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私はてっきりオジジはあの正体不明の装置がある部屋にいるのだと思っていた。だけど予想に反して遺物保管室にいる。しかも船長の様子からちょっと見に来ただけとかいう訳では無いようだ。
オジジの隣に行くとその手元を見た。オジジはズラリと並んでいる棚から取り出したらしい遺物を部屋の奥の壁に引っ付けて置いてある机の上で調べていた。
「あれ?私のと似てる」
それは多面体で大きさも私が発掘した第一区分の特級遺物と同じ位だ。
「あぁ、恐らく同じ用途のものじゃろう。昨日これを見つけて宿へ帰る気にはなれんかった」
私の物と違い多少付着物が付いていたらしいが昨夜のうちにオジジが手持ちの薬品を使って綺麗にしたようだ。表面はつるりと綺麗になっているが形が似ているというだで一面一面に記号は無く色も黒っぽいだけだ。
「あなたも同じような物を持っているんでしょう?ちょっと見せてもらえない?」
私がいるのと反対側のオジジの横からここまで連れてきてくれたジーナが顔を出す。勿論私は特級ケースを肌見放さず持っていて、無意識にケースに触れながらオジジの顔を見る。
「かまわんじゃろ。わしも遺跡を存分に見せてもらったし、お前もそのつもりなんじゃろ?」
「オジジがそういうなら」
私はケースを机の上に置くと把手を握り魔力を込めるとケースを開いた。
「うわっ!」
ジーナが驚きの声をあげたが、それはここで保管されていた遺物と私が持っていたものが似ていたからだろうと思った。
「やっぱり似てるよね?」
オジジに問いかけたが反応が無い。不思議に思い顔を向けるとオジジが自分の手元を凝視している。え、なに?
釣られるようにそこへ目を向けるとほんのり蒼く光る遺物があった。
「ナニコレ!?光ってる」
自分の遺物と交互に見比べると同じようにほんのり光る二つの多面体。恐らく同じ二十面体だろう遺物は共鳴するかのように同時に光っている。さっきまでこんな感じじゃなかったのに。
「こ、これは……」
オジジも言葉を失い誰もそれ以上何も考えられないような雰囲気だった。無言でリュディガーも私のそばに来ると両肩を掴んで下がらせる。
「ちょ、ちょっとリュディガー、何するのよ?」
「危険かも知れない」
「ただ光ってるだけじゃない、大丈夫よ」
そう言い過保護者代表の彼の手を退けようとすると、私たちの会話で我に返ったのかオジジがおもむろに手元の遺物をそっと私の遺物から離した。何か意味があるのかと見ていたが変化は無くもう一度近付ける。
何度か試した後、今度はピタリとくっつけてみる。しかし変化は無くオジジの眉間のしわが深くなる。
「さっきまで何をしても変化は無かったのに何故今光ったんじゃ?」
独り言のようにブツブツとこぼす。みんなが黙って成り行きを見ていたがオジジが持っていた遺物を机に置き入り過ぎた力を抜くように息を吐いたその時、
「なぁエメラルド、オヤツ持って来てくれたか?」
声に振り返ると開け放たれたドアから顔を出したピッポに気が抜ける。
「子爵様のいる部屋にあるでしょ」
リュディガーとサイラが昼食やオヤツを運んでいたはずだ。多分オジジ達の数日分の食事も。
「助かったぁ〜。ここ料理するとこなくて、手持ちのオヤツもつきかけててさぁ」
ピッポの言葉を切っ掛けに少し休むことになった。温かい飲み物位は用意できるらしく、さっそくお茶を出してくれたがオヤツは持参の物を出された。
遺物保管室は棚がきっちり並んでいて余分な空間はあまりないが、両開きのドアを開け放ち廊下も使いつつ皆で適当にイスに座り一旦落ち着いた。
「まったく、ゼバルドの子守りをする日がまた来るとはな」
