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最近集中力がもたなくて困ってます。

 遠くから、あぁーという叫び声が聞こえて段々と近づいてくる。

 

「チッ、やっと気がつきやがったか」

 

 ジーナが忌々しそうに言うと同時に勢い余ったようにざざっと足を滑らしながら廊下を何かが通って行ったかと思うと直ぐに戻って来たのは男爵だった。

 

「わぁーもうー、ジーナ!ちゃんと言ってくれって言ったじゃないか!」

「私はちゃんとエメラルドが来たって言いました!男爵様が解読ノートに夢中で聞き入れなかったんです!」

 

 ジーナに睨みつけられた男爵はビクリと体を震わせるとぎゅっと口をつぐんだ。きっともっと何か言いたいんだろうけど、何を言ってもジーナの方が筋が通っていて敵わないのだろう。普段の力関係が見えるようだ。貴族と平民なのにおかしな関係だな。


「ゼバルド師匠、エメラルドが来たなら教えてくだされば良いではないですか」


 ジーナに敵わないと判断したのかくるりと体を返すと今度はオジジに不満の声をあげる男爵。っていうか師匠ってナニ?


「けったいな呼び方は止めて欲しいと申し上げたはずですが?男爵様」


 オジジは休憩は終わったとばかりに立ち上がると先ほど遺物を置いていた机がある部屋の奥へ歩いて行く。私も直ぐについて行ったが背後の気配に振り返ると棚の間の狭い通路に皆がぞろぞろとついてくる。勿論直ぐ後ろは守るようにいるリュディガーだけどその後ろから前に出たそうに男爵の顔がチラチラと覗く。


「ゼバルド師匠、私は師匠に師事することに決めたのですから師匠とお呼びする事は必然です」


 いつの間にか師弟関係になっていたらしい。押しが強いな、男爵。

 机にたどり着いたオジジは男爵の言葉を聞き流しているようで、無言でここに保管してあった方の例の遺物の前のイスに座った。私は隣へ座ると特級ケースを机の上に置く。


「良い?」


 オジジに尋ねつつ背後にいるジーナ、男爵、そしていつの間にか来ていた子爵とカイに目を向ける。さっき遺物が光った事はどうせジーナから既に子爵には伝わっているだろう。だったら何も隠すことはない。

 念の為収納してあったケースにいつもするように把手を握って魔力を込める。


「やはりか……」


 私が魔力を込めると同時にオジジの前にある遺物がボンヤリ光る。ケースを開き中から取り出した私の第一区分の遺物もやはり光っていて、そっと取り出すとオジジの前に並べて置いた。


「何なんですかそれは……?」


 男爵が震える声で問いかけているが誰にも答えることなんて出来ない。皆が黙ってその光景を眺めていると何処かからため息が聞こえてきた。


「はぁ~、ゼバルドさん、これを」


 それはカイだった。彼は薄い年季の入ったノートをオジジに差し出す。いかにも使いこまれたそのノートとカイを交互に見やったが、オジジは黙ったまま受け取ろうとしない。


「俺が一任されていることです。後で何か責任を負うことはありません」


 カイの言葉にオジジはもう一度念を押すように見た後ノートを受け取った。


「それはうちに代々伝わるものを纏めたものです」


 オジジは机の上にノートを置くとそっと開く。私はオジジにくっつくように体を寄せて一緒に中を見た。


 黙って読み進むオジジの背後から男爵、子爵が覗き込み、私の後ろにはリュディガーがいる。


「ノエル国ですか?」


 男爵がさっきのおかしな言動をした人とは思えない真面目な感じだ。


「ふむ」


 オジジはあやふやな返事しかせず、きっともう誰の声もほぼ聞こえて無いことがわかる。私もそのやり取り?を遠く聞きながらノートに書かれているものを読んでいった。


 そこにはノエル国にある遺跡の事が書かれてあった。

 国土の殆どが永年凍土に覆われ一年を通じて気温が低く、農作物は王都の周辺に僅かしか育たず食料の殆どを輸入に頼っている。希少な鉱物資源が国の北部の山岳地帯に埋蔵されていると言われているが採掘しようにも気候は厳しく岩盤も固いため思うように行かず長年困窮を極めている。

 そのノエル国にはほぼ手つかずの遺跡があるという。普段の生活がままならないのだから流石に遺跡発掘まで手が回らないせいだろう。日常的に使う魔晶石もクズキューブで間に合うのならそれほど必要でないのだろう。


 祖国を守る為に他国へ渡った者から細々と支援が続けられ何とか人々が生活している現状。その状態を打開する為にと支援者から様々な情報がもたらされているらしく、ノートの冒頭には国に繁栄をもたらすには遺跡が鍵を握るだろうという事が説明されていた。

 遺跡は長い年月をかけ少しずつ発掘され少しずつ研究が進められていたようだ。


 ノエル国最大の遺跡は北部にある山岳地帯にあるらしい。ノートの中で北部遺跡と呼ばれ、下部の半分ほど雪と氷に埋もれた遺跡全体の外観が描かれていた。


「他国の者ではこんな山奥まで辿りつけんじゃろうな」


 おおよその位置が示された簡易なノエル国の地図見てオジジが零す。気候が厳しいせいで発掘調査はままならなかっただろうが、その御蔭で守られてきた遺跡。それは険しい断崖絶壁に張り付くように建っている塔の様な物だった。遺跡全体を離れた場所から眺めた図と遺跡の直ぐ側から見上げるような角度で高さを強調するように描かれた図。その見上げた遺跡の図を見ているとざわりと寒気がする。


 私はこの光景を見たことがある。


 まだ私がパパやママと暮らしていたあの時。オジジとリュディガーに拾われるずっとずっと前の事だ。夢で見た、夢の中のはずの、現実ではないはずの光景。でもやっぱり夢じゃない!


「エメラルド!」


 リュディガーが私を支えるように後ろから両肩を掴んだ。


「エメラルド、魔力を抑えろ」


 オジジが私の頬に手を添え顔を覗き込んでいる。


「オジジ……わたし……」

「今は何も言わず深呼吸しろ。落ち着いてゆっくり話せば良い」


 心地よいオジジの言葉に意識を集中させて何度か深く呼吸すると肩にあるリュディガーの手に自分の手を重ねた。


「ここじゃ落ち着かないだろ。向こうの広い部屋へ行こう」


 ピッポがそう言って狭い通路にひしめき合う皆を誘導して行く。私も立ち上がり皆を送り出したピッポと並んで階段下の部屋へ向かう。


「ありがとう、ピッポ」

「良いって、俺もちゃんと話が聞きたかったからな。あそこじゃ一番後ろで何が並べられてて何が光ってるかも見えなくてな」


 ニカッと笑う顔を見たらこちらまで笑顔になってしまう。ホント良い奴だよ、ピッポ。



 丸いテーブルを囲みさっきのカイのノートを真ん中に置く。皆がそのノートに視線を向けているが無言の圧力というか、声なき声というか、私が話し始めるのをじっと待っているのがわかる。

 何から話せばいいのかわからず、口を開こうとしては閉じるを繰り返してしまう。


「エメラルド、焦らんでもいい。とりあえず間が持たんならそのノートの先を見ていけばいいだろ」


 テーブルにはつかず、少し離れた部屋の壁際にイスを置いて座っていた船長がぶっきらぼうに言った。


「え、あぁ……」

「そうじゃな、先ずはそうするか」


 私が戸惑っているとオジジがノートを引き寄せさっきの続きのページを開いた。


 

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