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「「「えぇ!?」」」

 

 部屋の中の何人かは驚きの声を上げた。でも船長、リュディガーは動じず。カイ、子爵はやっぱりという顔をしている。

 

「では師匠はエメラルドが古代人の生き残りだと言われるのか?」

「えぇっ、あれって眉唾物じゃないんですか?!」


 男爵とジーナの言葉に私とピッポが首を傾げる。


「「古代人の生き残り??」」


 古代人とは私たちの祖先にあたる。その生き残りって、いわば今生きている全員が子孫なんだから生き残りって感じなんじゃないの?

 私とピッポの心の疑問を察したのか子爵が僭越ながらと説明してくれた。いや貴方がこの場では一番位が上ですよね?オジジが古代文明研究者として有名だからのお言葉でしょうけど。


「確かに、我々はかつて人類が遭遇したであろう未曾有の危機から生き残った人々の末裔であるが、それとは別に古代人が何らかの方法でその後の時代まで生き延びていたのではないかと言われている。生き残った人は数十年、数百年毎に世に現れ現代に少しづつ魔導具の進化を手助けしてくれているのではないかという説が時代時代に時折浮かんでは消える噂なのだ」


 私はメルチェーデ号でしか生活したことがなかったせいで少し一般の常識とは外れる事があるが、これも遺跡に関わる人達の間では多少知られていることらしい。


「でもだからといって私をその古代人と結びつけるのはちょっと強引な気がするんだけど……」


 そんな物語や伝説的なボンヤリした事に自分が絡んでるなんて普通は考えられない。

 そう思い半笑いでオジジの顔を見たが真剣な眼差しで見返された。


「本当に……そう、なの……」


 疑問というより確認という感じで確かめると小さく頷かれた。


「え、いつから?いつからそう思ってたの?っていうか船長も、それにその様子じゃリュディガーも知ってたの?」

「俺は知らねぇぞ」

「わかってるからピッポは黙ってて」


 コイツが話すと気が抜ける。今はそんな場合じゃない。


「まぁ待ちなさい」


 私がオジジに突き詰めようとすると子爵が割って入った。


「このような話しは先ず家族だけで話す方が良かろう」


 そう言って立ち上がり「そこを何とか!」と叫ぶ男爵をジーナが引きずり子爵とカイも部屋から出て行った。私とリュディガー、オジジ、船長、ピッポの5人だけが残……り?


「サイラ……」

「お願いでございます!これから話される内容は決して口にしないと誓います。命をかけて誓いますからエメラルド様から引き離さないで下さい!」


 ヒッソリ気配を消して部屋の隅にいたことに驚いたが、口を挟む隙すら無いほど早口で捲し立てられ呆気にとられてしまう。切なそうな必死なサイラの顔と見つめ合ってしまい思わずプッと吹き出した。


「そんなに焦らなくてもいいのに。サイラは私から目を離したくないって言ってたもんね。わかってるって」


 この旅が始まって以来体調を崩す度に心配して看病してくれた彼女は既に家族同然だ。サイラは仕事としてだけじゃなく本当に私に親身になってくれている。そんなのわかりきってる。


「オジジ、サイラは大丈夫だよ」


 私の言葉にオジジは頷き、サイラは嬉しそうに薄っすら涙を浮かべていた。

 なんか感動的な感じになってるけれど、私はちょっと怒っている。


「それで、どういうことなの?私が古代人とかなんとかって」


 私の言葉にオジジとリュディガーが顔を見合わせて頷きあっている。船長も何も言わないところをみるとやっぱり私だけに隠していることがあるんだ。拾われっ子の時もそうだった。もうっ!

 そうしてリュディガーが私を拾った時の経緯を話し始めた。


 発掘している時に箱に入れられた状態で見つけた事、オジジが育ててくれることになった事。そこまでが私も既に知っていたことだけど、それ以外の事が重要だ。


「お前が入れられていた箱っていうのは特級遺物、ほぼ無傷状態で第一区分と言われる箱型だったんだ」

「特級遺物の箱に私が……でもそれだけで、古代人とか、無いよね?」


 自分でもあり得ないとは思っているけど、もしかしたらたまたま偶然私を産んだ誰かがそこへ……パパとママがそんな所へ私を入れたってこと?そんな誰にも発見されなかったら死んでしまうかもしれないような所へ?!


「あり得ないよ!パパとママはそんな人じゃない!私の事を本当に可愛がってくれていたもん!」


 叫んでしまった後でみんなの驚く顔が見えた。

 部屋の中は静まり返り何故か頬に止めどなく雫がつたう。


「エメラルド、覚えているのか?」


 オジジが驚きつつ手を伸ばしてくる。一瞬、身を引いてしまうとそれを見たオジジが少し悲しい目をした。


 違う、オジジにそんな思いをさせようとしたわけじゃない。ただ、ちょっと、どうすればいいのかわからなくて……


「少しだけ、お時間を頂戴できませんでしょうか?」


 誰も何も言えない雰囲気の中サイラが後ろから私の肩にふわりと触れた。思わずその優しい手に縋るように立ち上がるとぎゅっと抱きしめられた。驚きと戸惑いで体は強張っていたがポンポンと背中を叩かれだんだん緩んでいく。


「少しこちらへ行きましょうね」


 みんなが座っているテーブルから離れ部屋の隅へ行くと私の視界からサイラ以外が見えないようにされた。ゆっくり呼吸するように言われ何度か深呼吸する。


「驚きましたね」

「……うん」

「私もびっくりしました」


 優しく微笑むサイラがそっと頬に触れ涙を拭ってくれる。その手が温かくてまた涙が零れてしまう。


「グスッ」

「いいのですよ。泣きたい時は泣いちゃえば」

「なんか、自分でもどうして泣いているのかよくわからなくて……」

「えぇえぇ、そういう時もありますよ」

「パパとママが悪く言われた気がして」

「それは嫌ですよね。お優しいご両親だったのですね」

「うん。でも、夢の中の話なんだけど」

「夢、ですか?」

「うん、夢」


 サイラは私の生い立ちの詳しい事情は知らないのでキョトンとした顔をした。


「エ、エメラルド。お前どんな夢を見たんだ?」


 私達の話を静かに聞いていたリュディガーがおずおずと尋ねてきた。私ももう落ち着きを取り戻し彼らの方へ向き直る。


「私がパパとママと過ごしていた夢」


 サイラが手をしっかりと握ってくれ勇気を振り絞る。


「見たことがない建物や乗り物?みたいなのがあって、そこでこの遺跡みたいな部屋があった」


 皆が一斉に息を飲むのがわかった。


「ではやはり、エメラルドは……」


 突然ドアが開き男爵が飛び込んでくると頭を掻きむしり叫びをあげた。


「本当に古代人の生き残りがいたーー!!」

「五月蝿いよっ!」


 ゴッ!と強目にジーナが男爵の頭を殴った。グーで。


「すいません、興奮するとちょっとウザくって」


 ハハハッと愛想笑いのジーナを見てちょっと冷静になったよ。っていうか、盗み聞くだけならまだしも潜む気もないのかよ。

 子爵様の気遣いが無に帰し、結局全員が部屋へ戻って来た。







 

 

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