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 呆然と吐き出された箱を見ているとリュディガーが私の肩を掴んだ。

 

「ふらついてるぞ、しっかりしろ」

 

 ちょっと期待度が高かっただけに何も起きないショックが目眩を起こさせたようだ。何度か深呼吸し自分を立て直す。あれだけピッタリだったから絶対にここに入れる為の物だって確信したのに。

 

「ありがとうリュディガー。でもなんで?」

 

 戻って来た箱に近付き表面を撫でながらふと隣を見るとかなり怖い顔でオジジが箱を改めて調べている。

 

「うぉっ!オジジ」

「『魔力不足』じゃと?どこから供給するんじゃ……箱か?それとも建物自体か……」

 

 ブツクサと独り言を言いながらリュディガーとピッポに指示して台から箱を退かせると、ポッカリ開いた空間へ頭を突っ込み中を調べていく。流石オジジ、そっちか?!

 

「コラッ!危ないから止めろ!」

 

 過保護な船長がそれを止めようと壁の中にほぼ上半身が入っていたオジジを引っ張る。

 

「離せモッテン!」

「お前は迂闊過ぎんだよ!もう少し慎重にしやがれっていつも言ってんだろ!前に遺跡に閉じ込められた事を忘れたか?!」

「直ぐに出られたじゃろが!」

「俺のおかげだろ!」

 

 二人の言い合いが始まったのは最早見慣れた光景なので置いておくとして、私はオジジの脇を抜け壁の中へ頭を入れた。一度オジジが顔を入れて無事だったのでリュディガーも文句は言ってこない。

 

「あぁこうなってんだ」

 

 空間の内側にはメルチェーデ号のエンジンの様に色々な部品が複雑に組まれているんだろうなと思っていたけれど、表面に目立つ配管等の類はなく一見あっさりした感じだ。だけど良く見れば細かな凹凸で点と点が細い線で結ばれていたり、魔晶石の元となる小さなキューブが何かを描く様に嵌め込まれていて複雑で美しい模様を象っているように見える。

 

「それが古代文明の技術による魔導具の装置の構造じゃ。大陸の汎ゆる魔導具の芯の構造には必ず大なり小なりこうゆうモノが組み込まれているんじゃ」

 

 船長と揉み合いながら答えてくれているオジジは魔導具という魔導具をかなり細かく分解した事があるらしく、国が秘匿している魔導具の謎みたいなモノも知っているようだった。それがコレなのか。

 

「コイツが出てくればこれ以上分解が出来ないんじゃ。力技で壊せば全体が粉々に砕けて砂のようになってしまう」

 

 オジジはきっと何回か貴重な魔導具ぶっ壊して試したに違いない苦い表情を浮かべている。

 

 これって……


「魔法陣……だよね」


 思わず零れ出た言葉に誰かがヒュッと息をのんだ。


「わかるか?」

「勿論。でも本当にあったんだね」


 オジジが船長との言い合いを止めて私の隣へ顔を出す。一緒に空間の天井部分にある模様を指でなぞる。


「これほど大きな物なら気付くだろうがなかなかお目にかかれんでな。普通の魔導具ではほぼ誰も気づかんほど小さく刻まれておる」


 古代では誰もが現代の人より遥かに魔力が高くその能力でこの遺跡にあるような魔導具を次々と開発していたという。私達が生活の中でよく使っている湯を沸かす魔導具や発掘などで使用するポイントやお金の管理等を行っているこのブレスレッドの中も分解していけば今見ている古代文明の何かが(・・・)入っているらしい。


「これは……国家魔導師団魔導研究所で極秘扱いされるくらいの代物ですよ」


 狭い中、私とオジジの間に顔をねじ込んで来た男爵が珍しくまともそうな発言をした。


「おぬしも研究所にいたのか?」


 オジジの問いかけにこっくり頷く男爵。私は体を引くと窮屈過ぎる狭い空間から顔を退かせた。国家なんちゃらは私にとってはあまり関心の無い事で、出来れば魔法陣について話を進めて欲しいが二人は研究所について話し始めた。


