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 安定しない足元で何とか急ぐがなかなかオジジ達に追いつけない。くそぉ、私の方が若いのにぃ〜、年の功ってやつか。

 

「待ってよ、あわわ」

 

 私だって回収船育ちなんだから多少は慣れてるはずなんだけど、普段のメルチェーデ号は魔導具のおかげで殆ど揺れないからね。カイも不慣れなはずだけど踏ん張る力は乙女な私より上なせいか、ちょいマシくらいのヨロヨロ度だ。

 多分、いつの間にか離れて行ったサイラが食料を集めてくるだろうからとオジジとモッテン船長がすれ違う船員に武器のありかを聞き出していた。二人がそれを取りに行く間に私達は先に小型船へ向かった。

 船の後部にある格納庫につくとピッポが慣れた動きで準備を進めている。

 

「おぉ、カイ!手伝ってくれ」

 

 様々な確認を終えたであろうピッポが私達を見つけると何やら大きめの四角い箱に向かいながら叫んだ。それは布がかけられ壁際にひっそり置いてあるものだった。

 

「やべ、忘れそうだった」

「お前までエメラルドに付き合って部屋に籠もってるからだろ」

 

 二人掛けのソファ位の大きさのそれを載せた台車を二人が力を込めるように少し踏ん張りながら押して小型船へ搬入していく。

 

「そんな重そうなもの載せて大丈夫なの?」

 

 キングクラーケンから逃げ切るにはスピードが命だと思うんだけど。

 

「何言ってるんだ、これを置いてっちまったらオリエッタ商会にパクられるに決まってるだろ」

 

 そう言ってピッポが布をペラリと捲るとそこには遺物らしき質感の角張った箱が現れ表面には複雑な紋様が刻まれている。

 

「リュディガーの箱ね!初めて見たんだけど」

「それはお前が解読ばっかやってるからだろ。マルコ爺さんに運んでもらってたの忘れてたろ?」

「忘れてた」


 ヘヘッと笑い二人がリュディガーの箱を搬入するのを手伝う。小型船といえどオリエッタ商会のものだけあって結構豪華で大きなものだ。

 オジジ達とサイラも合流し次々と荷を運び込む。元々備えられている武器や非常食なんかもあるがこの先どれくらい海上をキングクラーケンから逃げて陸へたどり着くかわからない。だけどゆっくりと準備をしている時間もない。


「急げ、直に出発だ!」


 モッテン船長が叫び、私達は次々に小型船へ乗り込む。

 オジジ、私、カイ、ピッポ、サイラ、イーロ、男爵……っ?!


「男爵!なんでドサクサに紛れて乗ってるんですか?ジーナまで!」


 しっかりと荷物持参で準備万端だな、おい。


「それはそうでしょう。元々私はゼバルド殿の弟子であるわけだし」

「私は男爵の見張りをしないと」


 笑顔全開だけどちゃんとわかってる?小型船はほぼ囮なんだよ?

 と、呆れていたがそんな二人を気にもせずモッテン船長はエンジンを作動させ本船へ合図を送ると後部の扉が開く。ザザッと波の音が大きく聞こえそこへ向かってレールの上を小型船がゆっくりと下がって行く。


「ねぇピッポ。何か忘れてる気がしない?」

「確かにな、プフッ」


 もうすぐ海へ着水するという時にどこからともなく怒鳴り声が聞こえる。


「お前らー!!わざとらしいぞ!!!」


 全速力で走って来るリュディガーが勢いをそのままに大ジャンプで小型船に飛びついてきた。あわやという感じで後部の手摺に掴まりながら乗り込んでくる。おぉ、汗だくだね。


「や、マジで忘れてた。急いでたんだ、ぶははぁっ!」


 ピッポが抑えきれないという風に爆笑している。リュディガーは真剣な顔でピッポの胸ぐらを掴んでるが私はまぁまぁと彼の手を軽く叩く。


「ごめんリュディガー。だってあなたはベルナデッタ担当だったから」


 何かを含ませながら冷えた笑顔を向けるとリュディガーは頬をヒクッとさせる。


「いやオレは別にベルナデッタ担当とかじゃ……」

「ごちゃごちゃうるさいぞ!さっさと武器を構えろ!」


 小型船は海上へ出るとすぐに面舵を切り全速力で本船から離れていく。モッテン船長の叫びにハッとしてリュディガーとピッポがイーロから渡された銃を構えて波打つ海面へ目を向ける。


