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 そびえ立つ塔の絵のページを捲るとそこからはこの遺跡の発見の経緯と発掘の詳細が書かれていた。

 

「これは発掘の進捗状況の記録なんだ。発見はかなり前だったらしいが当初は利用価値が無いと思われてずっと放置されていたのを三十年ほど前に見直されてそこからやっと本格的にとりかかったらしい。当時の責任者が俺の祖父だったんだ」

 

 カイはノートを読み進める合間にそんな話を聞かせてくれた。

 

「これをオジジに見せる為にメルチェーデ号に乗ったの?ちょっとまどろっこしくない?」


 信用を得るためとはいえ私の付き添いとか、結構リスク高かったんじゃない?


「ま、仕方ないさ。その道の権威とはいえ最初から信用していいかわからないからな。先ずは人となりを見たかったし無闇に遺跡の事を知られて荒らされちゃたまらないからな」


 なるほど。信頼できるかコチラだって見られていたわけだ。エルドレッド国と言えば遺跡破壊が進んでいる国だ。そこに所属する回収船に乗っているとなれば多少用心するか。実際オジジも若かりし頃は荒れていたみたいだしね。


「だけど船での暮らしぶりや乗員達の話を聞いて大丈夫じゃないかなって思った。でも船から降りてくれるかが問題だったな」

「オジジを船から降ろすつもりだったの?」

「そりゃノエル国へ来てもらうには降りてくれなきゃ無理だからな」


 ノートを読み進めていたオジジがカイの話に視線を向ける。それを受けたカイは頬をピクつかせた。


「勿論無理にとは言いませんし、ノートを見たことを盾に取ったりしません。さっきも言った通りそれを見せたのは内容の考察を聞きたいからです。それくらいはいいでしょう?」


 オジジは何も言わずにノートへ視線を戻した。まだ考え中かな?


 ノートは発掘を指揮した責任者の一人であるカイの祖父の手記だった。そこには厳しい気候の中十分とは言えない人数と設備と装備で発掘を進めていく苦悩が処々に記されていたが、進むにつれこれまでどの文献にも描かれていなかった遺跡の姿が明かされていく驚きに変わっていった。


『使用目的すら見当がつかない設備や解読できない資料は一体どうすればいいのかわからない。自国内では恐らくこの先この遺跡を有効活用し、尚且つ出来る限りの保存をする事は困難だろう。他国へ協力を仰ぐか?いやエルドレッド国の遺跡のように一時の利益の為に破壊されるのは避けなければいけない。フィランダー国では技術面で不安が残るだろう。となれば、この先優秀なノエル国の研究者が現れる事を信じて保存に力を注ぐ事が我々に出来る唯一の手段か?』


 ノートには遺跡内が図で描かれ細かく注釈が付け加えられている。その遺跡の図はここの地下都市と呼ばれている遺跡と似通っている部屋があった。あの用途不明の装置があったところだ。

 壁に様々な装置の痕跡がありモニターがあるところまで似ている。恐らく同じ目的で使用されていたのだろう。


「あの部屋とこの手記の中の部屋がそっくりだったから混乱もしたし決心もつきました。エメラルドの第一区分の遺物、二十面体はノエル国の遺跡でも発掘されているんです」


 カイの話に合わせたように捲られた次のページには私の物とここの遺跡で発掘された物とそっくりな二十面体の遺物が描かれていた。一瞬私の遺物を見た後に書き加えられたのかも、という疑いが浮かんだが年代を感じられる手記の状態やこの遺跡でも発掘されているという事実が直にそれを打ち消した。


「恐らく、ここに描かれている部屋に設置されている魔導具を動かす為に必要な特別な魔晶石じゃろう」


 オジジはそう言うと二十面体が描かれている図の下に小さくメモされている箇所を人差し指でトントンと叩いた。


「コイツが『リーヴスラシル』とはな」


 え!?っという反応の私達にオジジは続ける。


「わしは若い頃ノエル国の東に位置する孤島にある遺跡へ行ったことがある。そこにここ程ではないが地下に遺跡があったんじゃ。何も使えそうな物は残ってはいなかったが数冊の古代語の本があった。エメラルドに渡したファントムと呼ばれる『ヴィーラント法』の原本らしきものもそこで見つけた」


 みんなが一斉に既に開いている私の特級ケースを見る。私はそこから『ヴィーラント法』を取り出すとオジジに渡す。オジジは『ヴィーラント法』の表紙をサラッと撫でるとそっと開き見返し(・・・)のかどに爪を引っ掛けべりっと捲った。


「「「あぁっ!!」」」


 みんなが驚いて声をあげる。


「何してんの?!オジジ……え?」


 捲られた見返し(・・・)に小粒のキューブが幾つか埋め込まれ複雑な回路が隠されていた。


「やっぱり魔導具だったのか」


 リュディガーがぼそりと言う。色々なことが一気に起きている状態に室内がピリつき静まり返る。その部屋の中にサクサクサクサクと何かを齧る音が響いた。


「ピッポ……」


 ベシッ!


「ッテ!だって、緊張感になんか居た堪れなくて」


 私の声かけと同時に船長が右手をふるった。モグモグとし頬を膨らませて言い訳をするピッポ。おかげで皆の金縛りが解けた。


「師匠は『ヴィーラント法』はどういう役目を持った魔導具だと思われますか?」


 既に皆には、『ヴィーラント法』が私の魔力に反応すると言う事が認識されている。質問した男爵も子爵あたりに話を聞き勿論知っているだろう。


「この本は基本的にエメラルドの魔力にしか反応せんようじゃ」


 オジジは話しながらそれを検証するように捲った所に手を当て魔力を込める動作をする。が、何も変化は無い。


「それはエメラルドが古代文明と関わりがあるということですか?」


 男爵の言葉にオジジが首を横に振る。


「古代文明の栄えていた頃と今の時代と魔力の扱いで違うことはなんじゃ?」

「魔力量!」


 師匠と崇めるオジジに良いところを見せようとしていた男爵よりも早く私は答えた。目があった男爵が悔しそうに睨んでくる。フッと笑っておいてやろう。


「はい!質問です。昔は魔力で外部へ魔術を行使していたっていうのは本当ですか?」


 私と男爵が無駄に絡んでいるとジーナが突然オジジに質問した。ただ男爵に付き従って……いや違うな。男爵をこき使う……とまではいかないけれど、うまく誘導してこの遺跡を発掘しているだけあって彼女も結構古代文明に造詣が深そうだ。


「あぁ、どうやら古代人は魔力を使い様々な事を行っていたと思われる。それは発掘される魔導具で証明されている」


 古代人は現代の人よりかなり魔力が豊富でそれを使い外部へ、例えば火を放ったり風を巻き起こしたり出来たらしい。つまりそれだけ強力な魔力を必要とする強力な魔導具も開発し使用していたとされている。

 何らかの理由で古代文明が滅び、僅かに残った現代人には何故か貧弱な魔力しか残らなかった。それでも生き残った人類の中の研究者が必死に開発し少ない魔力でも使用できる物が現代の魔導具だ。


「月まで行ったという話は本当なんでしょうか?」


 私と張り合っていた男爵がジーナに負けじと質問をする。


「どうじゃろうな?ハッキリとした文献は残っとらんから憶測の域をでんが、可能性は高いと思う。それと、魔力のことじゃが」


 オジジは私に心配そうな目を向ける。


「エメラルドの魔力は古代人のそれと同等のようじゃ。魔力量もそうじゃがどうも質も現代人とは異なるようじゃ」





 

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