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 モニターは男爵の指で押すボタン一つで幾つかの映像が切り替わっていった。

 

「これは古代文明時代の大陸の地図かな?」

「それはさっきの彗星衝突のやつだろ。今はそれはいらんだろ」

「これは設計図? いや、何かと何かを結ぶ図か?」


 制限が有りながらも自分の魔力で操作盤を操れるようになったせいか、皆が我も我もと詰め掛け好き勝手に話しまくり部屋の中は少し混乱していた。リュディガーの箱を壁に押し込んだ途端にこの階の全体に魔力が行き渡ったらしく魔力を登録した者なら他の部屋の解錠も出来るようになっていた。

 もしかしたら他の階やこの塔全体に魔力が行き渡ったかもしれない。取り敢えず私とカイでこの階の他の三部屋も開けて中を探ったが、入室できて灯りもつき造りは多少違うが最初の部屋と遜色無い位の装置があったものの、それらは私でも操作する事は出来なかった。その部屋毎の登録魔力が違うのだろう。最初の部屋は偶々私の魔力が使えたって事かな?

 改めて最初の部屋に戻り扉横の壁辺りを確認すると目の高さに古代文字で彫られたプレートがあった。


『管理責任者 ルイーズ・ロッシ』


 ルイーズって確かママと同じ名だ。ロッシが苗字って事なら貴族だったんだろうか?

 少し考え込む私にカイがなにか言い出しそうなのに気が付き意味ありげにフッと微笑んで誤魔化した。パパとママの事はまだよく分からない。それに誰かに話すなら最初はオジジかリュディガーが良いだろう。まぁピッポもサイラもそこに入れてもいいけどカイじゃないな。


「これは移動装置の為の地図のようなものじゃないか?」


 部屋に入ると男爵が興奮気味に声を上げていた。見れば操作盤の一番良い位置にオジジが居てその横に男爵が張り付き、さっき見た地図か設計図のような映像をモニターに映し出していた。


「うむ、恐らく古代文明時代には移動魔導具が発展していて色々な場所を短時間で行き来しておったのじゃろう。この塔の縦移動の魔導具だけでなく地表を横移動する事が出来たのか……」


 オジジはそう話した後じっとモニター見ながら暫く黙り込んでいた。私とカイは男爵に他の部屋の状況を説明すると男爵も自分で確かめたくなったのかバタバタと部屋を出て行った。

 ひと時、静かになった部屋の中オジジがおもむろにカタカタと操作を始めモニターを二分割すると左にさっき見た移動魔導具用の地図のような物を映し出す。

 いつの間にか使い熟しているなぁ。

 円形に描かれた線上に一定の間隔で印が打たれその上に古代文字で何かが書かれている。その内の幾つかは他と違い赤く色がついていたりするが、この文字はもしかすると地名かな? 円形の線上通りに移動魔導具が進むなら、現代の町と町を結ぶ定期馬車の様に人々が使っていたのだろうか?


「この印がある所の全部に今私達がいる塔と同じ物が建ってたのかな?」

「そうかも知れんが、ここを見てみろ」


 私の考えにオジジも同じ様に感じたみたいだったが話しながらある場所を指差す。そこにはさっきの円形図の印の中でも赤色で示された三つの印から線が伸び、円形の内側の中心で一旦結び付けられそこから円を横切るように画面からはみ出す形で線が引かれている。


「この線はここを進んでどこか違う場所へ行くってことかな?」

「うむ、この赤い三つの場所は他と違う特別な場所なんじゃろう。ワシはこの三つの内の一つがこの塔なんじゃないかと推測しておる」


 そう言ってオジジは徐ろに自分の足元に置いてあったカバンから折りたたんだ紙を取り出し広げた。それは現代の大陸の地図だ。

 モニター右に古代文明時代の大陸の地図を映し出す。これは以前オジジに見せてもらったことがあって覚えがある。そして左側の移動魔導具用の地図と手元の紙の地図をどうにか見比べ、どこかに共通点がないか探るつもりのようだ、が、かなり難しそうだ。

 先ず大陸の形が違う。地図上の古代文明時代は巨大な大陸が中心に描かれその北側はかなり大きく左右に広がっている。大陸の南に行くほど段々と陸地は狭まる。大陸の南には群島が二箇所。そして大陸西側の近い海には他の陸より少し色味が違う長方形で記された何かが描かれている。


「これも大陸なのかな?」

「恐らく人工的に作られたものなんじゃろう」

「人工的? いやデカ過ぎない?」

「じゃがそうでなければこの形の説明がつくまい」


 確かに。でも地図に載るほどのデカさって! と思いつつオジジがやっている様に私も三つの地図を見比べていく。


 現代の地図では大陸は三つ。オジジが持っている標準型三大陸図と呼ばれる図は東の海に最大の大陸エルドレッド国がありそこから西南にフィランダー国。そして西北の他の二国からかなり離れた位置にノエル国が描かれている。

 私達が今いる島はこのノエル国に一番近い位置にあるが地図上には島は載っていない。人が住まない島は記されていない場合が多いからだ。だがそのお陰でオジジが発見していたこの遺跡は誰にも荒らされず無事だっただろう。


 暫く地図を見比べていたがふと思いつく。


「ねぇオジジ、これまでの彗星が古代文明を滅ぼした説が正しいとしたらその影響で大陸の形も変わることもあり得るよね?」

「勿論じゃ」

「とするとね、私はどうしても大きくて目立つエルドレッド国の大陸を中心に考えて見てたんだけど、ここ見て」


 私が指し示す紙の地図上のノエル国の東端。


「ノエル国のこの海岸線ってちょっと真っ直ぐ過ぎない?」


 波や風雨にさらされてきた大陸の形は全て歪だ。人の手による物でないのだからそれが当たり前だが、何故かここだけが違うという違和感に、古代文明時代の地図と見比べた今だからこそ気づいた。


「古代文明時代の人工島、この場所がノエル国ということか……」


 オジジが睨むようにモニターを見た。


「信じられん……」

「そんな事が……」


 いつの間にか戻ってきていた男爵と、まさかの自国が人工の島かも知れないと知らされたカイが呆然とした声を上げていた。




「そろそろ引き上げる時間だ」


 折角古代文明の謎、古代遺跡の謎に近付きつつあるというのに悪魔のような低い声が背後から聞こえてきた。隣りに居たオジジもハッと息を呑んだがそのまま聞こえなかったフリをして作業を続ける。

 あれからこの装置にどれほどの情報が入っているのかを確かめる為に汎ゆる『ファイル』とやらを調べていった。どうやらファイルには様々な情報が仕分けられ纏められて保存されているらしく、調べても調べても調べ切れない様々なものが記されていた。それをいちいち解読していてはいつまで経ってもノエル国が人工的に造られた物かはわからない為ある程度目星をつけて流し読みしていたのだがそれでも……


「目が……」


 本とノートを中心に古代文字を解読していた時よりもさらに過酷な作業に確かに疲労は感じていた。


 だがここで止めるわけにはいかないぃぃ!


「約束だったろ? 明日にはノエル国へ向かうと。だったらそろそろ手を止めて体を休めるべきだろうが。海を舐めてんのか?!」


 ドスの効いた声を出す船長を振り返ることはしない。確かにノエル国はあと数日という距離だけど海って何が起こるかわからない。現に今だってその不測の事態でココにいるわけだし。


「まだ時間があるじゃろ」


 そんな事情もわかってて言葉を返すオジジの声だって低さは負けてないんだからね。





 

 

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