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 ベルナデッタは私の言葉に含まれる太い(ぶっとい)トゲにピクッと頬を引きつらせていたがぷいっと横を向くと手を伸ばしニッコリ微笑みリュディガーの肩に添えた。

 

「ねぇ、そろそろ向こうに行かない?もう少し飲みたいわ」

 

 そう言って彼女がふわりと立ち上がった瞬間。

 

 ブーッ!ブーッ!ブーッ!と聞き覚えのある音が船内に響き渡った。これってアレだよね、マジか?!

 

「緊急警報!!総員何かに掴まれー!!」

 

 船内放送で叫ぶような声がした後、ドォーンと衝撃が足元から響き船がゆっくりと傾いた。この部屋のテーブルは床に固定されていて、皆が一斉にテーブルの下に設置されているバーに掴まる。と同時に床に押し付けられるようにグンッと体が重くなる。この大型船が持ち上げられたのか?!

 すぐにふわっと圧が緩む。皆一瞬戸惑ったが流石に船でのこういう事態に慣れているモッテン船長とオジジは冷静に行動を開始する。


「ゼバルド、操舵室へ行くぞ!ベニート案内しろ」

「は、はい、こちらです」

「あぁ、リュディガー、ピッポ!エメラルド達を頼む」


 オジジは私に小さく頷いて部屋を出て行く。私はついて行きたくて立ち上がろうとするとガシッと腕を掴まれ立たされる。


「大丈夫か?とにかく救命具を……」


 カイが素早くそばに来てくれ支えてくれている。サイラにはピッポが付き添いリュディガーを見るとベルナデッタを支えながら私を見ていた。少し怯えた様子のベルナデッタだけど彼に支えられているのは自分だというアピールは忘れていない。


「リュディガー、私の傍にいてくださる?」


 私へチラッと視線を向けた後彼の腕に縋る。はいはい分かったって。


「カイ、操舵室へ行こうよ。何が起きてるのか確認しなきゃ」

「あぁ、だがあの警報は恐らく魔物だろう」


 再びグラリと揺れる床に足を踏ん張りながら部屋から出る。何やらリュディガー(だれか)が叫んでいるが聞き流しておこう。こっちは急いでるんだよ。サイラとピッポがついてきたのは想定内だけど男爵とジーナまでついてきていた。


「私は船のことはよくわかりませんからね。エメラルドと共に行動する方が良さそうです」

「そうそう」


 二人は初めての船旅だそうで、初・海の魔物との遭遇になりそうで顔色は悪い。リュディガーはベルナデッタに引き留められ部屋から出てこれないようだったけど、私達は船内図をチェックし上の階にある操舵室へ向った。


「おっと、気をつけろ」


 操舵室へ向かう間も船はギシギシ音を立て揺れはおさまらず、手摺に掴まりながら階段を上る。


「ここってどの辺りなの?魔物が出やすい海域はある程度把握されているはずよね?そもそ魔物よけの魔導具が使われているはずだし」


 カイは肩をすくめる。


「お前と一緒にいると魔導具の機能を疑いたくなる」


 確かにカイの言う通り私がカイといる時は魔物に会う確率が今のところかなり高めだ。メルチェーデ号は除くとして。


「お前魔物をおびき寄せる才能でもあるのか?」


 後ろにいたピッポに会話が聞こえてしまったのか、そう言われ「あっ」と思い出してしまう。


「チッ、それか!」


 カイも同時に思い出したようだ。前回遭遇した魔物、キングクラーケンが私の特級ケースにやたらと執着していた事。そして恐らくそれを開ける事が出来る私自身にも。


「それは報告案件だろ!」


 事情を話すとピッポがちょっと怒り気味でいう。


「ごめん、忘れてたの。オジジに会った時は陸の上だったしそもそもこれは国へ売るつもりだったからその後持ったまま海へ出る予定なんて無かったし」

「言い訳はいいんだよ」


 はい、御尤もです。これ以上何を言ったところで言い訳でしかないと悟った私とカイは口を噤む。そして一際強い衝撃を受けたところで操舵室の前にたどり着いていた。ここへ来る途中で救命胴衣を見つけ私達は既に着衣済みだ。


