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 開いたドアの中は薄暗く静まり返っている。二メートル四方位の狭い空間で何か置いているわけでもなかった。一体なんの為の部屋なんだ?警戒しつつじっと観察していると今度は音もなくスルリと閉じた。何も起きない呆気なさに皆が緊張を解くようにホッと力を抜くのがわかる。

 

「……なんだったのかな?」

 

 少し扉に近づこうとするとリュディガーに掴まれたままだった腕を引っ張られ引き戻されてしまう。

 

「おい!」

「調べるだけよ」

「駄目だ近寄るな」

「近寄らずにどうやって調べるのよ?」

 

 腕を掴まれているままじゃどうにも振り切れない。体格だけは無駄に良いんだから。私が眉間に皺のリュディガーから逃れようともがいているとその横をすり抜けカイが扉に触れ調べ始めた。

 

「ちょっと!抜け駆け」

「これどうやって動かしたんだ?」

 

 私が調べたかったのにぃ〜。カイは両開きのドアの隙間に指先を引っ掛けて開こうとしているみたいだけど全く動く気配はない。

 

「そこにあるボタンみたいなのを押したからかな?」

 

 扉の横の壁部分にある四角いボタンを示すとカイは躊躇いなく押した。一瞬、皆が一歩後ろへ下がったが何も起きない。カイは何度かカチカチと続けて押したが音も鳴らず扉も開かなかった。

 

「前回ワシが来た時もそこは調べたが何も動かんかった。それがエメラルドが触れた途端に反応したということは……」

「チッ、またお前の魔力か」

 

 オジジの言葉を引き継ぎモッテン船長が舌打ちしながら言った。私はじわじわと自分の中になんとも言えない気持ちが沸き上がる。くぅ~、ゾワゾワするぅ。

 

「ではでは、私がもう一度」

 

 オジジから許可が下りたような流れにリュディガーが嫌そうに私の腕を掴んでいた手の力を抜く。が、離れない。

 

「ちょっと」

「このままでも調べられるだろ」

 

 安全確保の為だとか何だとか言い出しているがいちいち取り合ってたら時間の無駄だなと思った私は彼に腕を掴まれたまま再び扉の前に立った。ひと呼吸だけ置き、ポチッとさっきのボタンをもう一度押す。さっきは無意識だったけれど今度は意識して魔力を込めてみた。すると扉は直ぐに再び音も無く開いた。

 

「ふぇ~」

 

 恐る恐る扉の外から中を覗き込む。さっきと同様に中には何も無い。もう少し近付いて見ようと一歩踏み出し中に顔だけ入れてみる。リュディガーにしっかりと腕を掴まれたが首を伸ばして見回すと扉の中の手前脇にズラリとボタンが並んでいた。それを見た瞬間に夢で見た光景がパッと頭の中に浮かぶ。

 

「あぁ!これ上の階とかに移動する魔導具だよ」

 

 パパに抱かれてスルリと上がり外を見下ろした記憶を思い浮かべる。本当にあれは夢じゃなく現実の事だったのか。深い記憶が蘇ったせいか少し目眩のようなものを感じると乗り出していた体が後ろへ引き戻された。

 

「大丈夫か?」

 

 私の僅かな変化に気づき過ぎだろ。引き戻されたついでに振り返りリュディガーの胸にボスッと飛び込む。イヤここは女子らしくポスって可愛らしく行くべきだったか。

 

「大丈夫。それよりこれに乗ってもいいでしょう?別に危険なものじゃないよ」



 ちょっと可愛く見えるように首を傾げてみる。


「くっ、だ、駄目だ」

 

 堅いなぁ。少しグラついたようだが目を逸らされてしまう。

 

「ねぇオジジ?」

「すぐ上の階までなら良いじゃろ。前に来た時と変わない様子じゃと確認済みじゃからな」


 さっきの確認で上の階は見回りしていたらしいオジジが私の側まで来て言うやいなや、私達を回り込み素早く乗り込む黒い影。勿論男爵だ。ジーナとサイラがちょっと油断した隙をついたらしい。


「おぉ!これが古代遺跡の魔導具!!建築物で稼働するところは初めて見るぞ!」


 扉の中へ躊躇無く入ったかと思えばさわさわとそこら中を触りまくっている。大丈夫かな?と思っていたら扉が音も無く閉じ始めた。


「あぁ!男爵様!」

「おぉー閉じて行く!やはり使用可能なのか!」


 魔導具内に閉じ込められそうなのにそれには構わず閉じ行く扉に満面の笑みで感心している男爵って知っていたけど変態だな。あわや真っ暗な中に閉じ込められそうな男爵を救う為に私はもう一度壁にあるボタンを押した。


