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なかなか更新出来ずにすみません。

 船は順調にノエル国を目指していた。途中、フィランダー国で荷物の移動があったり、エルドレッド国からの引き止めの要請が届いたりしていたようだが私が何かしなければいけないことはなく、いよいよ明日の夕刻にはノエル国へ到着予定だ。

 

「いやぁ~思ったより早かったよね」

 

 サイラに急かされて夕食前にシャワーを浴びて出てきた私がそう言うとテーブルに突っ伏してぐったりしていたピッポが顔も上げずに足をバタつかせて抗議の声をあげる。

 

「何が早いだ。こっちはもうクタクタなんだよ!誰だよ暇なエメラルドと暇なオジジをかけ合わせたのはっ!しかも嬉々として後押しするカイと男爵を部屋に入れるなよ!アイツら今度からエメラルドの部屋は立ち入り禁止だ!」

 

 ハハッ、えぇまぁそうなの。航海中、他所の船でやることなんて無い私とオジジは思う存分に『ヴィーラント法』とカイの極秘資料の研究に明け暮れていたのよ。本当に楽しかったー。

 

 男爵とカイもそこに加わって四人であーだこーだしている時の楽しさったら本当にもう……あ、サイラが睨んでるからとりあえず顔を引き締めよう。

 サイラを筆頭にピッポと男爵の子守り担当のジーナがとにかく妨害……いやいや、私達の健康を第一に考えてくれて徹夜は残念ながら出来なかったけど朝から寝る寸前まで私の部屋に集まってそりゃもう色々とやっていた。流石に明日上陸ということで早々に(強制的に)お開きにしシャワーしてこの船で最後の夕食会があるらしい。


「そういやベルナデッタとベニートの姿は殆ど見かけなかったなぁ」 

「いやいたから。お前の目に映ってなかったみたいだけど」

「映ってたわよ、多分」

 

 チラッと部屋を覗いていたような。思いおこしてもちょっとピントが合わないボヤけた感じだな。

 

「記憶に残らなかったのかよ、ひでぇな。まさかリュディガーの事も認知してなかった……わけないか、はいはい」


 ピッポの口からリュディガーの名を聞きなんだか落ち着かなくなる。そういえばリュディガーの姿もあんまり見なかった気がするけど、声とか触れられた感触とか……アレ?彼ってずっと傍にいたような。


「相変わらずの過保護っぷりだったよ。給餌しながらのベッドへの誘導、お手の物だった」


 給餌って、まぁ確かに自分で食事した記憶ないけど。またやっちゃったか、ふふっ。



 今夜はいつもと違い広い部屋に移動しての晩餐らしく、皆でぞろぞろと歩いて行く。


「あぁ、エメラルドさん。こちらにお出ででしたか、迎えにあがろうと思っていましたのに」


 何故かベニートが満面の笑みで近付いて来た。その姿はちょっとキラキラしく金持ちの男だなぁという感じだ。この人やたらと絡んでくるなぁ。


「ベニート様、こんばんは。お招き頂きましてありがとうございます」


 一応ね、カイが手配してくれたとはいえ彼のとこの船だし愛想は必要でしょう。きっと凄いご馳走が出るだろうしね。


「いえいえ、やっとエメラルドさんが正気にかえって……あぁいや、ゆっくりお話が出来そうで良かったです」


 私の隣にはオジジがいて、ニッコリ微笑むベニートに軽く挨拶はしているもののなんだか気に入らないモノを見ているような顔だ。ベニートが嫌いだったっけ?てかなんでベニートは私に丁寧な接し方なの?オジジがいるから?一応大事な取り引き相手だしね。


「邪魔だ、退け。オレは腹が減ってんだ、早く食わせろ」


 後ろからモッテン船長が声を張り上げる。そっか、船長もいるからかな。しかし無駄にデカい声が煩い。

 ベニートはため息をつきたそうな気持ちを微笑んでごまかし何故か私にまるでエスコートするかのように手を差し出してきたけど、オジジが見えてない風にそれを遮り私を連れて進んで行った。やっぱり嫌いなんだな。


