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 小型船は左右に蛇行しながらキングクラーケンから繰り出される鋭い触手攻撃を躱していた。貨物船と違い幾らか速さはあるが油断すれば簡単に捕まってしまうだろう。それにしても本当にキングクラーケンって私の遺物を狙ってるんだねぇ〜。しつこいわ。

 

「流石にヤバくなりそうだな」

 

 操舵室の窓から顔を出し後方を見つつカイがそう言い、一旦顔を引っ込めると床に置いてあったカバンからライフル銃を取り出し今度は上半身を窓から乗り出すと直ぐに発砲を開始する。イーロも無言で反対側の窓から同じ様に発砲を始めた。銃撃の音が激しく響いているが、この前のキングクラーケンと同じなら魔物討伐船に設置されている魔導砲でもない限り完全に倒すことは出来ないだろう。

 

「オジジ!まだどこにも着かないの?そろそろヤバイよっ」

 

 私も窓から後方を見つつ魔物の様子を見ているが、あきらかに距離が詰められて来ている。リュディガーとピッポの活躍もあり数本の触手を千切る事に成功しているが十本もあるので大したダメージは受けてなさそうだ。時間を置けばまた生えてくるらしいし。それになんだか一気に攻撃して来ずに徐々に詰めて来る感じが「オレまだ本気出してないから」的な雰囲気を醸し出している。私達って遊ばれてるの?魔物のおふざけ怖すぎるんだけど。

 

「もうじき岩礁区域に入る!そこに避難できる場所があるから下で準備をしておけ!」

 

 やはり目的地があったようで、一瞬それなら貨物船ごと行けばいいのにと思ったけれど岩礁区域ならそれも危険か。船が座礁すれば元も子もない無いが小型船なら上手くすり抜けられるだろう。

 言われた通り階段を下りて男爵とジーナ、サイラが怯える階下へ向かう。

 

「もうすぐ下船する。もしかすると余裕がないかも知れないから最低限必要な物は身につけといて」

 

 私は勿論特級ケースを下げているが、それぞれ個人の貴重品の他に船に備えられていた非常持ち出しリュックを背負った。私は別に武器の入ったバッグを側に置き持ち出せるようにした。準備が整ったところで船外からピッポが飛び込んで来た。

 

「もうすぐ船を島につける。とりあえず安全な場所まで一気に走るからな!」

 

 先に予定を聞いていたらしいピッポが私達と同じ様にリュックを背負いもう一つ掴むとまた船外へ出て行った。きっとリュディガーの分だな。ピッポが話している間に窓には鋭く尖った岩礁がチラホラと見えていた。恐らく海中はもっと複雑な地形になりキングクラーケンと言えど簡単に私達を追ってくることが出来なくなっているのだろう。銃撃も心なしか先程より控えめに聞こえるのはそのせいかな。

 少しして、船のスピードが落ち何処かへ接岸する事がわかった。

 

「出るぞ!」

 

 さっきぶりにリュディガーが私の前に現れると不機嫌そうに睨んでくる。

 

「何よ?」

「いいから行け!」

 

 自分が絡んできたくせに素っ気ない。ウザ。

 ともかく、今はふざけている場合でもないのでサイラを連れ船外へ出ると揺れる甲板からデコボコとした岩場へ飛び移った。あぁ、サイラは危なっかしいな。

 女子三人とも船内で動きやすいようにスカートの下にスパッツを履いておいて正解だった。最低限の荷物を持ち、オジジの誘導に従い島の奥へと進んで行った。岩礁区域にある中でも一際大きいらしいこの岩、いや、小島かな。他と同じ様にゴツゴツとした岩ばかりで草木一本すら生えていない感じで勿論人影も無く延々と足場が悪い。

 

 心配していたキングクラーケンもどうやら追ってきている気配はなく今のところ安心して転ばないようにだけ気をつけて足を動かしていた。オジジが後ろからイーロに方向を示しイーロを先頭にオジジとモッテン船長、カイが行く。続いて男爵、ジーナ、その後に私とサイラ、最後はリュディガーとピッポだ。

