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「「おぉ!」」
到着した魔導具の扉が開くと集まっていた驚く皆の前に足早に出ていった。到着直前にリュディガーから「さっき中で何か言いかけてたよな?」と言われ追い詰められそうだったのでかなり助かった。アレはボタンを押し間違えたせいで魔導具が潰れて中にいる私達ももう話せなくなるんじゃないかと思っての衝動的な行動だったので無事だった今改めてとかは無しにして欲しい。
外が透けて見える扉のせいで騒ぐ皆の様子は直前でわかっていたので叱られることは既に覚悟を決めていたんだけど。
「ご無事でしたか!」
駆け寄るサイラに抱きしめられた。そうだったぁ〜。彼女は心配性だったのでちょっと申し訳ない気持ちになってしまう。
「ごめん、サイラ。ちょっとミスって」
どうやら私とリュディガーが遺跡に入っていったところから皆知ってらしく心配をかけていたようだ。でも何だよそれ。覗きか?!
「魔導具が凄い勢いで上っていくのが見えて慌てたぞ」
オジジがやれやれって感じで安堵の表情を浮かべている。
「ボタン押し間違えちゃってさ、死ぬかと思ったんだけど無事についたんだよね」
「なに!?何階だ?」
おっと、男爵がオジジを押し退けて来たよ。厚かましい弟子だな。
「三十階だ。オジジ、話がある」
私に掴みかからん勢いの男爵を排除してリュディガーがオジジと皆から離れて奥へ行く。今話すってことは勿論さっきの部屋の事だよね。だったら私も……
「エメラルド様はこちらです。そろそろお休みになって頂かないと!」
「えぇー、!あっ、はい。そうだね、直ぐに休むから」
怖、サイラ、怖!
ぎゅっと掴まれた腕は絶対に振り切れない表情と思いました。
わざとエメラルドから離れるとオジジと船長と遺跡の奥へ向かった。ピッポとすれ違いざま目で合図したからエメラルドの事は大丈夫だろう。皆が口々に何か話している声が遠退き遺跡から出て行ったのを確認すると二人に向き直る。
「それで何があった?」
くい気味のオジジの目が鋭い。
「見た感じ三十階は二十一階半分位の広さだった。エメラルドが押し間違えた時はぶつかるかと思ったんだけどな。前に来た時調査は何階までやってたんだ?」
振り返って魔導具がある壁辺りを見上げるがフロアーの区切りは確認できず上の方は洞窟の天井に吸い込まれる様に消えて見えない。
「この上三階分で入れるのは二十一階と二十二階だけじゃ。その上は階段が潰れて上れなかったが空間はありそうじゃった。あの時は道具が足りなかったんじゃ」
前回は船長と二人だけの調査だったので人手も足りなかったのだろう。
「もしかすると途中階は入れなくてあの三十階だけが生きているのかも知れない。魔導具で移動中の外は暗がりに岩しか見えなかったからな」
「そうか……常識じゃありえんがそもそも遺跡自体常識の範疇外だからな」
船長が強面の顔を更に凶暴な顔に歪ませて舌打ちする。見慣れた俺達でさえ引くからそんな顔で考え込むのは止めろって。
「あまり長居する訳にはいかんだろう」
「なんじゃと?!」
船長の意見にオジジが睨む。イヤ本当に孫から見ても遺跡を前にしたオジジの変貌ぶりが凄い。
「元々ノエル国へ向かう予定だったんだぞ。カイだってそのつもりでアレを見せてきたんだろうが!」
「オレは少し位遅れても構いませんよ。この遺跡も興味深いですし」
一旦離れていたカイがこちらへ向かいながらそう言ってくる。カイよりも話に加わりそうな男爵はどうやらジーナに押さえられているらしく「離せ、離してく……」という言葉を最後に何も聞こえなくなり静かになった。これは抑えサイラも加わったな。
取り敢えずエメラルドが少しでも休んでくれればいい。アイツはやり出すと抑えが効かないからな。
「てめぇ、余計な事を言うな!ただでさえゼバルドはまわりの安全より調査を優先しやがる。ここで捕まったらノエル国へいつまでたってもたどり着けねぇぞ」