「魔物が絡みついて舵が効きません!!」

「報告!三名の落水を確認!救命具は投げましたが生死は不明!」

「救援要請を出しましたが現在応答はありません!」


 慌ただしく不穏な空気を漂わせる操舵室から聞こえる叫び声に男爵とジーナが更に顔色を悪くしている。私は開けっ放しになっているドアから中へ入るとオジジの側へ向かった。

 オジジはモッテン船長と一緒に操舵室にあるモニターを見て眉間にシワを寄せている。


「オジジ、話しがあるの」

「エメラルド、来たのか。今は手が離せん」


 チラッと私を一瞥しただけでまたモニターを見たりこの船の船長らしき人と話し合いをする。


「今じゃなきゃ駄目なの。この魔物に関すること」

「なんだと、お前はこれが何かわかってるのか?」


 オジジより先にモッテン船長が苛立ちに塗れた強面の顔を向けてくる。あぁあ、慣れてないジーナがビクついて男爵が飛び上がってるじゃない。


「わかってるわけじゃないけど、前回も同じ感じだったの。この船、何かに引っ張られてるよね?」


 ギシギシ鳴る船体。襲われている割に海中に引きずり込まれる訳でも船体が破壊されてるわけでもない。あのとき仕留めたはずだけど……


「もしかしてキングクラーケンなんじゃない?」

「何故わかった?」

「だとしたらそいつの目的はコレよ」


 サイラに持っていてもらった特級ケースを受け取り改めて自分に肩紐をかけるとコンコンとケースの表面を叩いた。

 驚くオジジ達に事情を説明する。


「じゃあこの襲撃がお前のせいってことか?」


 警報が鳴り響き船員達は慌ただしく対応し、その場にいたベニートとこの船の責任者である船長が絶句する。


「そういう事かもしれない」


 断定は出来ないが実際私が特級ケースごと連れて行かれそうになった事は事実としてある。


「だったらそれを捨てれば……」

「エメラルドも一緒にか?」


 この船の船長がボソリと言ったが即モッテン船長に突っ込まれ黙る。


「ですけど特級ケースだけでも試してみる価値はあるかもしてませんよ」


 この船のオーナー一族であり自分と大切な妹の身も守らなければならないであろうベニートが私をチラリと見ながら言う。


「それで駄目だったら今度はエメラルドを捨てる気か?」

「違いますよ、だけど何かしなければこのままじゃこの船は保ちません」


 ギシッとまた船体が鳴る。仕方ない、やるか。


「あのさ、」

「駄目じゃ」

「いやまだ言ってないから」


 おぉぅ、オジジがモッテン船長に負けず劣らずの怖い顔だ。だけどそれに怯むわけにいかない。この船には大勢の船員が乗ってるんだから。


「ベニート様、小型船をいただけますか?」


 こういう船には救命艇の他に小回りの利く小型船が備えられているはずだ。


「それは、かまいませんが」

「ありがとうございます。じゃあオジジ、私行くね」

「行かすわけないじゃろ!」


 がっと腕を掴まれたが笑顔を見せながらその手をポンポンと叩く。


「心配しないで。別に死に行くわけじゃないんだから。前も助かったんだから今回も上手くいくよ、きっと」


 ま、前回は魔物討伐用の船で大型の大砲があったから死なずに済んだ訳だけど、実際は死にかけてた。しかも今回はその船じゃない。


「いくわけなかろう!」

「どこかここから近い島とかない?一旦そこを目指すから」


 あの時のキングクラーケンと同じ種類なら陸にいても襲ってくるけどね。


「急ぐぞ」


 当たり前かのようにカイが私の手を取りオジジを振り切ろうとする。


「ちょちょ、ちょっと、なんでカイまで」

「お前が船を操縦出来るとは思えん」

「あ、そうだけど」

「小型船って後部にある格納庫の中のやつだな、先に向かって準備してるぞ。食料と武器を頼む」

「えぇっ、ピッポ?!」


 走り出すピッポとサイラ。ナニナニどうなってるの?


「仕方ない、わしらも急ぐぞモッテン!」

「いつまでの手のかかる娘っ子だな」


 呆れつつ私を追い抜き操舵室を出る老人二人。いやアンタ達は当然残るべきでしょう!






 

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