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「リュディガー、起きたの?早くこれ開けて」

 

 箱の表面に書かれていた殆どの理由のわからない単語はともかく、たった一つの真面目なメッセージが気になりペチペチと箱を叩きながら彼を急かす。

 

「いやいや、俺達がお前を見つけた時の話をしたんだぞ。今のはちょっと感動するとこじゃないか?」

 

 ムッとした様子で頬をぎゅっとつままれ引っ張られた。

 

「いひゃい、いひゃい、こめんなひゃい」


 確かに今迄有耶無耶にされていた私が拾われた時の本当の状況にも興味はあるが今はこれでしょう!おざなりに謝っておき、さぁさぁとリュディガーを前面に押し出す。リュディガーは嫌そうな顔でオジジを見たが開けてやれとため息をつかれ諦めたように箱に触れると魔力を込めたようだ。


 フォン!


「おっ、三十階で聞いたのと同じ音だ」


 この言葉にオジジが一気に眉間に皺を寄せる。きっと色々考え始めたのだろう。私は目の前にある箱の方が気になるのでオジジはそっとしておくとして、まずは中を覗き込んだ。


「こうなってたんだ」


 この中に入れられて捨てられ……いや捨てられたのとはちょっと違うかな。でもまぁ入れられていたと聞いていたのでイメージ的には居心地良さそうな柔らかい物で覆われているのかと思っていたが違った。

 箱の中には魔晶石に魔力を込める為の装置らしき物が入れられていて装置から伸びる管や線が箱の内面に張り巡らされていた。


「いや最初からこうだったわけじゃないぞ」


 リュディガーが黙り込んだオジジに代わって説明してくれる。それによると、私はちゃんと柔らかい布に包まれふかふかなクッションが効いた所へ入れられていたらしい。だけど幼子がこんな所へ入れられて無事でいた事が大いに疑問だったオジジが色々取り除き調べ抜いた結果どうやらこの箱の中が効率良く魔力を扱える空間だとわかったらしい。仕組みはわからないが私は恐らく深く眠っていた状態で殆ど時間の影響を受けず長い年月を越えてきたのだろうとの事。どう考えてもそれは理解の範疇を遥かに上回ってきたのでそこの辺りは深く考えるのは止めておこう。もしかすると時代時代に現れるといわれている他の古代人も同じ様な物に入っていたのかも知れない。


「この中に入れた魔晶石は他の物より濃度も量も桁違いに魔力を保持出来るようになるんだ。勿論半端な魔晶石は使えないがな」


 魔力を込める為に置かれていた魔晶石はかなり高価そうで、その大きさや美しい輝きは私が見ても一級品だとわかる。きっとメルチェーデ号を上手く動かす為に使われていたのだろう。

 開かれた箱の内側を手で触れながら少し調べてみる。魔晶石に魔力を込めるという仕組みはそもそもの箱の機能というよりオジジがみつけた副産物的な物だろう。今は外部から魔力が集められているわけではないので特に動きは見られない。魔力を込める装置は箱の内部よりだいぶ小さかったので隙間から箱の内側を覗き見てみると側面に処々窪みがあった。


「そこにはびっちり魔晶石が嵌め込まれていた。きっとその力でこの箱が保たれていたんだろうな」


 それを原動力として私をこの時代まで守っていたという事か。これまで必死にメルチェーデ号で遺物を探して発掘していたのに実は幼い時かなりの期間超ド級の特級遺物の中にいたなんて、なんだか不思議な気持ちだ。


「魔晶石ってもしかして」

「あぁ、これだよ。折角のデカい魔晶石だからメルチェーデ号の為に使ってた。正確には俺から船へ貸し出してたんだ」


 遺物は発掘した者に全ての所有権があるから中に入っていた魔晶石ももちろんリュディガーの物だ。子どもだった彼がそれを有効に使うなんてことは出来なかったので必要とするメルチェーデ号に貸し出すという形を取ったのだろう。