「私は研究所には所属出来なかったのですが、そこで働く伯爵家のご令息に家庭教師をしていた事があるのです」


 男爵によると通常であれば国家なんちゃらで働く為には自身の爵位が子爵以上で伯爵以上からの二人の推薦がないと駄目らしい。勿論実力が伴っての話だ。


「貴族院に通いながら推薦人を探していたのですが、成績が優秀だった私は代々国家魔導師団魔道研究所に所属してきた伯爵に目を掛けられ学年が私より上の伯爵家の御子息の家庭教師になったのですが……はぁ~」


 男爵はわざとらしいほど大きくため息をつく。


「コイツが本っっ当に馬鹿息子(バカボン)でいらして!全く古代文明、古代遺跡というものを理解しやがれませんでねぇ、えぇ!」


 そこからの罵詈雑言は聞き流しておくとして、要するに男爵は馬鹿息子(バカボン)の面倒を見る代わりに推薦してもらおうとしていたようだけどご令息が馬鹿過ぎて駄目だったようだ。だけど男爵にどうにかしてもらおうと頑張った父伯爵が何度か研究所を見学させてくれ、そこでかなり踏み込んだ話も聞かせてもらったそうな。


「魔法陣の存在自体も積極的には公開していませんし、研究所自体でもそれ程多くの情報は掴んでいないはずです」

「結局研究所でもオジジと同じ位の情報しかないってことですか?」

「恐らく師匠の方がより掴んでいるのではないかな?少なくとも私が家庭教師をしていた時は魔法陣の存在はわかっていても分解すれば跡形もなく砕けるなんて聞いてませんでしたね。まぁ貴重な物なので分解も慎重を期していたでしょうけれど砕けそうになればそれ以上は作業を進めることが出来なかったでしょうし」


 きっとオジジの思い切りの良さが出たのだろう。

 私はこれまで古代文字の解読に力を入れてきたが今回ある程度の結果が得られた今、魔法陣に行き合ったということは良い流れに乗っているということではないか?

 私と男爵が話している間もオジジは魔法陣をつぶさに見ていたようだが、ふいにリュディガーの箱に移ると彼に箱を開けさせ中を調べ始めた。きっとこれまでこの箱を調べ倒しただろうにここに来てまだ何か見るべきものがあるのだろうか?

 オジジの邪魔にならないように後ろに控えていたが入れ替わりに私ももう一度確認してみようと思い魔法陣へ近付いたその時、


「リュディガー、魔力導入装置(中身)を出せ。全てじゃ!」


 オジジが突然言い出し自らも箱の中に手を入れゴソゴソと作業を始めた。


「何言ってんだよ?これ結構手間を掛けて取り付けたんだろ?それに道具は?」

「モッテン早く儂の道具箱を出せ!時間が無い、急げよ」


 訳が分からないという顔のリュディガーと舌打ちと文句が止まらない船長。船長に八つ当たりされるピッポもいて、かなりバタつく狭い部屋の中で私と男爵とカイだけはワクワクが止まらない気持ちだったろう。


 オジジの指示を出す声とこき使われるリュディガーとピッポの他はすっかり暇になってしまった。

 魔法陣をある程度確認しノートに書き写したりしていたが、気が付けばモニターを操作しようと奮闘している男爵に言われるままに魔力を込めながらポチポチと操作盤を弄っていた。どうやら操作盤を操って新たに魔力を登録して私以外の魔力で操作が可能になれないかを探っているようだった。そうなってくれれば私の魔力にしか反応しない遺跡の探索もかなりはかどるだろうから私も有り難い。オジジも一瞬こちらに関心を向けたようだけどそっちは任せたぞ的な頷きを残し箱に視線を戻していた。


 男爵が操作しながら誰に言うわけでもなくブツクサと話す内容によれば、私の魔力は現代の魔力と質が異なるようなのでここにある魔導具動かすには古代文明時代の魔力を持つか魔導具自体を現代の魔力でも扱えるように改変しなければならないだろうという事らしい。今更古代文明時代の魔力を持つというのは現実的ではない為、魔導具を改変しているのだろう。

 

 

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