 私達に割り当てられた部屋の区画と違う一つ上の階にある晩餐の場所はそれなりに凄かった。貨物優先の船だと思っていたがやっぱり金持ちはこういう処にお金かけるんだなという感じだ。煌めくシャンデリアに私の部屋とはまるで違う壁の装飾や高価そうな家具。長いテーブルに並べられたカトラリーも銀製で間違いないだろう。何で食べたって味は変わらないと思うんだけどね。


「さぁこちらがエメラルドさんの席ですよ」


 促されるままに座らされ何故か隣に座ろうとするベニート。


「そこはオレが座る」


 グイッとモッテン船長がベニートを退けるとドカッと腰を下ろす。ベニートは頬をヒクつかせながら私の反対側の席を見たが既にオジジが座っていて向かいにピッポが座っている。うん、良い仕事だぞピッポ。

 やれやれという感じでピッポの横、オジジの前にベニートが座る。私達に続いて男爵とカイも入って来ると席に着く。最後にドアが開きリュディガーにエスコートされてベルナデッタが入って来た。


「あら、ごめんなさい。遅れたかしら?」


 全く謝罪の気持ちがこもっていないベルナデッタと、うんざり顔が隠せていないリュディガーを見て同じよう顔になりそうになる。まだ取り引き相手を気遣ってハッキリした態度を取れずにいるんだろうか?どうみてもリュディガーがベルナデッタを好意的な目で見ていないと誰が見てもわかるのに彼女が怯まない理由ってなんなのだろう?




 この船で最後であろう晩餐が静かに始まり、控えめな会話を……


「おい、ワインをボトルで持ってこい!」

「モッテン、ここは船だぞ」

「わかってる!こんな軽い酒で俺が酔うわけないだろうが」

「あぁ、すまないがこちらにもワインを、白で」

「男爵様駄目ですよ。弱いんですから」


 あぁ、男爵とジーナまで入り乱れて騒がしいなぁ。ジーナは男爵の側仕えという感じで後ろに控えている。勿論私の後ろにはサイラがいる。


「嫌ですわ、これなら二人でゆっくり過ごしたかったわ。ねぇ、リュディガー?」

「はぁ……」


 斜め前の席でイチャコラとか勘弁して欲しい。死んだ魚のような目をしているリュディガーには悪いけどチラチラと私の方へ視線を向けてくるベルナデッタがウザい。いっそベルナデッタの言う通り別室へ行ってくれれば……それも嫌だな。


「はぁ~」


 デザートを目の前につい大きくため息をついてしまう。


「エメラルドさん、お口に合いませんでしたか?」


 斜め前からベニートが微笑みながら話しかけてきた。食事中も何かと声をかけられていたが適当な返事を返していたのに懲りないようだ。まぁ半分くらいはモッテン船長が遮ってくれて助かってたんだけど。少しくらいまともに返してやるか。


「いえ、とても美味しかったです」

「それは良かった。よければこの後……」


 笑顔を貼り付けて返すとベニートが嬉しそうな顔をしその後話を続けようとした時、反対側からあからさまに同情を含んだような声がした。


「回収船じゃ食べられないような物ばかりでしょう?食べにくかったんじゃないかしら?行き届かなくてごめんなさいね」


 はい、カッチーン。


 イラッとしてベニートに向けていた笑顔をゆっくりとベルナデッタに向ける。ニヤリ、と言って差し支えないベルナデッタの微笑む美しい顔の横でリュディガーが苦虫を噛み潰したような顔をしている。これくらいでは咎めるほどでもない絶妙な嫌味だがムカつくことは間違いない。


「ベルナデッタ様、お気遣いありがとうございます。流石にお嬢様位のレベルの方ですと行き届いておられて感激いたします。大変勉強になりました」


 実際少し食べにくい物も出ていてピッポなんかは戸惑っていたけど、モッテン船長とかはマナーなんて気にせず適当にバクバク食べていた。ベルナデッタはそれを見て眉をひそめていたけれど船長にそんな事を求める方が間違っている。



 

 

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