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 竈があった先程の場所を拠点にし、しばらくは洞窟内を調査する事になった。ピッポとイーロが船に残された荷物を少しずつ運んで来たりキングクラーケンの様子を窺ったりしていたが遠目に一、二度触手が海面を叩くことがあったらしいがこちらへ近づくことはなかったようだ。前の奴と違い陸へは上がらない種なんだろうか?

 後方の憂いが無いなら思う存分遺跡に気持ちを向けて良いってことだろう。ということで、キャッキャと乙女のようにハシャグ男爵をオジジが宥め、いや、諌め?ながらオジジ達が昔発掘調査した場所へ向っていた。足元がおぼつかないサイラには拠点に残ってて良いよと言ったけれど猛抗議にあいついてくることに。とにかく一度は現場を見ていつでも拠点と行き来出来るようになったら考えるだろう。流石にここで付きっきりは彼女の負担が大きいだろうからね。

 

 洞窟の奥は一旦細く狭まり人一人通れる程になったがそこを過ぎると少し拓けた場所に出た。すると大はしゃぎで先頭を切っていた男爵が「ぉぉ……」と声にならない声をあげ立ち止まった。

 暗い洞窟の中に魔道具の灯りで照らされた数メートル先、ツルリとした表面の壁が静かに佇んでいた。見上げるほど大きな壁は洞窟の天井部分にぶつかっていたがそれ以上に続いているのだろうか。地面と接する中央辺りにぽっかりと空いた人工的な角張った穴。それはカイが見せてくれたノートにも描かれていた塔にそっくりで。


「夢で見たあの建物と同じかも」

 

 思わず零すと皆が一斉に私に顔を向けた。

 

「それは本当ですか?どの辺りまで同じですか?あの壁は何で出来ているのですか?中の構造も同じですか?実際にはどのような事に使われてい……った!?もごっ」

「すみません、躾がいき届いていませんで」

 

 ボスッという音と共にジーナが男爵の口にタオルか何かを突っ込んでふさいだ。手慣れてるぅ。

 

「オジジはどこまで発掘したの?中には入れる?」

 

 気を取り直し、男爵よりも抑え気味に質問しつつ皆で建物の側まで近づく。自分より浮かれている人がいると落ち着いてに振る舞っちゃうもんなのね。

 

「この入り口はどうもこの古代の建築物の中央辺りに位置するらしいいんじゃ。この位置から上へ、そして下へと階段が作られている事はわかったんじゃがそれ以上は何もわからなんだ」

「ハッ、何しろここには偶然辿り着いただけだからな。数日で食料が尽きちまったんだ」

 

 モッテン船長がやれやれという感じで話に加わる。きっとオジジをこの場から引き剥がすのに苦労したんだろうな。

 

「食いもんなんぞお前がそこらで調達してくれば良かったんじゃ」

「何言ってやがる!飢え死に寸前まで粘りくさって死にかけたのを引きずって大陸へ連れて帰ってやったのはオレだぞ!」

 

 ここに来てより破天荒な生き方をしているのはオジジなんじゃないかということが知らされてきている。今ままでモッテン船長の方が無茶をするイメージだったけど改めた方が良さそうだ。

 

 そんな事を考えつつも遺跡の入り口へ向かう。それは遠目で見たよりもずっと傷もない美しい壁面で本当に夢で見たあの建物と同じだと思えてきた。縦横三メートル程の開口部から一歩入り内部を灯りで照らすと想像以上に広い空間が広がっていた。割れているとはいえ材質がわからないタイルが敷き詰められていたであろう床に大陸で泊まった豪華ホテルの床が思い浮かんだ。それに恐らくエルドレッド国で見たランベルティーニ子爵達『古代遺跡保存の会』が保護していた遺跡の壁や床の素材と同じな気がする。

 本来ならここにも何か装置が設置されていたのかも知れないが完全に崩れ瓦礫が転がるばかり。勿論それは遺物として重要な価値があるだろうが、先ずは遺跡全体を見て回りたい気持ちが抑えられないことは男爵が声なき声で代弁してくれている。

