中のママとララはずっと難しい顔で研究室にいてその間私の子守りはパパだった。

 パパってコンスタンって名前のはずできっと『ヴィーラント法』の著者だよね。本の著者は恐らく魔導具の研究者であり製作者であろうと言われているから、魔導具を使って彗星衝突を研究していたママと同僚ってことかな。


「エメラルド、どうやらこれは何か知らせを送ってきているようじゃ」

「知らせ? 手紙ってこと?」

「ふむ。しかもお前限定のようじゃ。ワシでは開けられん」


 私がパパとママについて考えている隙にオジジはこれが手紙だと気づきしかも勝手に開けようとしていたようだ。


「オジジ酷い」

「いいから早くあけろ」


 もう~、古代文明の事に関しては本当に常識をすっ飛ばしちゃうんだから。まぁ私も何だかんだやらかしてるから人の事は言えないんだけど。


 オジジが脇に退いて私に場所を譲ると直ぐに操作盤を使ってララからの手紙らしきものを開けようと操作する。魔力を込めてボタンを押すと モニターに示された私の名前が消えて今度は 画面に広く 古代文字が浮かび上がってきた。


『エメラルドへ。

  私のことがわかる?

 幼いあなたと離れてずいぶん時間が経ってしまったけれど、やっとあなたに会えることをとても嬉しく思う。 私は今ノエル 国の遺跡であなたを待っている。 できるだけ早く再会できることを願っている。ララより』


 解読しながら読み進めすぐに理解はできなかったが気がつけば体は震え いつのまにか隣に来ていた リュディガーに肩を抱かれて支えられていた。


「これって現実なのかしら?」


 ボソリと呟くが誰も何も答えない。 きっとみんななんと答えればいいのかわからないのだろう。 だけどオジジは大きく呼吸をすると私の肩をポンと軽く叩いた。


「行けばわかることじゃ」

「やっと その気になったか」


 声に振り返ると船長がいつの間にか部屋にいてモニターを見つつふんと鼻を鳴らした。 その後から男爵とカイもやってきてモニターに映るララからの手紙を解読しながら読み上げそのまま 固まっていた。



 リュディガーの箱を取り出しても塔の魔力はまだ満たされているのか機能は残ったままだった。今回注ぎ込んだ魔力によって機動したのだろうが流石にこのままずっと動き続けることは無いだろう。数時間、もしくは数日は維持した後魔力が切れて再び静かに眠るのだろう。誰も魔力を込めない限り。


 数時間の休憩をとり荷物をまとめるとノエル 国へ向かうために遺跡を後にし洞窟を出て海へ向かった。 心配していた魔物による攻撃はなかったのか船は無事だった。

  睡眠時間が少なく疲労がたまっているのか皆言葉少なく船の中はしばらくの間 静かだった。 しかしついに我慢ができなくなった男爵がおもむろに口を開く。


「ララという人物はエメラルドの母親の知り合いということですが本当なのでしょうか?」


 誰もが思う最もな疑問だ。 私だって記憶になければ信じることなんてできない。記憶がある今だって別に信じているわけではない。 だって本当にララ本人なら彼女は私と同じ時代時代に現れる古代人の生き残りの一人ということになる。もし本当にそうならなぜ彼女は生き残り、ママとパパは今ここにいないのか?


 なぜ私だけがこの時代に送られてきたのか?





 

 

読んで頂いてありがとうございます。

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