112 メルチェーデ号へ
ストック切れです。すみません。
読むのと同じペースで書けるスキルが欲しいです。
もう一日だけこの地に滞在し港街へ引き返すことにした。子爵は私達の説得に失敗したという報告という名の始末書を届け出なければならないようでこのまま王都へ向かうという。これは私達の為の時間稼ぎでもあるらしい。
「これも古代文明の為、引いては我々人類の為とは言え……今回ばかりは羨まし過ぎるぞミルコ。しかもジーナまで」
子爵は私達と別行動になる事をかーなーり悔しがってた。しかもしれっと男爵とジーナは私達と同行する。別に許可とか取られて無いけどさも当たり前のように荷造りして馬車を手配している。ここにある遺跡は一時閉鎖して『古代遺跡保存の会』の会員がちゃんと管理するらしい。
「私はゼバルド師匠の弟子なのだから当然ついていく」
「私も男爵様が行くなら放っておけません。周りの人達の為に仕方無くついて行くんですよ」
ジーナの言葉に子爵も一理あると思っているのか「ふぐぅ」と唸るのみに抑えている。男爵の野放しは回避しなければいけない案件らしく、ジーナがいなければ散財はおろか何処からともなく借金を重ね、その返済目的で遺物を売れと言われて一度は金貸しに拉致監禁されたこともあるという。それでも遺物は売らなかったらしいが、その騒ぎのお陰か子爵達の目に止まり仲間に引き入れてもらい借金も返してやり爵位も取らせてやったらしい。いや男爵はもっと子爵に感謝して良いと思う。
ウキウキの男爵と反対に悔しげな子爵が王都へ向かう馬車が出発しようとしている。
「私もお役目が済みしだいノエル国へ向かう。その間、男爵の子守りを頼むぞジーナ」
「お任せください」
「私にも別れの言葉はないのか、ボナ」
「私の名を勝手に略すなと言っておろうミルコ。ジーナの言う事をよく聞き身形に気をつけるのだぞ。他人もいる船へ乗船するのだから風呂にも毎日入れよ。迷惑をかけるでないぞ」
「まるで子供にする注意ではないか。うるさいぞボナ」
「お前は子供より覚えが悪いから言っているのだ」
「あぁもう出発していいぞ、御者!」
追い払うように子爵が出発し男爵が清々したという顔をした。
「じゃ、私達も行きましょうか」
子爵とは反対方向へ向かう馬車に乗り込み港街へ向けて出発した。
そもそも王都へは先に私が遺物を売る事をやめるという知らせが向かっている。それは途中にある街で魔導具によって素早く王都へ知らせだけが伝言されるわけだが、お役所仕事は時間を要するため未だに返事は届いてなかった。その時間差を利用し港街へ引き返してしまったという体にするのだが、それに追い打ちをかけて国が私を引き留めにかかる可能性があるらしい。
港街へ向かう馬車の中。ここには私とサイラ、リュディガーとオジジだけが乗っている。
「メルチェーデ号に置いてあるリュディガーの箱を本当にカイに見せてもいいの?」
幼い私が入っていた遺物とはいえ発掘した人に所有権がある箱なので決めるのはリュディガーだ。
「ここまでくれば仕方ないだろう。な、オジジ」
「あぁ、じゃが見せるだけで済まないじゃろうな」
箱について私は何も知らされていないので、どういう物かもよく分かっていない。本から得た知識として大体の形などは想像がつくが実物を見たことはない。見るだけで済まないというのはカイがノエル国を豊かにする為のヒントか何かを探るってことかな。
「それだと港街で足止めされるな。王都からエメラルドを説得するためにノエル国行きを妨害されるんじゃないか?」
リュディガーが難しい顔をして考え込む。基本的に遺物は発掘した者が売り先を自由に決められるがかなり引き止められることはよくあることらしい。まして今回は第一区分の遺物だ。いくら子爵が時間稼ぎをしてくれても魔導具で伝令が飛べば港街に先回りされることがあるだろう。
「うむ。次の街でモッテンと何か手を打つから心配するな」
オジジが難しい顔をしたまま馬車は進み、途中で休憩を挟みつつ夕方には今夜滞在する街に到着したらしく馬車が止まった。
促されるままに馬車から下りるとそこは予想外に小さな村だった。港街から来る時にこんな村は通らなかったはず。
「来る時に泊まった所はなるべく避けたい。追手が来るからな」
リュディガーが不思議そうな顔をしているであろう私を見ていった。
「追手って。まるで犯罪者みたい」
「国からすれば大切な遺物を奪っていく犯罪者みたいに思ってるだろ」
遺物に関する大体の報告は既に王都に届いているであろうから、もしかしたら私の遺物がどんな物かの見当がついているのかも知れない。
オジジはアレを特別な魔晶石と思っているようで、カイが同じ物がノエル国にもあると言っていたのだからきっとそれも使用目的は同じなのだろう。
村に一つしか無い宿屋で部屋を借りひと息ついた。宿の部屋数が足りないせいで、護衛達は宿の裏にテントを張っての宿泊だ。因みにマグダは宿の物置きに場所を作ってもらっていた。外よりマシだろうし、ついでに私の護衛もしてくれる。
少し遅くなったが夕食の為にみんなが食堂に集まった。私達だけで貸し切り状態なので人目は気にならない。テーブルには素朴ながらも温かい食事が並べられ、先ずは食べる事に集中した。
ほぼ食べ終わった頃、カイと船長が部屋の隅でボソボソ話しているのが見えた。それを気にしつつ隣に話しかける。
「オジジ、何か手はうったの?」
さっきリュディガーと話した感じからも国の関係者から逃れるように移動している。でも結局は港街へ行くなら遅かれ早かれ見つかるだろう。どうにか身を隠しつつ到着してもメルチェーデ号で待ち伏せされれば避ける事は出来ない。
「あぁ、さっきカイとモッテンとも話をつけたが港街へは向かわん」
「え!?それじゃどうやってメルチェーデ号に乗り込むの?」
驚いていると船長とカイが近寄って話に加わった。
「メルチェーデ号はドック行きにしてある」
船長がワシワシと頭を掻きながら言う。船を修繕したり改修したりする為に専用の場所があり、それは通常時に船を停泊させる場所とは違う。つまり私達がオリエッタ商会の船から降りた場所から少し離れた所にメルチェーデ号があるということだ。
「メルチェーデ号壊れちゃったの?」
「いや、特に問題無いが陸に上がるついでにゆっくり点検する事にしただけじゃ」
「まぁ、ドックと言ってもさほど港街から離れちゃいねぇからな。そこへ向かっても何も変わらんが、マルコとジャックに例の箱を密かに持ち出せと指示を出した」
どうやらここから近い街には通信の魔導具がありそこから知らせを出したようだ。
「マルコもジャックもいい歳なのに大丈夫なの?」
「そんなことも出来ねぇくらいヨボつんてんなら船から放り出してやる」
船長が悪態をつきながら席につきジョッキになみなみと注がれたエールをグビグビ飲んでいる。船に乗っているときは滅多にアルコールを口にしない意外と真面目な一面を持つ船長の、陸に上がった時の唯一の楽しみだ。
「ノエル国へ向かう船はこっちで手配してある」
カイが険しい顔で立っている。ノエル国行きを私達に提案してからずっと気を緩めることなく何処かへ知らせを送ったり船長やオジジと話し合ったりしている。これまでの彼から感じられなかった切迫した雰囲気が感じられ、一緒に高速艇に乗ったときとは少し別人のようだ。
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