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オジジは解読した文じっくりと見た後に私に問いかける。
「解読はこれで全部か?」
「う〜ん、多分かな。今分かるところは全部、という言い方があってるかも」
「それは何故じゃ?」
「これが魔導具ならただ文字を残して解読させる為だけの物とは思えない。高度な技術を使った古代文明のものなんだよ」
子爵が驚いたのか少し目を見開く。『ヴィーラント法』が解読しただけで終わるものだと思っていた、というより私がそこに気がついていたという事に対する驚きな感じだな。
「ふむ。それで、ここに示されている場所についてはどう考えている?」
『見ることは出来ないが入ることは出来る』
本(魔導具)の著者(製作者)であろうコンスタンが残したなんとも気の抜ける解読文の中の第一ヒント。すっごくすっごく振り回されている気がするがこれを見て放っておけない事に悔しさが込み上げる。きっとコンスタンの思う壺にハマっているんだろう。コンスタン……?ってどこかで聞いたような……
「俺思うんだけどさ」
急に黙って聞いていたリュディガーがノートを指差しぼそっと言う。
「これってあの遺跡みたいに地下にあるんじゃないか?外側は土に埋まってるから見えないけど中には入れる」
「あらそうねぇ」
「地下じゃと?なるほど、『古代遺跡保存の会』は上手く隠しておるわけじゃな」
オジジと私はリュディガーの言葉にふんふんと頷いていた。メルチェーデ号でも私とオジジが解読をしている時にこんな風にリュディガーがぼそっと口を挟む事があり、それは私たちの考えを纏めたり整理する事に役立っていた。三人が揃ったことで所謂日常が戻ってきたような感覚がしてなんだかほっこりする。
「え?あの地下都市なのか?」
「なんと、まさか既に目にしていたと言うのか?!」
カイと子爵が一拍遅れてやっと反応出来たという感じだ。
「いや、あそこって言うよりアレみたいに地下にあるんじゃないかってことさ」
誤解のないようにリュディガーが言い直す。まさか解読を終えたところが答えの場所だったなんて偶然はありないだろう。
「じゃが確かめる価値はあるじゃろう。それで、案内して頂けるのでしょうかな、子爵様」
オジジが若干鋭い目つきで子爵を見る。これは流石に若干だな。オジジも早く遺跡を見たいんだね!
「だったら今からサッと行かない?」
「お前は行けないぞ」
リュディガーが言うのと同時に衝立の向こうからサイラがスッと出てくる。いや目つきが怖いって。
「どうしてエメラルドは駄目なんじゃ?」
何とか口止めしようとする私にサイラが有無を言わさぬ圧で抑え、リュディガーとカイがここ数日の事を事細かに説明しだす。
すぅっと息を吸い込んだオジジは眉間にしわを寄せ私にベッドに入るよう静かに言った。こんな顔をするオジジに逆らえない私は黙って言うことを聞いた。
直に起き上がるつもりだったのにいつの間にか眠ってしまった私が目を覚ましたのは昼を少し過ぎた頃だった。気配を察したのかサイラが部屋に入ってくると私を見てホッとするように微笑む。
「朝よりずっと顔色が良いですわ。お食事は召し上がれそうですか?」
「うん、お腹減った」
まだ少し起ききってないが空腹は感じる。元気な証拠だよね。
部屋から出るといつもなら聞こえてくるはずのざわざわとした話し声は聞こえず嫌なくらい静かな食堂に到着するとリュディガーが一人で居た。
「エメラルド、食べられそうか?」
どうやらリュディガーも食べずに待っていたらしく横に並んで一緒に食べ始めた。
「ねぇ、オジジは?」
「もちろん行ったさ。残ってるのは俺とお前だけだ」
「ズルい。なんでピッポまで!」
「アイツは船長の手下だぞ。船長が来たら側にいるだろ?」
「遺跡に興味無いくせに」
「興味ないから別に楽しんでもいないさ」
私の愚痴をクスクス笑いながらリュディガーが手を伸ばし頬を拭ってきた。
「ついてるぞ」
食べながら腹を立てているといつの間にかソースが飛んでいたらしい。
「自分で出来る」
手を振り払おうとしたけれど触れられないまま彼の手は引っ込められた。こっちは睨んでいるのに優しい目で見返され力が抜けてしまう。
「明日は行けるさ」
「絶対ね」
今すぐにでも遺跡に行きたい気持ちは本当なんだけど、リュディガーとこうして二人っきりでゆったりと過ごすのは本当に久しぶりで……遺跡に行くのは明日でもかまわないと思った。
のは本心だったんだけど、まさかオジジが遺跡に泊まり込むだなんてありえない!!
泣きそうなほど切ない気持ちで一夜を明かすとさっそく早朝に遺跡に向かう準備を始めた。結局昨夜はオジジと船長とピッポは帰って来なくて、少しでも早く出発したくて皆を急き立てたのだ。
「気持ちはわかるがな、エメラルド。淑女というものはいついかなる時も落ち着いて行動するようにと教えたはずだが?」
呆れ顔の子爵は苦言を口にしながらも準備を済ませると馬車に乗り込んだ。しかもあまり目立ちすぎるのも良くないと馬車を一台にするため私たちも同乗させてくれる。オジジ達が遺跡に向かった時に乗っていた馬車は森の中へ密かに待機させているらしい。
「だけどよくオジジ達が泊まる部屋が用意できましたね?っていうか、泊まれるなら私も最初からそこにいれば良かったんじゃないですか?」
迂闊な私の言葉に隣に気配を消して座っていたサイラがピクッと反応する。貴族様の馬車に同乗するなんて烏滸がましいと思っている様子だったが私から目を離す事ができないと誓った気持ちを優先したようだ。
「宿泊が可能だとはいえ女性が滞在できるものではないぞ」
子爵が呆れながらも答えてくれたが、遺跡には男爵の他にジーナという私とそう年がかわらなそうな少女がいた。恐らく二人は遺跡に住み込んでいるのだろうから貴族的には無理でも平民なら耐えられるレベルなんじゃないだろうか?男爵は貴族なんだけどちょっと変人だから大丈夫なのだろう。
話をしているうちに森に到着、前に来たときと同じ道をたどり遺跡に向かう。途中で護衛を待たせておくのも同じで今回はサイラもともなって遺跡入り口から階段を下へ下りていく。きっと色々な疑問を感じてるであろうサイラは私についてくるという決意を貫くためにそれ以外はガン無視を決めたようだ。サイラ偉い!苦労かけるね。
「オジジ!」
階下に行きつくとさっそくオジジを探し始める。あらかじめ私が今日来ることは予想済みだったようで、例の階段下の部屋にはジーナが待機してくれていたらしく、顎でこっちだと示しながら私を連れて行く為に各ドアの鍵を次々開けると遺物を保管していた部屋へ向かった。
子爵は最初の部屋の休憩室で待機し私とサイラとリュディガーが部屋へ入る。
「オジジ!酷い置いてくなんて」
「エメラルド、早いの」
オジジがチラッと私を見て鼻で笑う。そこには船長もいたが狭い空間にイスを置いて偉そうにふんぞり返りながらお茶を飲んでる。
「エメラルド、挨拶くらいせんか!まったく」
確かにその通りなのでとりあえず「おはようございます」とだけ言うとすぐさまオジジの傍に向かった。
「オジジ何かわかった?」
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