船長がピッポに出された細長いお菓子キューに齧りつきながら言う。宿の料理人に大量に作ってもらったのだ。これなら日持ちするし片手で食べやすいので船長にこき使われているであろう今のピッポに最適なお菓子だろう。味も色々取り揃えている。
「オジジの子守りってなに?」
何だかおかしな単語が耳につき思わず聞き返した。
「言葉通りだ。こいつは昔から遺跡や遺物を目の前にするとまわりが見えなくなるからな。若い頃は俺がずっと外で遺跡や遺物の研究をしている間は護衛代わりをしてやってたんだ」
フンッと機嫌悪そうに鼻を鳴らしているが若干の楽しげな雰囲気がこぼれる。これは若干だな。
「わしは頼んどらんかったし、それによって得られた遺物を売っぱらかって莫大な収入を得たじゃろ」
「当たり前だ。護衛は金がかかるもんだ」
あまり詳しく聞いたことはないがどうやらオジジと船長はメルチェーデ号に乗る前から長い付き合いがあったらしい。船長が船長になる切っ掛けもオジジが関係してそうだ。回収船と遺物は切っても切れない繋がりがあるからね。
「それ以上余計な事を口にするならお前の昔の話もせねばならんぞ」
口止めするかのようなオジジの言葉に船長が舌打ちをする。お互いに脛に傷持つ身らしい。二人とも若かりし頃は随分女を泣かしたとか泣かされたとか。私にしてみればオジジが若い時なんて想像がつかない。私が小さい時からオジジはずっとオジジだからね。
「それよりオジジ。さっきのはどういう事だと思う?」
ちょっとほっこりして気持ちを落ち着かせたが、私の遺物とここの保管室に置かれていた遺物が同じ様に光りだした事は皆がずっと気になっていることだろう。
「ふむ。恐らく共鳴と言って差し障り無いじゃろが、何故あのタイミングだったのか……」
「特級ケースを開けてすぐだっけ?近づけたからって事じゃないの?」
「いや共鳴には色々条件が必要じゃ。ただ近づけただけで共鳴してはこの部屋の遺物はそこらで誤作動を起こすはずじゃ」
確かに遺物というのは本来厳重に管理された箱なり場所なりで保管されるもので、この部屋のようにやや出入り自由な所などあり得ない。遺物というのは時に魔力に触れると暴走する可能性があり、ある種危険な物で……魔力……は?!そういえばさっき私が使ったじゃない!
「エメラルドの魔力じゃないか?」
「そう!私も今そう言おうとしたのにぃ、ピッポ台無し」
「おぉぅ、こういう事は早いもの勝ちって決まってんだよ」
ピッポは頭に浮かんだら直ぐに口に出すクセがあるからほぼ同時に私と同じ答えにたどり着いたようだ。
「やはりそれしかないか……」
オジジも既にその答えにたどり着いていたかのようにボソリと零す。
「オジジもそう?だったらとりあえず私がこの部屋にある遺物に端から魔力を込めていけば何かわかるんじゃない?」
立ち上がり遺物が並べられている棚に向かおうとしてガシッと肩を掴まれる。勿論リュディガーに。
「何が起こるかわからんものに魔力を込めるなんて馬鹿か!」
「馬鹿じゃないもん。それくらい知ってるもん。だけどここにある遺物の中に私の魔力に反応するものがほかにあるなら結局確かめなきゃいけないじゃない!」
「うぐっ、そ、そうだが、それにしたってやり方があるだろ!片っ端から魔力込めるとか現実的じゃない!」
ぐぐっと睨み合う私達にオジジが小さくため息をつく。
「まぁ落ち着け。どちらにせよ先ずはこの第一区分の遺物の事を調べるのが先じゃろ。危険な物ならこの地下から出しておく方が安全じゃからな」
確かに。もし爆発でもしたらここが崩れて私達はみんな瓦礫に埋もれてしまうだろう。
そう考えるとちょっとゾッとした。
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