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お久しぶりの更新です。
本当に進まなくて申し訳ないです。
牛歩戦術で頑張っております。
「これでどうだぁーー!」
最後にタンッ!! と勢い良く叫びキーを打ち込んだ男爵だが実行するには決定ボタンを私が押さなければいけない。一瞬の間の後そっと決定ボタンを押すとモニターがスッと切り替わり映された物は……
『指定されたプログラムは実行出来ません。ファイル127−54を確認してください』
「クソッ、そのファイルとやらはどこにあるんだ!」
頭を掻きむしり再びカタカタと作業を始める男爵にその後も付き合わされた。
決定ボタンを押す為に男爵の傍を離れる事を許されず、仕方なく彼の横にイスを置いて座り片手でサイラが用意してくれた昼食を食べていた。面倒だがこれが上手く行けば私が居なくても他の場所の調査が進むのだと思えば我慢も出来る。座ってボタン押してるだけだしね。
オジジは順調にリュディガーとピッポを従えなから箱の中身を分解し取り出していたが、今は空になったであろう箱を覗き込みリュディガーに何やら言いながら作業を続けている。ピッポは手伝える事が無くなったらしく腹減ったなぁなどと白々しく呟きながらこちらへ来ると私の側にいるサイラから食事を受け取りそのままそこでモグモグと口を動かしている。そんなに広い部屋じゃないんだから通路に出て食べれば? なんて野暮なことは言わないよ。でもね、座っている私の頭の上を通過して横目でチラチラとサイラを見てんじゃねぇよ。
「ねぇ、オジジ達って今度は何してるの?」
開けられた箱のフタが邪魔で私からは作業の様子はよく見えない。どうもリュディガーから何か受け取っているみたいだけれど。
「あぁ、今は箱の内側を復旧させてるみたいだぜ」
「復旧って?」
「だから、お前が入ってた中の構造だよ。魔晶石が詰まってたって言ってたろ?」
「メルチェーデ号に貸し出してたやつね。それを戻してるって事?」
「なんか魔晶石が入ってた所を通じて魔晶石に魔力を込める装置を付けてたとか何とか言ってた。オレにはよく分からん」
オジジ的にはリュディガーの箱を完全に復旧してもう一度壁の中へ押し込む気なんだな。良いぞオジジ。
片手はひたすら決定ボタンを押しつつオジジの作業が終わるのを今か今かと待っていた。作業は気になるがここを離れる事も他の場所を調査する事も出来ずちょっと苛つく。カイとイーロはこの部屋で自分が出来ることが無いとわかるとさっさと部屋を出て行っていた。時々何か音が聞こえてくるので何処かを叩いたりして調べているのだろう。そっちも結局私がいなければ進まないだろうし、船長が部屋の前に居ながらもさり気なく確認しているみたいだから変な事はしていないみたいだけれど私もそっちへ行ってみたい。
「よ、良し。今度こそ大丈夫だろう。エメラルド、頼む」
再び何かを探り当てたのか男爵は縋るような目で私を見て決定ボタンを押すように促してくる。そんなに重い思い込めて来ないで欲しいが確かに現代の他の人の魔力が使えるなら重要なことだもんね。
「わかりました。はい」
あまり期待せず、ポチッと決定ボタンを押すと先程と同じ様にモニターがスッと切り替わる。
『ご指定の変質した魔力に決定権を与える事は可能ですが、特定の範囲に限られます。実行しますか?』
「…………うわっ。男爵様、すご、出来たみたい」
映し出された文字に驚いて隣の男爵の顔を見るとポカンと口を開いたまま固まっていた。
「男爵様! 実行で良いんですよね? 男爵様!?」
呆けたようになって動かない男爵の顔を覗き込んだが反応がない。
ペシッ!
「男爵様! ボケっとしないで! 返事!」
私と反対側の男爵の横にいたジーナが頭らしき所を叩いたように見えたが気の所為にしておこう。ピッポも目を逸らしているけど、あ、サイラはいいんだ。見慣れてる感じがするな。まぁジーナが男爵にキツイのは皆の知るところだしね。
「はっ?! 良いとも。良いに決まっている」
「早く押してみろエメラルド」
男爵がやっと帰ってきて返事をしたのと同時にオジジが急に割り込んで来た。
「え?! さっきまで箱の所にいたは……はいはい押します、押しますよ」
圧強目で急かすのやめてよ。
箱の中身を復旧しながらもやっぱりこっちの作業も気になってたんだね。オジジだって自分でこの装置を操りたい気持ちが溢れ返りまくりなんだろうね。
ポチッとな。
『……ファイル127−54を実行します。ただし権限はコンスタン上級指揮官の監督下に限られ、実行期間は七日間のみ。只今より実行開始』
「「「はぁーー?!」」」
私を含め数人が悲鳴じみた声を上げた。
「コンスタン?! コンスタンって『ヴィーラント法』の著者のコンスタン?!」
「七日? 七日って短か過ぎないか?!」
「リュディガー!! 早く魔法陣完成させるぞ!!」
それぞれがそれぞれに絶叫しながら右往左往していた。私達の声に引きつけられるようにカイとイーロも部屋に飛び込んで来て男爵の胸ぐらを掴み成り行きを聞き出すと自分の魔力も登録しろと急かしだす。
そのやり取りの横でオジジが操作盤をもの凄い勢いで何かを打ち込みサッと辺りを見回すと、手元の横にある掌で丁度包めるくらいの半球型の透明な物に手を密着させながら私に決定ボタンを押すよう視線を向けて来た。どうやらこれで魔力を登録するようで、無言でポチるとそのままリュディガーと箱の方へ戻った。
はぁ~、なんか怖かったな。と思ったのも束の間で今度は大騒ぎする男爵とカイの魔力を登録させられた。
「これで万全じゃない?」
やっと自由を手に入れた私は直ぐにオジジとリュディガーの傍へ行く。
「オジジ、箱にも魔法陣があるの?」
「無論じゃ。じゃコイツがあると何かと過剰に魔力が反応して思うように魔力導入が捗らんかったから敢えて魔晶石を外して陣を崩しておった。見てみろ」
オジジが場所を譲ってくれやっと箱の中をじっくりと見ることが出来るようになりそこへ頭を突っ込んだ。箱の中の側面、底面全てに魔法陣が施されてあった。それぞれ向かい合わせで対象的な陣が描かれてあり広い底面には幾つもの小さな魔法陣が組み合わされ、その中心に一際大きい陣は緑を基調とした小さなキューブが外側から内側へ向けて段々と濃くなっていく美しいグラデーションを魅せていた。
「エメラルド色、だな」
そっと肩を優しくリュディガーが触れた。振り返り見上げると優しく目を細める彼から何だか甘やかな雰囲気が漂っていた……ような気がするけど。
「オジジ! これってもう完成? だったら早く壁に突っ込まない?」
「無論じゃ!」
パタンとフタを閉じピッポとリュディガーを早く早くと急かして台の上に載せるとオジジと並んでそれをグイッと壁に押し込んだ。すると直ぐにモニターが反応を示し操作盤のアチラコチラがピコピコと光りだした。
「オジジこっち!」
「わかっておる」
今度はモニター前の位置へ急ぐと男爵を急かし何がどうなっているのかを問いただし始めた。
「リュディガー、放って置きすぎたんじゃないか?」
「煩いピッポ! お前だって似たようなもんだろ」
二人が後ろでなにか言い合ってたけど今はそれどころじゃないからね。
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