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 ひと先ずこの階の一部を調べた所で今日は拠点に戻ることにした。私はあのまま調査を続ける気満々だったんだけどサイラからの圧が強過ぎた。オジジも男爵も流石に一緒に戻ったのでサイラが怖いのは私だけじゃないはず。

 拠点に戻るとサイラを中心に食事の準備をしていく。私とジーナ、そしてなんとなくソワソワしている様に見えるピッポも加わり全員分のスープを作る。うへへっ。その間にカイとイーロとリュディガーで船の様子を見に行き、オジジからの指示なのかリュディガーの遺物である例の箱を船から降ろし運んで来ていた。箱は気軽に運ぶには重量があるがキングクラーケンは見当たらなくてもあのまま大事な遺物を置きっぱなしなのは不安だからだろう。それに私もまだあの箱をじっくりと見たことがないので昼間は遺跡、夜は箱を調べることが出来そうなのはとても良い事に思える。

 

 洞窟内は思っていたよりも快適で料理の為の火ともう一つ暖を取る用の焚き火があるだけで充分だった。ただここは平らな所があまり無く、全員がここで体を横たえて休むの難しそうだ。

 

「ねぇオジジ、思い切って遺跡で過ごさない?見た感じ建物はまだ頑丈そうだし入って直ぐのフロアーなら床も平らで寝心地良さそうだったじゃない?」

 

 広々とした空間だったあのフロアー。あれってなんの為の場所だったんだろう。夢で見た塔の中程の位置だろうと言っていたけど。上の階は個別に仕切られていたし明日は下の階へも行かなくてはなんて思いながらそんな話をしていると男爵が興奮気味に加わってくる。

 

「いやいや、エメラルド。遺跡というのは繊細なものだ。我々のような大人数であそこにずっといると何らかの変化を与えてしまい危険なんだよ」

「でも男爵様はずっとジーナと二人でアノ遺跡で過ごしていたんですよね?」

 

 子爵に案内してもらった遺跡で男爵は寝泊まりしていたし、なんならオジジと船長だってそこで過ごしていた。私抜きでね!!くぅ~泊まりたかった。

 

「アレは一時的に人数が増えただけだし、私とジーナも遺跡とは別に部屋を増築して夜はそこで過ごしていたんだよ。やはり人が入り過ぎると劣化が早まるからね」

 

 いくら恐ろしいくらいの奇跡と保存力で遺跡が残っているとはいえ色々な所が崩れたりしているのは確か。だけど私達が数日居るくらい平気なんじゃないかな。私的には滞在時間が数カ月でもいいけど。あそこはかなり見応えがありそうだから、発掘して新たな魔導具のヒントになりそうな物が見つかればまた凄い事になって、そこから国へこの遺跡の場所がバレて……いや、それは駄目だな。きっとここもこれ迄の遺跡同様破壊の限りを尽くされてしまうだろう。となれば、ここは少しずつ発掘調査を進め生涯をかけて古代文明の謎を解いていけばいいのではないだろうか?…………あ、そうだ忘れてた。カイの祖国であるノエル国をどうにかする為に動いて来た結果ここに居るんだった。のんびりはしてられないか。


「確かにここに全員は無理があるな。遺跡の中は駄目でもその前くらい良いんじゃねぇか?あそこの方がここよりマシだろ」


 振り返ると自分だけ慣れて居心地の良さそうな天然のイスに腰掛けて寛いでいた船長が適当そうに話していた。きっと遺跡の劣化なんてどうでもいいじゃねぇかとか思っていそうだけど意見の間を取って早く問題を解決しようとしているんだろう。それに乗っかろうっと。


「あぁそれイイね。オジジ良いでしょう?じゃあ食事が済んだら移動しよう」


 そのまま素早く行動に移し誰にも反論されないように勢いで押し切った私偉い。



 食後に遺跡の前まで移動した。見上げる程の高さの塔の遺跡の入口の前に広がる空間はよく見れば結構広くイイ感じで使えそうだ。きっと船長はそこのところもちゃんと見ていてのあの発言だったのだろう。使えるなぁ。オジジが頼り切っているのも納得だ。


