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回収船のエメラルド  作者: 蜜柑缶


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111 私の記憶

 パパとママと過ごした夢はどうやら本当に起きた事で私の古い記憶らしい。薄々はそうじゃないかと思っていた。周りの風景はとんでもないものばかりだったけれど、パパとママの優しい瞳や手の温かさは体に馴染んだものだったから。サイラと触れ合いだしてそれを実感していた。

 

 振り返ると直ぐ近くにサイラが居て、ニッコリとした表情を浮かべているのを見てホッとする。

 

「でででででは、エメラルドが過ごした場所がこの遺跡だというのか?!」

 

 焦って口からツバを飛ばしながら男爵が叫ぶ。

 

「ウッサイって言ってんだろ!」

 

 あぁ、またグーで殴られている。平民が貴族をグーで殴れるんだ。

 

「イッタイ!ジーナ加減しておくれよ」

「加減しろじゃなくてぶっ飛ばされないように気をつければ良いのよ」

 

 真っ当なジーナの言葉に男爵がやっとシュンとなって落ち着いた。男爵が黙ったせいか部屋は本当に静かになり、私が話し出すのをみんなが見ている。

 

「お茶を、ご用意致しますね」

 

 余りにも注目を向けられ気後れしてしまった私を気遣うようにサイラが空気を和ませてくれる。

 

「うんっ、ゴホッ。オ、オレ、喉カラッカラだ。助かった」

 

 まるで張り付いた喉を剥がすようにピッポが咳払いをする。それを聞いたみんながハハッと笑い緊張感を緩ませる。

 

「オレは酒がいい。ここは船じゃねぇからな」

 

 船長も軽口をたたき前のめりだった体を背もたれに預けた。勿論酒は出ない。

 サイラがお茶を淹れるために私から離れると入れ替わるようにリュディガーが近づいて来るとそっと抱きしめられた。

 

「悪かったな。話していなくて」

「い、いいよ……仕方ない」

 

 彼の匂いに包まれ胸一杯に吸い込んでやる。


 ちょっと汗臭いぞ。さっきまでのやり取りで相当焦ったみたいだな。


 最後に一際きゅっと力を込められると解放され、そのままオジジのもとへ行く。


「エメラルド……」


 さっき拒否したみたいになっちゃって遠慮がちなオジジに私から抱きついた。


「ごめんオジジ」

「ワシこそすまない。どこまで信憑性がある事かわからん内は言うべきでないと思ってな」

「うん」


 改めてオジジの隣に座りゆっくりと夢だと思っていた記憶を話し始めた。





「にわかには信じられ……」

「いや大発見でしょう!!本当に古代人の生き残りが居て、その時代の記憶もあり、恐らく人類が襲われたであろう未曾有の危機の正体が掴めるかも知れない!!」


 子爵の言葉を遮り男爵が雄叫びを上げ、ジーナにぶっ飛ばされるまでがセットのようだ。この空間は爵位とか関係ないらしい。いい加減話しが進まなそうなので男爵の口をジーナが嫌そうに手で塞いだ。


「では。エメラルドは幼い頃の記憶があり、そこが古代文明時代ということで間違いないであろう」


 子爵が落ち着き払ったように話しているが、その手は小刻みに震えている。


「メルチェーデ号にはエメラルドが入っていた()がある」


 オジジが私の手を握り何かを決意したように言う。


「箱型の遺物ということですか?」


 ジーナに口を押さえられモゴモゴしている男爵ではなく、子爵が確認してくる。


「そうじゃ。一見これまで幾度か目にした事がある形であったがよく調べるとより頑丈で内蔵された技術は高度なものだったであろうことがう伺えた。なにしろエメラルドの記憶通りなら大事な我が子をそこへ入れたのだからな」


 オジジは私の目を見てコックリと頷いた。私が大切にされていたんだと分かってくれているようだ。


 リュディガーとオジジで発掘したらしい箱型遺物は最初に魔力を込めたリュディガーにしか操作できない状態になったらしく、当時まだ幼かった彼の魔力は大人のそれより少なく扱いも不慣れだったため研究にはかなり時間を要したらしい。


「これまでで分かったことは、あの箱は生命維持装置でありその為あらゆる想定に備えられた仕掛けがしてあったということじゃ」


 オジジの話を噛み締めるように子爵が小さく何度も頷く。

 ふと見るとカイは部屋の壁にもたれて顔をふせ黙っている。自分の故国の重要な情報をさらしてまでオジジとの関係を築きたがった割には大人しくないか?

 流石にやっと落ち着きを取り戻したのか男爵がジーナに目で合図して口を塞いでいた手を離してもらって言った。


「師匠はそれを脱出装置であったとお考えですか?」

「脱出装置であり未来へ希望を託す装置ということじゃろ。古代文明について書かれた書物から読み取れる通りなら、何か逃れようの無い危機が迫り僅かな望みにかけて脱出装置を作った。エメラルドの記憶によればこの娘の両親は何某かの研究員だったのじゃろう」


 みんなが信じられない話を聞き黙りこくっていた所へサクサクサクサクと間の抜けた音が聞こえている。


「チッ、ピッポ食べ過ぎ」

「あぁ~すまん。だけど俺には難し過ぎる。今後の事が決定したら言ってくれ」


 オジジ達用に持って来ていたオヤツが次々と消えて行く。お前だけ食べるんじゃないよ。だけど確かに王都へは行かないと決めたはいいが、今後どうするかは決まっていない。当分はこの遺跡を見せてもらうことになるだろうが。


「ゼバルドさん、ノエル国へ来てくれないか?」


 ずっと黙りこくっていたカイが口を開く。オジジはそう言い出されることを分かっていたようで驚くでもなく視線を向けた。


「ここと似た遺跡があるのだな?」

「はい、エメラルドが発掘したのと似た魔晶石もあります」

「ワシにそれを調べろと?」

「はい。そして出来ればエメラルドが入っていたという遺物も見たいです」


 カイの発言にリュディガーがムッとする。


「ちょっと厚かましくないか?」

「こっちだって手の内を晒したんだ。何か新たな発見が無いければノエル国はいずれ終わる」


 ノエル国の厳しい状況が伺える言葉にリュディガーが口を閉ざす。オジジも何か考え込み船長と目配せをする。


「そう簡単にはいかない。見せろといった後は調べさせろ、持ち出させろと続くんじゃろ?」

「否定はしません。それほどの価値があると分かっておられての言葉なのでしょう?」


 オジジをノエル国へ連れて行こうとしているカイの気持ちがかなり熱重(あつおも)い感じで誰も口を挟めない状況になっている。

 リュディガーは否定的だけど私は少し興味がある。だってそこはパパとママと過ごした場所かもしれないのだ。いくっしょ。


「オジジ、行こうよ。私は行きたい」


 カイは「良しっ」て感じで私を見た。きっと私が行きたがると睨んでの提案だったのだろう。


「やはりこうなったか」


 船長も想定内という態度だ。オジジはため息をつくとカイを見た。


「とにかく、一度港へ戻らねばならんじゃろ。エメラルドは王都へ行かんのならここに長く留まっているわけにもいかん。カイの遺物はどうするんじゃ?」

「勿論持って帰る。これはノエル国で発掘した物だからな」


 しれっととんでもない事を言ってんじゃねーよ。コイツ最初から遺物を仕込んで近づいて来ていたのか!やっぱり怪しいと思ったよ!



 

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