船長がカイに話すオジジの悪癖はエメラルドと同じだな。まったく血縁は無くても変な所がそっくりだ。
「確かに。でもまぁ命の危機とかは困りますけどここでの発見がノエル国に有益に働く可能性もありますから多少はいいですよ。少なくとも三十階は調査すべきなんじゃないですか?」
「くっ……」
もっともらしい事を言うカイを憎々しげに睨みつける船長。俺だってその思いは同じだが確かに三十階は調べるべきだろう。最低でも一日位調査しなければエメラルドやオジジ(男爵もだろうけど)がきっとテコでも動かないだろう。
「ともかく今夜はもう休もう。俺達が戻らない限りエメラルドも気にして眠らないだろうしな」
サイラに連行されたから割と素直に引き下がったけどきっと今もギンギンな目で俺達の動向を窺ってるに違いない。フッ、手間のかかる奴だな。
なんとかエメラルドを寝かしつけ次の朝に目を覚ますと既に俺の隣に居るはずのエメラルドがいない。マジか……
体を起こしさっと見回すと遺跡の前でオジジと男爵、カイまで加わり何か小声で話しながらゴソゴソとしている。その近くにいるサイラが落ち着いた様子でこちらに頷いているので朝食は食べ終わっているようだ。でなけでば今頃エメラルドはブチ切れられているだろうからな。彼女の存在は有り難い。
俺も起き上がると通りがかりにテーブルの上からパンとカップに入ったスープを手に取り食べながら小声だが騒がしい奴等に近づいていく。
「ナニコレ?!こんなのがあるってどうして教えてくれなかったの!」
小声っぽいが感情が高ぶりすぎて既に普通の声より耳につく声だな、エメラルド。
「仕方なかろう、こいつはメルチェーデ号に必要なもんじゃったしそもそも国へ報告しとらんのからな」
どうやら俺の箱型遺物を見ているようだ。俺が初めて発掘した遺物は俺が魔力を込めて解錠したためそれ以降俺がいなければ開く事は出来ない。遺物は長方形でどっしりとしておりこの中に魔晶石を入れておくと通常より早く、より濃厚な魔力が込められ強力な魔晶石が出来る。それは回収船メルチェーデ号が非常事態の時に必要な物でメルチェーデ号が国で一番の回収船である秘密でもある。よくオジジや船長がこれを国へ報告しないで秘密裏に船に組み込んだものだ。
「ねぇオジジ。この箱の周りに書かれてある古代文字は全部解読出来てるの?」
エメラルドは箱の正面に座り込み側面に手を滑らせている。そこには小さな古代文字で数カ所何か書かれていた。
「いや……全部はわからん」
ポツリと零しなんだか遠い目をするオジジに不思議そうに首を傾げるエメラルド。やってみろと顎で示されエメラルドがさっそくその文字を解読し始めた。
「えぇっと、これは……『世界一可愛い』『トキメキミラクルキュート』『可愛いは正義』……『最大級の胸キュン』……は?」
あぁ~、固まってるよ。この箱に書かれている古代文字は一般的な物だったのでオジジも既に解読済みだったが途中でやる気を無くしていたと聞いたことがあった。
「何これ」
流石のエメラルドもわけがわからんって顔だな。
「なんだか知らんがほぼ意味のわからんもんが記されておる。じゃがここだけは別じゃ」
オジジが側面端に枠で囲まれそこだけ重要だという風に強調されている文字を指差す。
「心ある人へ この箱は世界を変える事ができる 心して開封せよ 願わくば幸福を」
エメラルドが読み上げると男爵とカイが邪魔にならないように後ろから静かに覗き込んだ。
「リュディガーが発掘した時、ワシがこいつの汚れを落とし皆の前で開こうとした。その時はこれらの文字は無かったんじゃがリュディガーが最初に魔力を込めた時に浮かびあがった。じゃがその瞬間にお前の泣き声が聞こえてな、考える間もなく開けたんじゃ」
「あぁ、あの時は焦ったな」
エメラルドの両肩にそっと手を置くと振り向く彼女ににっこり笑った。