 

「あと少し行けば洞窟がある。しばらくはそこで滞在して魔物の様子を窺うとしよう」

 

 オジジの言葉通り岩ばかりだと思っていたのにひょっこりと洞窟が現れた。影になってちょっとわかりずらい洞窟の入り口は二メートル四方程の大きさで恐らくキングクラーケンが前に遭遇した奴と同じ位の大きさだとすればもしかすると通れないかも知れない。でもあのグニャグニャの体なら時間をかければ通過するかな。

 一抹の不安は残るがとにかく洞窟の中へ入って行った。中も外と同じ様に足場が悪くヨタヨタしながら進んでいると、後方を守ってくれていたリュディガーがしれっと隣に並んだ。

 

「あぁ……大丈夫か?」

「うん」

 

 横目でチラッと見ながらわざと素っ気なく答えるとリュディガーがきゅっと眉間にしわを寄せた。この寄せ方はどうすればいいかわからず困ってる時のやつだな。でも今回は放置だ、放置!そのまま無言で足を進めていると後ろで「ぶほぉっ!」っとピッポが吹き出していた。

 

「この辺でいいじゃろ。ここで一旦落ち着こう」

 

 オジジの合図で皆が止まる。そこは洞窟の中でも少し足場の凹凸がましな広い空間だった。よく見るとへこんだ岩場を利用した竈の跡らしきものがある。なんだかここで以前誰かが過ごした痕跡のようだ。まさかと思うけど……

 

「ここは前にわしとモッテンが流れ着いた島でな」

 

 私がオジジの顔を見ると何も言わなくても話し始めた。

 

「あの時はクソだったな。よく助かったもんだ」

 

 モッテン船長もガハハと笑いながらまるで定位置だと言わんばかりにピッタリとその体が収まる場所へ腰掛けた。それは洞窟の側壁をくり抜き自分好みのイスに作り上げたのだと後で自慢された。そんなに長い間ここに居たってことなの?流れ着いたって遭難してたってこと?

 

「ここは古代遺跡を探っている時にたまたま耳に入った情報を頼りに行き着いた場所じゃったんじゃ」

 

 オジジは荷物を解き先ほどの竈に網をしいて火を熾し始めるとサイラが素早くポットを置いて湯を沸かし始めた。私も辺りを見回しながら座れそうな岩に腰を下ろす。洞窟内は灯りの魔道具でぼんやりとだが広い範囲が見渡せる状態で、後方をピッポ、前方をイーロが見張りに立ってくれている。

 海上でキングクラーケンから追われていたため満足に食事もとれていなかったのでサイラとジーナが湯を沸かし皆に温かいお茶が行き渡るとそのまま食事の準備を始めた。私も野菜の下ごしらえ等を手伝いながらオジジの話に耳を傾ける。

 

「若かりし頃、ワシは三大陸を渡り歩きながら遺跡を巡っていた。昔から遺物に興味があったワシに便乗する形でモッテンも無理矢理ついてきていたんじゃ」

「何言ってやがる。遺跡の調査に夢中になって野盗に襲われたのを助けてやったり資金を調達する為にそこらじゅうの貴族から金を引き出してやったのはオレ様だぞ」

「金に代わる遺物を発掘していたのはワシじゃ」

「当たり前だ!いくらオレでも何もないところから金が引き出せるか!」


 要するにオジジが発掘した遺物の中から重要で無いものを売り捌きながら旅をしていたということらしい。楽しそう……

 簡単なスープと硬いパンで食事を済ませると今後の事について話を始めた。


「恐らくキングクラーケンはそのうち諦めてこの海域を離れるじゃろうがそれまではここに留まるしかないわけじゃが、実はこの洞窟の奥にまだ発掘されていない遺跡がある」


 流石オジジ!

 

 

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