 やっと腰を落ち着け夜を迎えた。と言ってもここから洞窟の外が見えるわけでは無いので時間はよく分からないが体の疲れ具合でそろそろ寝るかという感じだったのだけれど。


「はぁ~、眠れない」


 横になったはいいが目の前にある遺跡が気になって気になって気になって気になって仕方がない。視界に入っているから眠れないんだと思い遺跡と反対側へ顔を向けるとリュディガーと目があった。


「うわっ、なに?」

「お前こそいつまで起きているんだ」


 手を伸ばしワシワシと頭を撫でてくる。なんだよ急に。

 サイラが寝床を準備してくれ横になろうとする直前に私の隣へ毛布を敷きだしたリュディガー。小さい頃は兎も角、今迄ぜっっったいに一緒に寝てくれなかった彼の突然の行動にポカンとしてしまった。驚く私を見ようともせず眉間に皺を寄せたまま何も言わずに横になって目を閉じやがった。彼の意味不明の行動に気を取られていたがふと顔をあげればムッとした顔のオジジと頬を引き攣らせる船長。ニヤニヤ顔のピッポが黙ってこっちを見ていた。えーっと。ここで騒げば余計に誂われる気がして私も無言で横になった。顔が熱かったが、そんな事は置いておいて。


「眠れる訳ないでしょ」


 再び遺跡の方へ顔を向けると必然的に彼に背を向けた。すると何故か背中と肩に熱い気配が引っ付いてきた。まぁ当然それはリュディガーなんですけどね。


「それでも寝なきゃ明日の調査に行けないぞ」


 低音の心地良い囁きとか殺しにかかってるだろ?耳がゾワゾワしている事を悟られないように殊更心を平坦に保ち答える。


「それはそうだけど、眠れないものは仕方ないじゃない。いっそ今ちょっとだけ遺跡を見れば落ち着くと思うんだけどな」


 背中と耳に意識の九割は持っていかれているが一割は遺跡に向いているのは本当だ。そして今の状態じゃ今夜は寝れないのは決定だ。落ち着け私の心臓!


「……はぁ、仕方ないなぁ。静かに行けよ」


 だから、耳元は止めろ、え?!良いの!! 思わず叫びそうになったのを堪えた私偉い。

 そこからゆっくりと体を起こすと皆が寝静まっているのを確認し、静かに遺跡の方へ向かった。途中、「もがっ」っと誰かが口を力任せに塞がれた様な音が聞こえた気がしたが見回しても誰も起きては来なかった。

 素早く遺跡の入口から入ると小さく灯りがついた。


「なんで来るの?」


 当然のようにリュディガーが傍にいる。


「いやお前こそ!一人で行かせるわけないだろ」


 呆れた様子だけど私の少し前を歩くリュディガーを追うように進む。


「別に大丈夫じゃない?昼間皆で見た所だし」

「それでも何かやらかすのがエメラルドだろ」


 二人でアレコレ言い合いながら上の階へ上る魔導具へ乗り込んだ。何だかんだ言いながら私が何をしたいかわかってくれている事に嬉しくなってしまう。


「何笑ってるんだよ?」


 魔導具に乗り込み二人で並ぶ。


「別に笑ってないわよ」


 なんだか照れてしまい誤魔化しつつ扉横にあるボタンをポチッと押す。パッと灯りがつき扉が閉じていく。狭い空間に二人っきりとか、なんか、良い。


「エメラルド止めろ!違う階を押してるぞ!」


 ちょっと浮かれていた思考を打ち消し我に返ると自分が押したボタンを確認した。昼間は二十階から安全確認済みだった二十一階へ行っただけだったが私が押した階は……


「ひぃっ、三十階?!」


 リュディガーだって古代文字の数字くらい読める。閉じきった扉が昼間のように透明になると音も無くもの凄い勢いでスルリと上がっていった。直ぐに透明な扉の向こうは何も見えなくなった。地階は不明だが、この小島を外から見た限りさっきの二十階から数えて三十階まであるはずがない。そんなに高さがあった風には見えなかった。









 

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