122 塔の三十階
すみません、ちょっとづつですが何とか進めていきます。
「エメラルドぉ!!」
リュディガーが私を抱き寄せ庇うようにして体を低くした。きっとこの魔導具が何処かの地点で岩に激突すると思ったのだろう。私が浮かれてしまったばっかりにとんでもない事をしてしまった。久しぶりに二人っきりなれたのにこんな事になるなんて。魔導具はもの凄い勢いで上がっているのできっと二人とも衝撃で助からないだろう。
「ごめん!リュディガー、大すk……」
今迄言えなかった言葉を続けようとぎゅっと彼のシャツを握りしめるとふと抱きしめられた腕の力がふと緩んだ。反射的に顔を上げると同時にポーンと軽快な音がなり静かに扉が開いた。
「「え?!」」
彼と見合わせた視線を同時に扉に向ける。そこに真っ暗だけれど何事も無かった様に空間が広がっている。魔導具は確かに昼間よりも高く上っていったはず、それも凄い勢いで。扉横のボタンの列を確認すると確かに三十階の所が光っている。ここは間違いなく三十階のようだ。
リュディガーは慎重に私を庇いながら立ちあがる。扉の向こうへ意識を集中しながら腰に下げていた銃のホルダーのボタンを外す。っていうかいつの間に持ってたの?すると一定の時間がたったからなのか、扉が音も無く閉じた。
「「ふぅ~」」
二人して一旦気を緩める。
「開けていい?」
「行くのか?!」
「その為に来たんじゃない」
「ここはまだ調査していないところだぞ」
「だから調査するんでしょ」
あんまり納得してなさそうなリュディガーにニヤッと笑いかけながらポチッとボタンを押すと扉を開けてそっと顔を出した。
「待てエメラルド俺が先に」
「私が出ないと灯りがつかないかもでしょ」
さっきまでの危機的状況をすっかり忘れ、暗い中目を凝らしキョロキョロと辺りを見たがなんの気配も感じないので思い切って外へ出た。直ぐにパッと灯りがつくと左右に伸びる廊下。二十一階と同じような造りだ。あのフロアーだってちゃんと調査したわけじゃないけれど折角来たんだからここを先に見て回ったっていいだろう。
魔導具の前から左右の廊下を改めてそれぞれ観察すると、二十一階とは雰囲気が違い半分位の広さで扉の数も少なく左右に二部屋ずつ。廊下の途中に一つと突き当りに一つの合計四つだ。
「ふぅ~ん。今回は左に行きますか」
私の言葉にリュディガーが素早く左の廊下へ足を向け前を歩き出す。銃をホルダーから取り出しいつでも撃てるように手にしたまま進む。私達の足音だけが響く廊下は下の階と違い少し埃があるものの壁が崩れたり床が割れたりなんて無くて返ってちょっと不気味な感じだ。
「綺麗すぎるな」
リュディガーも同じ様に思っていたらしく更に警戒を深めている。廊下の中ほどまで進むと一つ目の扉の前についた。下の階と同じ様にドアノブは無くボタンも無い。昼間と同じ様に扉に魔力を込めて触れてみた。
フォン!
「下がれ!」
籠った様な音にリュディガーが叫び二人で後退る。扉から聞こえた音は恐らく何かの起動音だろう。二十一階では静かに扉が開くだけだったがここでは小さく何か作動する音がしたと思ったら扉が開かれた。少し下がった位置から目を凝らし中を覗く。既に部屋の中にも灯りがつき様子は見えなくもないがこの角度からじゃよくわからない。
「押すなって、オレが先だ」
焦れったいなぁ!リュディガーはゆっくりと扉に近づき中に入らないまま部屋を見渡している。私は彼の体の隙間からなんとか中を覗き込んで息を呑んだ。
「生きてる……」
そこには用途は不明だが色々な魔導具があり、そのどれも破損しているようには見えずそして部屋の奥にあるモニターは記憶の中にあるあの映像を映していた。
モニターの真ん中に蒼い丸い玉とそれに紐つけるように線が伸びその先に幾つも小さい点が集合した塊が描かれていて……
「これ、見たことある」
「この画面か?」
「うん」
「映ってる内容が同じなのか?」
「そう」
リュディガーが真剣な顔でモニターを見ながら腕を組んでいる。オジジの言っていた話と合わせて考えてみれば、これは彗星がこの真ん中にある蒼い丸へ向かって来る予想経路を表している事になるのだろうか?そしてこの蒼い丸こそが私達が住む三大陸なんだろうか?
私は彼から少し離れるとモニターの前にある装置に近づいた。ピコピコと小さい光を放つ目盛りのような物があり、小さいモニターに映されている丸い模様は何かを表しているのだろうけれど全く理解出来ない。下手に触って壊れたり何か予想外の動きをさせてしまってはイケナイだろうからここはオジジ任せよう。
リュディガーはまだ大きなモニターに釘付けなので、私はゆっくりと部屋の隅々を一人で観察し始めた。彼が居てはいちいちちょっと面倒くさい。
この部屋は最初は大きなモニターに目を奪われるものの、意外とこじんまりした規模の研究室のようだ。モニター前の装置は複雑そうだけれど両側の壁面はそんな感じではなく、少し凹凸があるものの一見ただの壁にも見える。でもきっとそうじゃないんだろうな、と思いつつ慎重にという気持ちは込めながらもペタペタと触り何か変化はないかと探っていった。
「あぁ!?エメラルド止めろ!」
やっと我に返ったリュディガーが私が何かしでかしそうだと察知した時の反応をする。
「まぁまぁ、これぐらい大丈夫でしょう?そこには触れてないんだし」
モニター前を顎で示しながらニヤリと笑ってやる。
「いやお前は油断出来んからな。もう下へ戻ろう。オジジに報告してから……」
ヴィーン。
「あ、動いた!」
とある一箇所に触れた瞬間、音と同時に二人掛けソファ位の大きさに壁面部分がせり出してきてパカっと開いた。勿論リュディガーに引っ張られ下がらされたが、突き出された長方形のそれはただ開けられた箱のように空洞が見えるだけだった。動きを止めてじっとしていたがそれ以上の事は起きず、どれどれもう一押ししてみるかと思っていたら有無を言わせない勢いのリュディガーに部屋から連れ出されてしまった。チッ、今夜はここまでか……
全く眠気は無いが既に下へ降りる魔導具へ押し込まれようとしている。無言の圧に屈し中へ入るとそっと二十階のボタンを押すと来た時同様滑るように静かに魔導具が動き出す。
「チッ、本当に油断も隙もない奴だな」
彼のため息と眉間にシワは見慣れた光景だ。下手すればここから鬱陶しい説教が始まりそうだがそれは避けなければイケナイ。
「あの壁の空間なんだろうね?何か決まった物が入る感じなのかな?」
私が開放してしまった壁の穴は長方形で奥行きもあり開いた壁は受け台の様になっていた。
「どちらにしろオジジに見てもらって安全を確認してからじゃないともうあの部屋には入れんぞ」
強火で真剣に睨まれた。うへぇ、思っていたよりも怒っている。ちょっと謝っておくか。
「ごめんなさい。浮かれ過ぎだった」
項垂れ弱々しく頭だけちょこんと彼に寄りかかる。こうやれば大抵の男は許してくれるとメルチェーデ号に三年いた女冒険者に教えてもらい時々使っているがいつも覿面だ。
「……気をつけろよ」
はい、鎮火致しました。と同時にポーンと聞き慣れた軽快音。これって到着のお知らせか。開いた扉の前に皆がいた。そりゃも本当に全員だ。
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