 

「もがぁー!がぁー、もぐ!もごもご!がーー!」


 口に何かを詰められたまま後ろから羽交い締めにされて暴れだしそうな男爵。


「はいはい、落ち着いて下さい男爵様。あんまり暴れたらここから放り出しますよ」

 

 あぁ、ジーナに軽くいなされている。流石お目付け役。男爵は静かにする事を約束させ腰紐がつけられた状態でようやく口の詰め物が外された。そんな男爵とジーナ、それを手伝っていたピッポを置き去りに、他のメンバーは遺跡の奥へと進むオジジについて行った。

 

「あの向こうに階段がある」

 

 何十年も経っているであろう遺跡の中をオジジはまだ正確に覚えているらしい。後で聞いた話によれば一度大陸へ帰った後にもう一度ここへ来ようとしたが資金不足で叶わなかったらしい。遺跡の破壊を目論む国にこの場所を報告する気は端からなかったのだろう。この機会がなければここは誰にも知られずひっそりと海に沈んだのかも知れない。

 

 瓦礫を避け広いこの空間の右手奥へ向かうと上下へ繋がるであろう階段が見えてきた。この建物自体そうだが階段も経年劣化等によるヒビや崩れが目立つ。このようにしっかりした形で残っていること自体奇跡的な事で、そこを調査するとなれば慎重に進むべきだろう。

 腰紐を付けているにも関わらず飛び出していこうとする男爵をどうどうとジーナが宥める。それに呆れる視線を向けながらオジジが魔導具の灯りで上や下へ続く階段を照らし安全確認をしていた。私は直ぐにでも行きたかったが確認には少し時間がかかるだろうと落ちている瓦礫をあさったりぶらぶらと周辺をうろついて待っていた。

 

「ねぇ、ここは何?」

 

 階段がある場所より少し手前壁に大きめの扉のような物があった。左右に開けそうだがドアノブは無い。脇の壁にボタンがあり何となく右手を伸ばし押してみる。

 

 カチカチ。

 

 軽い手応えで別に何が起こるでも無い。そりゃそうだ。この場にあるものは全て古代と呼ばれる遠い時代の物なんだから。

 

「コラ、勝手にうろつくな、安易に触るな。何が起こるかわからないんだぞ」

 

 後ろからリュディガーが私の腕を掴んでくる。なによ、偉そうに。自分だっていつも好き勝手にウロウロしてるじゃない。安易に誰かさんと居るじゃない!なんかそれがムカついてきた。

 

「別に何も起こらないわよ」

「起こってからじゃ遅いんだよ。お前はたまに考えずに動くからな」


 言い方がムカつくなぁ。


「そうよね、古代遺跡もキングクラーケンも金持ちのお嬢様のお相手も何が起こるかなんて本当にわからないよね」

「は、はぁ?なんでそこにベルナデッタ入ってるんだよ?」

「私は別にベルナデッタなんて言ってないけど。リュディガーにとってはお嬢様と言えばベルナデッタって決まってるんだぁ、へぇ」


 まぁそれ以外が出て来ても問題なんだけど。

 うっと言葉に詰まるリュディガーにもっとイラついて、もっと何か言ってやろうと口を開きかけた時、「ポーン」と軽快な音が扉側から聞こえた。は?っとお互いに顔を見合わし視線を向けると少しジャリジャリと擦れるような音がしたが静かに扉が開いた。


「えっとぉ……」


 ずさっとリュディガーが私の前に出ると開いた扉を警戒しつつ後ろ手に腕を掴み後退る。


「何の音だ!?」


 モッテン船長とカイが素早く駆け寄って来た。オジジとピッポとイーロは階段の確認をしていて遅れてやって来る。男爵とジーナは少し離れた場所でサイラといた。暴れ叫ぶ男爵の腰紐を二人がかりで持っていたのだ。


「私も、私も見たいぃ!」


 猛獣かよ。


 

 

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