「おぉー!また開く!エメラルド、もう一度、もう一度やってくれ」


 興奮気味の彼の言う事ばかりを聞くつもりはない私は直ぐに男爵の横に乗り込んだ。勿論私の腕を掴みっぱなしのリュディガーも一緒で、続いてオジジ、サイラ、ジーナ、カイ、モッテン船長が乗ってくる。


「お前らは階段で上の階へ行け」


 続いて入りたそうにしていたピッポに船長がそう言うとイーロと二人でちょっと不満気な顔をして階段へ向かった。


「さてと」


 記憶を頼りに扉の横にズラリとならぶボタンを見てみる。古代文字の数字が並び(勿論読めますよ)このフロアーは二十階に当たるのか二十と記されたボタンが光っている……え?!二十?そんな高さなんてあり得……るのか。夢で見たあの高さならそれよりあったはず。まぁ細かい事は後で考えよう。


「ってことは、すぐ上はコレね」


 詳しい数字は口にせず取り敢えずポチッとボタンを押すと扉がまた静かに閉じ同時に天井が光った。それ程広くない空間に八人もの人を乗せた魔導具が重さを感じさせずスッと動き出す。途端に扉だった部分が硝子のようになり今居たフロアーが透けて見えゆっくりと上っていくのがわかった。


「うわぁ……」

「はぁーー!!動いた!動きましたよ!師匠!これが古代遺跡の力っ!!」


 他者が声を上げ驚く事を許さない男爵が煩すぎる。ここはジーナにお任せしよう。皆が素早く男爵を黙らせる為に動くとジーナが愛用の詰め物を男爵の口にブチ込んだ。


「お騒がせしました。もうここにいる間はずっと突っ込んでおきます」


 今度は腰紐だけでなく両腕を後ろで縛られるらしい男爵ってホントにヤバいと思う。

 ポーンと先程聞いた軽快な音がすると静かに扉が開いた。口を塞がれても目をギラつかせそれだけで充分煩い男爵をよそに開いた扉から外へ出てみる。


「本当にそれで上がれるんだな!」


 階段があるらしい方からピッポとイーロが「おぉ!」て感じで小走りでやって来る。みんな魔導具から外に出たがこのフロアーに関心は無く振り返って今乗ってきた魔導具を色々と触ったり覗き込んだりして調べている。因みに勝手に閉じようとする扉をモッテン船長が手で押さえてオジジは魔導具のそこかしこを調べている。船長のこういう細かい気配りが憎いね。きっと昔のオジジとの旅の間もこんな風にさり気なく手助けしていたんだろうな。ちょっとピッポに似てる。流石育ての親だね。


 勿論私だってこの魔導具を調べたい気持ちはあるのだけれど、それよりもこの遺跡の事が知りたい気持ちが上回る。わいわい騒いでいる皆に背を向け首を巡らせる。下階と違い乗ってきた魔導具の前は少し広めの空間が取られてここから廊下が左右に伸びている。子爵に見せてもらった遺跡と同じ様に壁や天井が少し崩れているが長い年月を経たとは思えないほど状態が良い様に思える。左右に伸びる廊下の片側には処々扉らしき物があるようだが目の前の壁にも扉がある。先ずはここから始めようではないか。

 私は扉らしい長方形の線を目でぐるりと追って観察する。ドアノブらしき物はここにも見当たらずボタンも無い。ムムッと思いながら経験を活かしそこら中を魔力を込めてペタペタと触ってみる。


「お、おい。そんなに簡単に触れるな」


 焦るリュディガーは勿論無視だ。私がさわさわとしていると折角さっきの魔導具に必死になっていた男爵が気づきもごもご言いながら近付いて来た。勿論ジーナとサイラで必死に腰紐を引っ張っているから飛びついて来ることはないが獣じみた男爵も男である以上女二人がかりでも大変そうだ。見かねたピッポが代わりに男爵の手綱を握りジーナが男爵を物理と言語で宥める。やっとサイラが解放されてホッとした様子をピッポがさり気なく見て笑みを浮かべていた。え?えぇえぇぇぇ!?

 

 

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