「エメラルドは船内へ行け!」


 小さくバウンドしながら猛スピードで進む船はキングクラーケンに捕らえられた大型貨物船から少しずつ遠ざかって行く。気持ち的には一緒に武器を持ち奴を迎え撃ちたいがサイラが物凄い力で私の腕を掴んで引っ張っているのでひと先ずは船内へ入ったほうがいいだろう。ドアを閉める瞬間に振り返ると貨物船のデッキからこちらに何か叫んでいるように見えるベルナデッタ。彼女にはあまり良い印象が無いとはいえこんな形でお別れさせたのは若干気の毒な気はする。本当に若干ね。

 だけどそんな事も一瞬で吹き飛ぶくらい貨物船に張り付いていたキングクラーケンの触手がゆらりと剥がれた事にゾッとする。


「来るぞ船長!飛ばせ!」

「うるせぇー!フラれ小僧は黙って応戦しやがれっ!」


 モッテン船長の返しにリュディガーが肩をビクッと震わせた事を確認しドアを閉じた。何をビビってるんだか。

 船内に入るとベンチシートが三列ずつ左右に分かれて並んでいて、その奥、船の前方から操縦席に上がる階段が見えた。階段の横に申し訳程度にキッチンがある。

 男爵とジーナは左右に別れてベンチシートに座り前の座席にあるバーを握りしめ窓から外を見張りながら顔を引きつらせている。初めての航海でこんな緊急事態に巻き込まれるなんて持ってる(・・・・)ね、二人とも。


「エメラルド様、危険です、お座り下さい」


 サイラは(あつ)強目に私を座らせるとすぐ横に張り付いた。ん~、これじゃオジジの側には行けないなぁ。上にある操縦席にはオジジとカイがいるだろうから私の場所はもう無いかもけど、気持ち的には船外に出てキングクラーケンの様子を確認したいしなんだったらリュディガーやピッポと一緒に戦いた……


「来るぞっ!!」


 誰かの叫ぶ声と同時に銃撃が始まり大きく船が揺れた。


「うわぁー!」

「ギャー!」

「エメラルド様ぁー!」

「おっと」


 それぞれが思い思いの声を上げた。そこからは右に左に船体は振られ窓に波しぶきが激しく当たるがまだキングクラーケンには捕まってない様子だ。奴の触手に絡め取られれば船体がひしゃげるからね。


「やっぱりちょっと様子を見てくる」


 我慢が出来なくて、怯えながらも私の腕を離さないサイラの手をバーに捕まらせると引き留められないうちに前方にある階段へ向かった。両側にある手摺にしっかり掴まりながら階段を上って行くと操舵室からモッテン船長の怒声がした。


「あんの野郎本気でエメラルドを取りに来てやがるのか?!」

「魔物の思考などわかるはずないじゃろ!いいから黙って舵を切れ!」


 オジジの叫びも加わりまた船がグイッと振れる。


「行く当てがあるの?」


 操舵室に入りオジジとモッテン船長の間から顔を出しこの船の周辺を映すモニターを覗き込む。さっきのオジジの言葉を聞いていると行く先が決まっているような気がしたからだ。


「エメラルド!下に行ってろ」


 モッテン船長が舌打ちして言う。心配して言ってくれてるのはわかっているけどせっかく来たんだからそう簡単に引き下がってやんない。

階下の客席に比べると半分位の広さの操舵室に席は四つしかない。その前方の二席をモッテン船長とオジジが座り後方の二つにカイとイーロがいた。






 

 

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