 私はリュディガーの遺物の箱の中をじっくりと調べ、数歩下がって全体的な形も眺めて見た。


「ねぇリュディガー。三十階のあの部屋のあの(・・)壁の開いた空間覚えてる?」

「空間?……あぁ、お前が無闇に触ったせいで作動したあの壁な。勿論覚えてるさ。確かこれくらいの幅で……」


 話している途中でリュディガーの動きが止まった。


「やっぱりそんな感じがするよね?」


 きっと私が思いついたのと同じ考えが浮かんでいるのだろう。


「なんだよ、言ってくれよ。二人だけでわかりあうなよ、気になるじゃないか」

「なんだ!何があるんだ、早く教えてくれ!」


 さっきまで大人しくしていたカイと男爵が暑苦しくグイグイ迫って急かしてくる。何か新しい情報に飢えているのだろう。気持ちはわかるしお察しの通りだ。


「この箱があの空間に嵌る気がする」


 気持ちが抑えられずふふふっと声が漏れ出てしまう。それを聞いた男爵が何かが弾けたような身震いをした後無言でリュディガーの箱の蓋を閉じるとその一端をガシッと抱えた。


「せーので上げるぞ」


 何故かカイが男爵にタメ口で声を掛け大真面目な顔で反対側を同じ様に抱える。いつの間に打ち合わせしたの?って感じる流れる様な動き。


「おいおいお前ら、持ち主に許可を取れよ」


 リュディガーが二人の動きを遮るように箱に手をかけ動かさないように二人を睨む。一瞬の間の後カイが小さく舌打ちしたように思う。


「早く許可とやらを出せよ」

「お前今舌打ちしたろ?」

「良いから早く許可を出しなさい」

「男爵、随分態度が違うじゃないですか?仮にも貴方が師匠と呼んでいる人の孫ですよ俺は」

「私は分別がある人間なのです。師は師、後はそれ以外でいいでしょう」

「いや雑過ぎるなぁおい」


 男三人で騒いでいるのを眺めつつ、私はオジジの傍へ行った。オジジは三人の言い合いに視線を向けながらも難しい顔で黙っている。私としてはあの箱を三十階へ持って行きたいと思っているけれど所有者はリュディガーなので彼の許可が出ない事には無理だろう。リュディガーの事だから最終的には了承してくれるだろうけれど、それが何時になるのかが問題だ。


「皆様、一旦ご休憩なさいませ」


 ピリッと空気が張りつめ騒がしかった洞窟内が静まる。サイラって素敵だ。





「色々とやりてぇ事はあるだろうがその三十階の部屋とやらを調査したら今度こそ今回はお開きだ、いいな?」


 上に向かう魔導具の前で全員が船長のお言葉にコクリと頷く。この遺跡は気になるものの、今回はあくまでノエル国へ向かう事が目的の為一旦はそちらを優先するべきだろうと確認してのこの流れとなった。勿論カイにとってそれが最善のはずなのに何故か苦渋の決断かのように苦しそうな顔をしているが、流石に一度ノエル国へ行かなければ駄目なのはわかっているのだろう。男爵はかなり渋り、なんなら自分だけ置いていけと騒いでいたがジーナが岩陰に連れ込んで二人っきりで話し合いをし戻って来たら号泣しながら承諾した。ジーナも素敵だな。


「では、私が二往復するって事で」


 三十階へ運んでくれる魔導具には一度に全員は乗れない。しかもリュディガーの箱はかなり場所をとるのでなおさらだ。だけど私がいないと魔導具が作動しないので私がずっと乗りながら三十階へ皆を移動させる事になった。一度目は、私、オジジ、カイ、イーロ、船長、ジーナ、男爵で二度目が私、リュディガー、サイラ、ピッポ、そして箱だ。

 ピッポとリュディガーが箱を持ち上げ四苦八苦しながら結局縦にして運び込み、残った隙間にサイラと私が乗り込むのだが。


「ちょ、ちょっと狭いな」

「リュディガー様、もっとエメラルド様の方へ寄ってください」


 サイラの素晴らしい発言に視線を合わせて頷き合う。


「じゃあサイラはピッポ側の方へもっと寄って」


 今度はピッポと頷きあった。これで完璧だろう。



 

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